第20話 突破せよ!広告規制とディアブロ特措法
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
今日は冒険者ギルドとの意見交換会。
会場に現れたのは――ギルドマスターのカタリナ。そう、あの元暗殺者だ。
「昨今では高レベルの冒険者は北方へ活動拠点を移すことがトレンドとなっており……」
横に座っているギルドの財務担当者が、真顔で経営状況を語っている。
……いや、正直どうでもいい。冒険者の統計データなんかより、ディアブロの刺客になりそうな美女が何人いるかのほうが大問題だ。
そんな邪な思考にふけっていたとき――
「バーナナ!バナナ、バーナナ!
バーナナ!バナナ高収入!」
……え?
この異世界の場にまったくそぐわない、爆音の広告ソングが響き渡った。
僕の耳は確かに覚えている。前世の繁華街で、しつこく流れていたあの謎のリズム。
やっぱり……僕以外にも転生者がいるだろ、これ。
あまりにも悪いタイミングで割り込まれたせいで、流石にスルーできなかった。
「失礼。外のあの……広告? は何だろうか?」
僕の問いに、家令が眉をひそめて答える。
「最近、市内で大型馬車を使った広告が出てきまして。『アド馬車』と呼ばれております」
アドトラックじゃなくてアド馬車。なんか微妙に異世界ナイズされてるけど……絶対に変な転生者の仕業だろ、これ。
「……ああいうの、取り締まれないのか?」
僕がそう言うと、一同が困った顔になる。
「侯爵閣下。お気持ちは理解いたしますが、法律には明確な違反がなく……」
家令が苦々しい顔で首を振った。
そこへカタリナが口を挟む。
「広告よりも冒険者紹介業者の方が問題です。冒険者の力量に見合わない依頼を斡旋して、“未達成違約金”を高額で請求する悪質なものも出てきています」
「……そんな悪質な業者が?」
「ちなみに、違約金を払えなかった冒険者はどうなるのです?」
僕の問いに、ギルドの事務担当のオッサンが口ごもりながら答えた。
「……はっきりとは断定できませんが、どうやら新しい仕事を紹介するというの名目で、奴隷商人に引き渡されているらしく……」
「……はあ!?」
場の空気が一気にピリついた。
「私の領地では奴隷売買は禁止しているはずですが?」
詰め寄る僕に、事務担当は脂汗をかきながら弁解する。
「あ、あくまでも“借金の返済が終わるまで働いてもらう”という契約でして……奴隷契約とは言い切れないのです」
「……」
僕は深く息を吐く。
まさか妙な広告のせいで、こんな闇が明るみに出るとは思わなかった。
「対策は――別途考えるとしましょう」
意見交換会が終わり、会場には僕とカタリナ、それにエルザだけが残った。
「しかし……随分と法律に詳しい業者だね」
僕の疑問はそこにあった。
バームベルクは異世界といえど、一応は法律が整備されている。ならば素人があんな抜け道を次々と発見できるはずがない。
「最近ね。他国から“コンサルタント”とやらがやって来て、入れ知恵しているみたいなのよ」
カタリナが腕を組んでため息をつく。
「コンサルタント?」
「ええ。法律の抜け穴を指南して、業者にアドバイスする連中。……悪徳弁護士みたいなものよ」
なるほど。確かに弁護士なら法律にも精通しているはずだ。
だが――その知識で他人を嵌めるために使うなんて、まったく褒められたもんじゃない。
「……よし!」
僕は椅子から立ち上がり、声を張った。
「そのコンサルタントの事務所に行ってみようじゃないか!」
こうして僕は、悪徳コンサルタントの正体を暴くべく動き出すことにした。
ーーーー
悪徳コンサルタントは、どうやら弁護士として表向きに活動していた。
事務所の看板には大きくこう書かれている――
『法律が味方するのは法律に詳しい人です』。
為政者としては胸が痛むが、言っていることは確かに一理ある。法律の知識は武器になりうる。しかし、胸糞悪い。
僕とエルザは商人に変装して、新規顧客のふりをして事務所へ乗り込んだ。
「ようこそおいでくださいました」
呼ばれた相手は、予想していた太ったオッサンではなく、若い女性だった。黒縁メガネの奥に漂うのは、無駄のないドライな視線。笑顔に隠れた計算が見える。悪徳、濃厚。
「バームベルクで新規ビジネスを考えておりまして」
僕は商人役を演じ、口火を切る。
「どのような事業でしょうか?」
しまった。相手の問いに、血の気が引く。具体案、用意してないじゃん。
そのとき横でエルザがすっと一言。
「出版業です」
助かった!僕は心の中でエルザに手を合わせて感謝した。
「出版業ですか。良い選択ですね」
悪徳弁護士は目を細め、さも当然のように語り始めた。
「バームベルクは出版規制が緩く、非常にビジネスがやりやすいです。宗教関係も異端書であっても取り締まりの対象にはなりませんし、男性向けの…エッチ本も、女性向けのBL本も、問題なく出せますよ」
――ああもう、面と向かってそう言われると凹む。確かに書店にエロ本が山積みになっているのを見るが…。
その後、僕らは名目のビジネス話を続けながら、彼女の口ぶりから法律の穴や運用の隙間を洗い出していった。
彼女の言葉は、まるで設計図のように抜け穴を示している。
