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第23話 聖女が率いる狂気のアホ集団

◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


「なんですか? その集団は?」

僕は耳を疑った。まさか異世界にまで、そんな奇妙な連中がいるとは――。


警備隊長が深刻そうに報告を始める。

「『鞭打ち苦行者集団』という集団でして……神の試練を自らに課すことで、信仰を証明しようとする連中です。自分で自分の体を鞭打ったり、互いに鞭を打ち合ったりしているようで……」


「なんだって……そんな変態ドM集団が……」

思わず口を滑らせる僕。いや、だって普通に考えておかしいだろ。

でも前世の中世ヨーロッパでは、ペスト流行の時期に似たような鞭打ち苦行者の集団が社会問題になったというどうでもいい世界史の情報をなぜか覚えていた。


警備隊長は困ったように咳払いをした。

「それが、南の都市国家群で流行していたムーブメントとして、ついにバームベルクにもやって来たのです」


「なるほど……流行と言うか、厄介なブームだな」

困惑する僕に、隊長の声もどこか歯切れが悪い。


「重傷者とかは出ていないのか?」

僕の前世知識によれば、中世ヨーロッパの苦行者が使っていたああいう鞭は鉄のトゲとか仕込んであって、普通に流血沙汰になるはずだ。


「それが……音は派手ですが、怪我しにくい特殊な鞭らしく……」


うん? それって、もしかして……SMの鞭じゃないの?

まさか異世界にまで輸入されてるなんて……。誰だよ、こんなものを持ってきたのは?


「……まあいい。一度、実際にその集団を見に行ってみるか」


怖いもの見たさという気持ちもあって、僕は、街へ繰り出す決意をしたのだった。


連中は噴水広場にいた。

普段なら大道芸人や楽師が集まって、のんびりと文化の香りを漂わせる憩いの場。

……のはずなのに。


その一画を、鞭打ち苦行団が完全に占領していた。


「エム様!」「エム様ーっ!」

群衆の声援が飛ぶ。その中心に立つのは――眼鏡をかけた女シスター。


「……あれ? 第2話に出てきた“お漏らシスター”じゃない?」

僕は目を細めて確認した。異世界でメガネ装備の人間なんて数えるほどしかいない。見間違えようがない。

しかも名前が“エム”って……そのまんまかな?


「本当ですね。あの“BLシスター”です」

隣のエルザまで冷静に指摘してきた。僕の記憶が正しかったことに、逆にショックを受ける。


案内してくれた街の司祭が説明してくれた。

「あのシスターは“神の道を問い直す”と申して旅立ったのです。そして……苦行団のリーダーとして帰ってまいりました」


……問い直した結果がそれ!? 神様もびっくりだよ。


「エム様! それでは、どうぞ!」

「……ええ、かかってきなさい」

シスターが祈るように跪いた瞬間――。


バチィィンッ!


鋭い鞭の音が広場に轟く。

「あっ♡」

可憐な声が漏れるシスター。


「……喜んでますよね」

エルザの冷徹なツッコミが入った。


「うん。セリフに“ハート”が付いてるもん」

僕も呆れるしかなかった。


「エム様! 私にも試練を!」

「いいでしょう。神の試練をお受けなさい!」


バチィィン!

「ウヒッ!」


……ウヒってなんだよ。もう完全に公開SMショーじゃないか。

信仰とか、どこへ行ったんだ?神はこれを望んでるのか?


僕はなんとも言えない気持ちで、広場の光景を眺め続けるしかなかった。


「さあ! みなさん!」

エムシスターが両腕を広げ、噴水広場に響き渡る声で叫ぶ。

「神の試練を体現することで、天国への扉は開かれるのです! 苦行団への参加は自由です! 共に――天国への扉を開きましょう!」


……何が天国の扉だよ。どう見ても開いてるのは性癖の扉だろ。

僕は心の中で盛大にツッコミを入れる。


「聖女エム様に祝福を!」

「聖女様! エム様ーっ!」


広場中から歓声が飛び交う。

え? 変態シスターが“聖女”? どんな世紀末だよ。


なのに群衆は熱狂している。信仰の炎っていうより、変態カルチャーの熱気だ。


……いや、これマジでまずいんじゃないか?

この“鞭打ちフェスティバル”ムーブメント、バームベルクに根付いちゃう勢いなんだけど。


僕は頭を抱えながら、どんどんカオス化していく広場の様子を眺めていた。


ーーーー


僕は大急ぎで大聖堂へ向かった。

重厚な扉を押し開け、権威の象徴――大司教の部屋を訪ねる。


大司教は教皇庁から派遣されてきた人物。バームベルクの教会においては絶対的な権威だ。


「大司教殿。鞭打ち苦行団――あれは異端集団ではないのですか? 異端を放置するなど、教会として許されないでしょう」


普段なら、異端だろうが異教だろうが、わりと寛容なのがバームベルクのスタイル。

けれど、あの変態パフォーマンスは別だ。宗教の看板を掲げている以上、これは教会の領域だ。

僕は単刀直入に、あの連中を取り締まって欲しいと訴えた。


だが、大司教の反応は想定外だった。


「侯爵閣下。仰ることはごもっとも……ですが、枢機卿の中にも、すでに苦行団へ帰依してしまった方がおられましてな。我らもどう扱えば良いのか、苦慮しているのです」


「……は?」


枢機卿。教皇に次ぐ高位聖職者。

そんな連中が、よりによってあのドM集団にハマってるって?


