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第21話 悪役令嬢?いいえマナー芸人ですわ!

◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


「――第1皇子の婚約者が、バームベルクに来ると?」


家令の報告に、僕は思わず眉をひそめた。

また面倒な案件が転がり込んできたな……。


婚約者といえば、宮中伯という有力貴族の娘だったはずだ。どうしてわざわざ辺境まで?


「皇子は来ないのですか?」

「それが、婚約者お一人だけのようでして。供の姿も見えず……おそらくは皇子の怒りを買い、追放されたのではないかと」


なるほど。いわゆる“悪役令嬢の追放ストーリー”か。

僕はそんなメタい感想を心の中でつぶやいた。


「婚約者は領内のホテルに滞在する意向のようですが……当屋敷の別邸にご案内しますか?」


うーん。下手に首を突っ込むのは本意じゃない。だが皇子絡みの件は面白い展開になりそうな気もする。

……ここは乗るか?


「ええ、是非。当家にお招きしましょう」


こうして僕は、また騒動を迎え入れることになった。


その婚約者令嬢がどういう立ち位置にあるのか、僕はさっそくエルザたちに調べてもらった。


「――皇子は最近、男爵令嬢にご執心でして。正妻となる婚約者を追放しようと画策しているようです」


エルザは淡々と報告を続ける。


「しかも婚約者に対して、『追放を撤回してほしくば――ディアブロ伯爵を殺せ』とまで言ったそうです」


「そんな無茶苦茶な……!」

思わず声を上げてしまった。婚約者に暗殺依頼を課すなんて、完全にイカれてるだろ。


「宮中伯の令嬢であるからか、そんな醜聞を父親に相談できるはずもなく……結局、一人でバームベルクまでやって来たようです。こちらで冒険者を雇うつもりなのでは?」


……なんか、可哀想になってきた。

きっとか弱い令嬢が、理不尽に“悪役ポジション”を押し付けられて追放されたんだろう。


――そう、僕は勝手に思い込んでいた。


ーーーー


僕は追放令嬢を屋敷の別邸に迎えた。


「はじめまして。宮中伯の娘、ジャンヌです」

「ハインリヒ・フォン・バームベルクです。ようこそお越しくださいました」


礼儀正しく挨拶を交わした……その直後。


「早速ですが侯爵閣下――」

「はい? なんでしょうか?」

「お迎えいただいたのは感謝いたしますが、迎えに来られた使者のマナーがなっておりませんでしたわね」


「……はい?」

思わず聞き返す僕。


「今回は内密の来訪ですから、目立たぬようにと配慮されたのでしょうけれど、普段からあれでは侯爵家の信用に関わりますわ」

「はぁ……」

「そもそも宮中伯令嬢である私に接する際の作法が――」


そこから延々と始まるマナー講義。

なんだこいつ、マナー講師か? ここは皇帝の宮殿じゃないぞ。


「――ということなのですが、お分かりいただけましたか?」


やばい。全然聞いてなかった。


「な、なるほど。非常に勉強になりました。なあ!」

後ろに控える執事へ視線を飛ばすが……困った顔を返されるだけ。おい、助けろよ。


それにしても、僕は侯爵で主人。客人の立場でその態度、完全に逆じゃないか?


結局その後、食事に移ったが――


「料理の順序が違います」

「食器の組み合わせが良くないですね」

「席順はどうなってますか?」


……もうダメだ。

なんというか、姑。完全に姑である。

僕はただひたすら辟易していた。


ーーーー


地獄の会食がようやく終わり、僕は自室に引きこもった。


「エルザ〜! なんなのあれ〜!?」

思わず泣き言が口からこぼれる。


「マナーに厳しい、という情報はありましたが……あれほどとは思っておりませんでした」

「それ、めっちゃ重要な情報だよね!? 先に言ってよ!」


正直、あれじゃ婚約破棄も時間の問題だろう。

「だって第1皇子ってさ、自分の直属騎士団を女だけで編成させて、裸鎧なんて着せてさ。しかも『くっ殺せ!』って変な掛け声までさせるような変態だよ? そんな変態と、あんなマナー鬼令嬢がうまくやっていけるわけないじゃん!」


「まあ……変態という点ではご主人様も大概ですが、あれはさすがに行きすぎかと」

「ぐっ……」痛恨の一撃をくらった。


「まあ、あそこまでいくとまさに悪役令嬢だよね。多分、皇子がお熱の男爵令嬢とやらもジャンヌ嬢にいじめられたんじゃ無いの?」

僕は素直にそう思った。


「ところがそうでもなかったらしいです。男爵令嬢もヤられたらやり返すタイプだったらしく、泥沼のキャットファイトに発展したとか」

なにそれ、ちょっと見てみたかった。


「それにしても、いつまで居座るつもりなのかな〜。できればディアブロ領まで来ないで、そのまま帰ってほしいんだけど……」


僕は深いため息をつきつつ、余計な厄介事に首を突っ込んでしまったことを、心の底から後悔していた。


ーーーー


翌日。

ジャンヌ嬢は冒険者ギルドに出向き、ディアブロ邸まで同行してくれる冒険者を探していた。


……のだが。


「なぜ、誰も紹介できないのですか!?」

窓口でジャンヌ嬢が声を荒げる。


「報酬やすい、怪我の補償はない、旅費自腹……まだありますけどぉ?」

受付嬢のピエラが、完全に喧嘩腰で返していた。


……ていうか、無口だったあのピエロ、ずいぶん自信つけたな。


「そもそも、この任務は皇帝陛下のご嫡子、第1皇子殿下のご希望によるものなのです! 誇り高い任務でしてよ!」

ジャンヌ嬢が胸を張る。


いや、それは冒険者には通じないよ。

彼らが動くのは“報酬”と“やりがい”だけ。どっちも欠けてりゃ、そりゃ誰も来ないわな。


「じゃあ、第1皇子殿下の書状でもお持ちいただけますかぁ?」

「ぐぬぬ……それは……」

「それか、せめて報酬を上げてくださいよぉ」


「とにかく! この条件ではお受けできませんから、お引き取りくださ〜い!」


受付嬢の一喝に、そのまま尻尾を巻いてギルドを後にしたのだった。


ーーーー


その夜の晩餐では、珍しくジャンヌ嬢は大人しかった。


「……私、なんでこんなことになっているのかしら」


お? これはついに反省モードか?