ーーーー
今度はバームベルク侯爵として、正式に悪徳コンサルタントを呼び出した。
名目は「助言内容が法律に抵触している疑いがあるための尋問」。
だが彼女は、どこか余裕たっぷりの笑みを浮かべて姿を現した。
「お目にかかれて光栄ですわ、侯爵閣下」
……その態度。どうせ“バームベルクの法律じゃ自分を裁けない”とでも思っているのだろう。自信にじみ出すぎてて、正直ムカつく。
「では早速。アド馬車についてですが、市街地での騒音規制に違反しませんか?」
法務官が真っ先に問いかける。
彼女は涼しい顔で答えた。
「たしかに、バームベルクの法律には市街地での騒音を禁止する条文がありますね。ですが――“騒音”の定義が明確でない。ゆえに、アド馬車が違法だとは言えないはずです」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
頑張れ、うちの法務官。気持ちはわかる。結局、奴隷売買的な契約も含めて疑惑については「明確な違反なし」という結論で終わってしまった。
だが、僕は最後に言った。
「彼女と別室で話がしたい」
二人きりになると、僕はあえて穏やかに切り出した。
「あなたのビジネスは確かに見事だ。だが――その知識を、もっと有効に使う気はないのか?」
彼女はメガネの奥の瞳を冷たく光らせ、淡々と答える。
「法律は弱者の味方ではありません。詳しい者の味方です。法律を使って商売するのに、何か問題がございますか?」
「本日はありがとうございました。それでは、失礼しますわ」
彼女がドアを開ける。だが――そこに広がっていたのは、バームベルク政庁の廊下ではなく、ディアブロ邸の館内だった。
「――なっ!?」
僕はすかさず背後から押し込み、彼女をドアの中へ放り込む。すぐさまドアプレートを外し、スキル【帰宅】を発動。
瞬間転移で、館主室へと舞い戻った。
さあて。ディアブロ領の法律は味方してくれるかな?
ーーーー
「なっ!? ここはどこなの?」
悪徳コンサルタントが震える声で叫ぶ。顔面の血色が急速に失われていくのが見て取れた。
僕はニヤリと笑ってから、ディアブロ伯爵の名乗りを高らかに宣言した。
「フハハハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
「え、私、さっきまでバームベルクの政庁にいたはずなのに!?」
彼女は動揺を隠せず、慌てふためく。
僕はぼんやり言う。
「そんなことは知らんな。我が屋敷に勝手に入るとは常識がない」
すると彼女は入口の扉を開けようとしたが開かない。
そして叫び声を上げた。
「ちょっと! ドアを開けてちょうだい! 拉致監禁よ!」
「うん? 悪いがここはディアブロ領だ。そんな法律は無い!」
だって、領民がいないんだから法律も何も関係ない。
「せっかく法律の専門家が来てくれたのだ、歓迎の意を表して初めての法律を制定しよう――『ディアブロ特措法第1条:ディアブロ伯爵に捕まった者の生殺与奪の権利は伯爵に属する』。どうだ?分かりやすいだろう」
彼女は半べそをかきながら反論する。
「そんな無茶苦茶な! 帝国法では、諸侯が法律を制定するときは住民の意見を聞かなければならないはずです!」
僕は笑ってから肩越しに冷静に言い放つ。
「うん? ディアブロ領の住民は我しかおらん。よって我の意見が住民の総意だ。これは完全に正当だな」
言い終わると、僕は扉を勢いよく開け放った。廊下へ飛び出す悪徳コンサルタント
「さあ、早く逃げろ。捕まえたら生殺与奪の権利はいただくぞ!」
僕は追うふりをしながら告げる。だが心の中では、逃げる彼女がどれだけ慌てふためくかを想像してニヤニヤしていた。
廊下の向こうで、彼女の足音がだんだん遠ざかっていく。
普通の冒険者ならなんて事のないうちのショボイ罠もいちいちビビってくれている。特に効果的だったのはゴースト軍団。
「ひ、ひぃ〜〜っ!来るな!」
意外と怖がりらしい。それとも恨まれている自覚があるからだろうか。
「泣くな! 『ディアブロ特別措置法・第2条:泣いたら財産没収』――今、制定した」
僕が告げると、ぴたりと泣き止んだ。
「……意外と律儀だな」
「法律には従順なようですね」
僕とエルザは顔を見合わせ、苦笑する。
やがて、悪徳コンサルは床にへたり込み、泣き声混じりに訴えた。
「ま、真面目な弁護士になりますから……ゆるしてください……!」
「ふむ……ならば『ディアブロ特措法・第3条:ディアブロ伯爵は証拠も裁判もなしに裁くことができる』だ!」
「わ、私はディアブロ領で何もしていません! 私は無実です!」
彼女は必死に言い訳をする。まあ、それ自体はそうなんだけど。
「ジャッジメント!
貴様は――『ギルティ!』 有罪だ!」
その言葉を聞いた瞬間、悪徳コンサルは白目を剥いてその場に倒れ込んだ。
ーーーー
その後、僕は悪徳コンサルをバームベルクの法律顧問として雇い入れ、法律の不備を是正して、怪しい商売を一掃することにした。
こうしてアド馬車に始まった悪徳コンサルタント問題は解決したのだった。
今回はオチがイマイチで自分的には納得していませんが、体調不良なのでご勘弁くだせえ