……やっぱり腐敗してるじゃねーか、この教会。


「……わかりました。つまり、教会の力では取り締まれないと」


もし下手に動けば、今度はバームベルク領が教会と正面衝突する羽目になる。

そんなシナリオ、悪魔伯爵としては嫌いじゃないけど――侯爵としては頭痛の種でしかなかった。


僕は額を押さえ、現実のややこしさに頭を抱えるしかなかった。


僕はエルザとくノ一たちに命じ、ドM鞭打ち苦行団の行方を追わせた。

尾行の結果、彼らは郊外の潰れかけの教会を宿舎代わりにしているらしい。薄汚れた祭壇、割れたステンドグラス、そして何より人目を避けられる立地——格好の隠れ家だ。


「とりあえず、アイツらを秘密裏に排除する方向で動こう」

僕は短く命じた。日中の広場での恥ずかしい騒ぎを見てしまった以上、放置するわけにはいかない。


夜。僕たちは教会の外壁に沿って近づいた。月は雲の合間に隠れ気味で、気配を消すにはちょうどいい。だが壁の向こうからは、とんでもない声がもれてくる。


バチィィンッ!

鞭がはじける音。続けて――

「あふん♡」「ウヒッ!」としか表現しようのない嬌声が漏れる。昼間のあの公開ショーを見たはずなのに、夜になってもテンションは最高潮らしい。飽きないのかよこいつら。


窓から覗くと、鞭だけで飽き足らず、奇妙な木馬や蝋燭まで用意している始末。場面があまりにもカオス過ぎて、僕もエルザも思わず顔を見合わせた。


「さあ! 早くこの雌豚に試練を!」

広間のど真ん中で、エムらしき聖女が大声でおねだりしている。お祈りのポーズを決めつつである。こいつらの世界はどうかしている。


(何だこれ……想像の斜め上を行くぞ)

(ちょっと想像以上ですね)

僕とエルザ、ほとんど同時に呟いた。


合図とともに僕はくノ一たちに手振りで指示を出した。


くノ一たちは忍び足で屋根に回り、窓という窓に次々と小さな煙玉を投げ込む。

「な! なに!?」と内部の叫び。混乱が瞬時に広がる。


鞭を振るっていた者も、蝋燭を弄っていた者も、いきなり立ち上がれない。煙が薄く白いベールを作り、呼吸が浅くなっていく。やがて目を擦りながら、メンバーが次々とふらりと膝をつく。


「眠り薬入りか……さすが用意周到だな」

僕は冷めた声で呟いた。エルザが小さく頷く。


煙を吸い込み、意識をなくしていくドM集団のメンバーたちを見下ろしながら次の指示を出す。


秘密のドアプレートを使った転移扉を開き、僕は教会とディアブロ邸をつないだ。

こうすれば、苦行団のメンバーを次々と瞬間移動で運び出せる。効率は抜群だ。


「さあ、どんどん回収しろ!」

くノ一たちが無駄なく動き、次々と苦行者を転移させていく。


僕は最後にシスター――エムを担ぎ出そうと近づいた。

その時、うっかり頭をよぎったのは場違いな感想だった。

(こいつ……なんかえっろい雰囲気してるんだよなぁ……)


そんな余計なことを考えていた隙に――。

「失礼します」

くノ一たちが素早く彼女を拘束して、あっさり運んでいってしまった。


「……いや、僕が運ぶ予定だったのに!」

ちょっと悔しい。


ーーーー


やがて苦行団はディアブロ邸内で目を覚ます。

全員、互いの様子がわからないよう個室に隔離済み。

さらにお約束の「死にかけのセミ」――セミファイナル体勢で拘束してある。


館内放送をオンにした。

「フハハハハ! 我が名は悪魔伯爵ディアブロ!」


「ディアブロ伯爵! あの……本を返して!」

おい、まだBL趣味は続けてんのかよ。煩悩まみれの聖女様だな。

しかも“あの本”って言い方、信者たちには秘密にしてるんじゃないか?


「お漏らシスター、いや、ドM聖女よ!」

僕はわざとらしく笑う。

「まだ分かっていないようだな。信仰とは自らが神と対話するもの。他人に自分の趣味を押し付けるなど、感心せんな! 今日は貴様らの信仰心がどれほどのものか、この悪魔伯爵が試してやろう!」


悪魔伯爵が信仰を語るって、意味不明なシチュエーションだが……まあノリで押し切る。


「――発動! ディアブロ式苦痛システム!」


その瞬間、各部屋に無表情なゴーレム軍団が現れた。万能型の頼れる部下だ。

「こいつらは無表情で責苦を与える! 淡々と、ノーリアクションでな!」


だいたいこういうの、一人でやっても楽しくないんじゃないか? という僕の発想を実験してみたのだ。

受け役と攻め役がいて初めて成立する……そんな疑問を検証してみた結果――。


しばらくして、全員があっけなく脱落した。

「うう……無反応じゃ……つまらない……」といった調子で。


「なるほどな」

僕は腕を組み、うんうんと頷いた。

「反応してくれる相手がいないと面白くないんだ。攻め役と受け役がラリーを続けてこそ成立する遊び……一つ勉強になった」


学んだところで役に立つ気はしないけど。

こうして僕は、どうでもいい知識をまたひとつ増やしてしまったのだった。



こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。

とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪

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