「なんで世間は理解してくれないのかしら。そう思いません?」


……ん? いやいやいや。自分が悪いとは毛頭思ってないなコレ。


「失礼ですが、ジャンヌ嬢にも反省すべき点はあるのでは?」

恐る恐る、僕は切り出してみた。


「はい!? なにをおっしゃっているのでしょうか? なぜ私が反省しなければならないのですか? そもそも――」


やばい。また長い説教タイムの始まりだ。

僕はさりげなくエルザに合図を送り、ワインを注がせる。


「まあまあ。今日はお疲れでしょうから……早めにお休みください」


「そうです……わ……ね……」


言葉の途中で、ジャンヌ嬢はカクンと首を垂れ、そのまま眠りこけた。

ワインに仕込んだ眠り薬が効いたらしい。


「食事中にお休みとは……マナーがなってませんな、ジャンヌ嬢」


皮肉を口にしながら、僕は眠る令嬢を肩に担ぎ、ディアブロ邸へと続く転移陣へと歩き出した。


ジャンヌ嬢が目を覚ますと――そこはディアブロ邸名物。

両手両足をバタつかせたまま固定される「死にかけのセミ(通称セミファイナル)」のポーズで、椅子に縛り付けられていた。


「な、なんですの〜!? この体勢はぁ!?」

叫ぶジャンヌ嬢。そりゃそうだ、誰だってこの姿勢で目覚めたら腰を抜かす。


「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」

「ディ、ディアブロ伯爵!?」


まさか目の前にターゲット本人が現れたことで、令嬢は完全に混乱していた。


「この扱いはなんですの!? レディに対して、これはマナー違反ですわ!」


……自分でレディって言うな。淑女はそんなに口うるさくないからな。

僕は思わず心の中でツッコむ。


「知らんな、そんなマナー。ディアブロ領は辺境も辺境。独自の風習で動いておる。宮廷マナーなど通じぬわ!」


もちろん嘘だ。住民がいないから“風習”なんて存在しないだけだ。


「我が領地で最上の“もてなし”を見せてやろう!」


僕は高らかに宣言した。ジャンヌ嬢の顔が見る見るうちに青ざめていく。


僕とエルザがコミカルな動きで部屋に入ってくる。


「オカンがな、偉い人の名前を忘れてもうたんや」

「ほな一緒に考えようやないか」

「オカンが言うには――女騎士が大好きらしい」

「そら第1皇子やろ。自分の専属騎士団を女だけで固めた変態で決まりや」

「でも、統治は真面目で領民に不満はないらしい」

「ほな違うか」

「オカンが言うには――鎧に妙なこだわりがあるらしい」

「ほな第1皇子や。素肌に鎧を着せるのはあの変態の発案や、もっぱらの噂や」

「でも軍事に精通していて精強らしい」

「ほな違うな。あの騎士団、アホな訓練ばっかしとるからな」


……そんな調子で掛け合い漫才が繰り広げられる。


ジャンヌ嬢も大爆笑――するかと思いきや。


「……」


……あ、ダメだこの人。完全にツボが違う。

このままじゃ僕がスベったみたいになる。


「ええい、面倒だ! ゴースト軍団よ、やれっ!」


号令と共に、筆を手にしたゴーストたちがわらわらと出現。

ジャンヌ嬢の脇や足を一斉にくすぐり始める。


「ひゃ、ひゃひゃひゃ〜っ!」


耐えきれず、上品ぶった声が笑い声へと崩れ落ちる。

よし、これで漫才のスベりは誤魔化せた!


「こ、こんなマナー違反をしてしまうなんて……!」


……あ、人前で笑うのはマナー違反なのか。

めんどくせぇな、ほんと貴族ってやつは。


ジャンヌ嬢が一通り笑い終えた後、ふいに真顔になり、ポツリとこぼした。


「……さっきのお二人の掛け合いは、私に第1皇子殿下の愚かさを教えてくださるためだったのですね」


……え? そんなつもりは一ミリもなかったが。

まあ本人がそう思ってるなら、そのままにしておこう。


「そうだ! 貴様の婚約者の愚かさを、このディアブロ自ら教えてやったのだ!」


「……私、殿下の婚約破棄を受け入れます! そして――マナー漫才で芸能デビューいたします!」


「……う、うん?」

ちょっと何を言っているのか分からない。


「そ、そうか。大変な道だと思うが……まあ、頑張るが良い」


素直に応援できない気持ちを抑えつつ、僕はそう答えた。


そしてジャンヌ嬢が屋敷を去ったあと――。


「……あれで良かったのかな?」

「まあ、面白令嬢として生きていけるんじゃないでしょうか。知らんけど」


気づけばエルザの口調に、妙な語尾がうつっていた。


こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。

とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪

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