第19話 ブンブン魔女と退職代行
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
前回、仲間になったくノ一軍団は――表向きは「パルクールサーカス団」としてバームベルク領で活動することになった。
宙返りや壁走りをショーに変換するあたり、さすがSAIZOUで鍛えられたくノ一たち。観客からは「新しいエンタメだ!」と好評らしい。
公演がない日はエルザによる隠密訓練。
「なんか裏の組織を抱えてるとかって、悪のフィクサーっぽくて良いよね」
僕がニヤけながら言うと、エルザは無表情で返してくる。
「ところで、ご主人様のダンジョンは……福利厚生施設ですか?」
最近のディアブロ邸は癒し要素が多い。
実際、くノ一軍団は余暇になるとアトラクション三昧で、温泉にまで浸かっている。
だが僕は知っている。冷静を装うエルザも――最近はこっそり温泉を利用していることを。……別に覗いてるわけじゃないからね。
ーーー
今日は退屈な視察だ。市場の責任者から新しい法律の説明を受けている。
「今回の市場の環境の向上に資するための措置は――」
しかし……この人、説明がくどい。
「なお、新法によって……」
まだ続くのかと思った、その時。
「ブンブンブブンブブンブブンブン!」
爆音が響き渡った。前世でも聞くことが減った暴走族のバイク音そっくりだ。
爆音が近づいてくる。見れば――バイク……じゃない。箒だ!
空飛ぶ箒にまたがった魔女たちが、暴走族のような格好で集団走行している。だが音はどこから鳴ってるんだ。箒にエンジンなんか付いてないだろ!?
「こら!ブルー!そんなことしてもベリーは戻ってこないよ!」
市場の女性が声を張り上げた。
「うるせぇババア!誰もアタイらを止められないのさ!」
暴走魔女たちは爆音をまき散らしながら消えていった。
僕は残された市場の女性に尋ねる。
「彼女たちをご存知なんですか?」
「ええ。あの子たちは、この市場で育ったようなものだからね」
「さっき、“戻らない”とか言ってましたが」
「……ベリーって子がいたんだよ。ブルーと一緒に飛んでたけど、ある日突然、箒に乗るのをやめちまってね。それからブルーが荒れちまったのさ」
ふうん。事情はあるにせよ、暴走行為は褒められたもんじゃない。
僕はなんとなく、ベリーと呼ばれる子がどうしているのか気になった。
そこでパルクールサーカス団を訪れ、くノ一軍団に新たな指令を出すことにした。
エルザとも相談した結果――人探しなら研修にもなるし、ちょうどいい。
「元暴走族のベリーという娘について調べよ!」
忍者のように片膝を立てて控えるくノ一軍団へ、僕は悪役じみた口調で指令を下す。
「はっ!」
くノ一たちは声を揃えて返事。めちゃくちゃカッコいい。
「では行け!」
その合図とともに、彼女たちは音もなく散っていった……。
……これだよ、これ! なんか悪のフィクサー感があって最高だ!
「……あの、ご主人様?」
隣で見ていたエルザが冷ややかに口を開いた。
「感動しているところ悪いのですが、何度もリハーサルしてまでやることですか?」
理解はされなかった。
ーーー
人混みのざわめきのなか、くノ一たちは情報を集めていく。
「相当重い病気らしい」
「病名は家族にも伏せていたって聞いた。命に関わるのかもしれない」
「医者から『一生この病気と付き合っていく覚悟をしろ』とか『このままじゃ死ぬぞ』って言われてたらしい」
「姿を消したのは病気が判明してから。でも行き先は誰も知らない」
「ひょっとして、もう――」
医者に当たってみたが、個人情報保護の名目で門前払い。前世の日本かよ。
「医者を監禁して拷問をしましょうか?」
エルザさん、あなたさらっと怖いこと言うね。
「拷問術も学びたいです!」
お前たちまで乗るな、くノ一よ。
一般市民相手にそこまでやるのはさすがにやりすぎだ。
「それは却下で――もっと地道に聞き込みを続けよう」
結局、話はこう落ち着いた。ベリーが箒に乗れなくなったのが全ての発端で、失踪の理由もそこに深く結びついているらしい。
で、僕はひとつの案を思いついた。ベリーの名前で、あの暴走魔女軍団に「呼び出し状」を突きつけるのだ。
――ブルーへ
お前と決着をつけに来た。立会人はディアブロ伯爵。伯爵の屋敷で待つ。
ベリー
手紙を手渡されたブルーは仲間たちをかき集め、夜の空へと箒を走らせた。
ーーーー
さあ、恒例の屋敷レベルチェック。
今回の新装備は――
罠:とりもちLV2。
ネット状になったネバネバする網で、掛かったら最後、バタバタするほど深みにハマっていくやつだ。
モンスター:ゴーストLV2。
「亡くなった人の魂を再現できる」って説明を見て、僕は思わず首を傾げた。
……え、それってつまり“死んだ人を呼び出せる”ってこと?
ベリーの行方がわからない。もしかしたらもう亡くなっているのかもしれない。
半ば試すような気持ちで――ゴースト召喚、ターゲットは「ベリー」。
……出てきた。
淡く揺れる青白い光の中、箒に跨がる少女の幻影。輪郭はぼやけているけれど、その顔立ちは確かに聞き込みで聞いた“ベリー”だ。
「ということは……ベリーは、この世にもう……」
ーーー=
遠くからバイク――いや、箒の爆音が聞こえてきた。
いよいよ来るか……。待ち構える僕。しかし姿はまだ見えない。
音はどんどん大きくなり、ようやく、夜空の彼方に黒い影が見えた。
「騒音ひどすぎだろう!」
思わずツッコミが口をつく。
ーーーー
「フハハ!我が名は――」
ブンブンブブンブンブンブン!
「うるさい!名乗りを上げてる時くらい静かにしろ!」
僕の抗議に、リーダーのブルーが仲間を制した。
「だってよ。お前ら静かにしてやれ」
仕切り直して僕も名乗る。
「我が名はディアブロ!悪魔伯爵ディアブロだ!」
ブン!
……誰だ今ふかしたの!? 今日はなんかやりにくい。
ブルーが声を張り上げる。
「伯爵!ベリーはどこだ!?」
「お前たちの仲間のベリーとは、この者のことか!」
ギィィ、と屋敷の扉が開く。そこに現れたのは――箒に跨ったベリー。だがその身体は青白く透けていた。
「ベリー!? お前、その姿は……!?」
暴走魔女軍団が息を呑む。
「我がお前たちのために呼び出してやったのだ!」
僕が胸を張ると、ベリー(ゴースト)が口を開いた。
「ブルー。あんたとの決着が心残りだったのさ」
ブルーが口角を上げ、挑発的に叫ぶ。
「最初の勝負は……マックスターンだ!」
“第1種目はマックスターンに決まりました!”
横でエルザがいつの間にか実況を始めていた。ノリノリか。
マックスターンとは――タイヤを空回しさせてアスファルトに円を描く、道路管理者泣かせの暴挙。
……って、おい。箒でどうやって円を描くんだよ!?
ブオーーン! ブオン!
二人の箒が宙で唸りを上げる。すると、ありえないことに――地面にくっきりと円が刻まれていった。
“こ、これは……! 引き分け! 引き分けです!”
実況のエルザが興奮気味に叫ぶ。
第一競技は、まさかの痛み分けに終わった。
「ブルー! 腕上げたじゃねぇか!」
ベリー(ゴースト)が満足そうに言う。
「ベリーに追いつくために、ずっと練習してきたんだぜ!」
ブルーが胸を張って答える。
……ていうかさ。もっと役に立つスキルを身につけようよ。
◇
「第二競技はディアブロが指定しよう! それはチキンレースだ!」
ベリー(ゴースト)が指を突き出す。
“第二競技はチキンレース! 崖や壁に向かって走り、ブレーキをどこまで我慢できるかを競います! 良い子は真似しないでください!”
実況エルザの声が響く。
「全員でかかってきな!」
ベリー(ゴースト)が挑発気味に笑う。
ゴールはトリモチLV2のネットだ。
「ゴー!」
一斉にトリモチネットへ向かって突っ込む!
「ブルー! あんた怖いのかい?」
ベリー(ゴースト)の挑発が飛ぶ。
「ぬかせ!」
ブルーがさらに加速。
その時、事件が起きた。――なんとベリー(ゴースト)は、トリモチをそのままスルーしてしまったのだ!
“い、一体何が起きたんでしょうか!?”
実況エルザの声が裏返る。
僕は冷静に肩をすくめる。
「まあ、ゴーストだからね。すり抜けたんだと思うよ」
結果――ブルー暴走団は全員、見事にトリモチの餌食となった。
「フハハハハ! 貴様らの暴走バイク(箒)で迷惑しているのだ! これは没収だ!」
僕が勝ち誇ると、暴走魔女たちは悲鳴を上げる。
「やめてくれ! バイク(箒)はアタイらの魂なんだ!」
その時だった。
「待て!」
庭に響く声。そこには――バイク(箒)に跨ったベリーの姿。しかも、実体を持って。
「う、うん? 生きてる? うちのゴーストは……?」
振り返ると、ベリー(ゴースト)は音もなくスゥ……と消えていった。
……あのやろう。
“死んだ人間の魂を再現”ってなんだよ。生きてるじゃねーか!
◇
「ベリー! 無事だったんだね!?」
仲間たちが駆け寄る。
「病気は大丈夫なのか?」
「――ああ。ついに世界魔女協会が開発に成功したんだ!」
ん? どこかで聞いた名前だな。
「第5話の魔女です。痔の」
エルザが淡々と解説する。
ああ、そうだった。お尻の悩みを解決するためにエリクサーを作っていた、あの魔女か。
「じゃあベリーが失踪した理由って……」
「まあ、完治したから言うけど――痔だよ」
……やっぱりか、この展開。
お尻の悩みは言いにくいだろうけど、秘密が徹底しすぎだろ。
「見せてくれよ!」
「いいよ!」
おいバカ! こんなところで尻を見せるな!
と思ったら、ベリーが腰ポーチから小瓶を取り出した。なんだ薬か。胸を撫で下ろす。
僕は素早く【鑑定】を発動。
――エリクサー(お尻の悩み専用)。
うん、確かにそうだ。
「これで遠くまでツーリングに行けるな!」
ベリーが高らかに叫ぶ。
「オオオーッ!」
仲間たちの声と共に、魔女暴走族は空へと走り去っていった。
◇
「そういえば」
僕はゴーストLV2を召喚しようとした。例の“死んだ人間の魂を再現”について問いただすためだ。
だがウインドウには、見慣れぬメール着信マークが表示されていた。
――『モンスター退職代行のモーヤダーです。この度、ゴーストLV2さんの依頼で……』
あのやろう。逃げやがった。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




