第18話 くノ一には湯煙がよく似合う
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
バームベルクの街に、突如として和風の建物が建った。
「なにあれ?」
「東の方の文化をコンセプトにした宿屋らしいです。温泉というものがあるそうで」
「温泉!?」
僕は思わず叫んだ。まさかエルザの口からその単語が出てくるとは!
異世界転生の先輩たちが「温泉は必須」とか「和食が恋しい」とか言ってるのを、正直バカにしてた僕。
でも今なら言える。異世界に和の心は必要です!
「温泉行こう行こう!今すぐ予約!」
「……わかりました」
やったぁ!
――そして当日。
「で、これ何?」
「ご主人様ご希望の温泉ですよ」
そこは大浴場でも露天でもなかった。
水着みたいなサウナウェア着用の――サウナ。
「これじゃない……」
心の底から落胆した。
気を取り直して夕食だ。浴衣に着替えて食事の間へ。僕はすっかり上機嫌になった。
だが、隣のエルザはというと――。
浴衣の裾のスリットがやけにセクシーに見える。太ももガン見の僕にツッコミが来るかと思いきや――
「……」
やけに天井をじっと見ている。
「どうしたの?」と聞くより早く、彼女はナイフをシュッと投げた。
天井から飛び降りてきたのは――忍者? くノ一!
天井に溶け込んでいたカメレオンみたいな奴だ!
「待て!」
エルザは即座に浴衣から刺客モードにチェンジ。浴衣の下のどこにアサシン装備を隠してたの? という僕の疑問は置き去りのまま、くノ一を追って庭へと消えた。
残された僕はぽつん。
「お客様、どうされましたか?」
給仕の女性がにっこり微笑んで尋ねてくる。
「いやぁ……ちょっと飛び入りの客がいてね。連れが対応してるから大丈夫」
適当に誤魔化す。
「それではお茶でもお淹れしましょう」
女は静かに茶器を並べる。
「……ねえ、キミも飲みなよ」
「えっ?」
「いいからいいから。それとも――変な薬でも入ってるから飲めない、とか?」
僕がニヤリと笑うと、女の表情が凍った。
「……よくわかったね」
一瞬で着物を脱ぎ捨て、艶やかな忍装束へと変わる。
二人目のくノ一、登場である。なんだ今日は祭か?
「さすが、ディアブロ伯爵とつながりのある男ね」
……ん? 僕のことをディアブロだと気付いたわけではないのか。
「で、僕の命を狙ってどうするつもり?」
問いかけに、くノ一はにやりと笑った。
「私たちの目的はディアブロの秘密。あんたには眠ってもらって、くノ一軍団のアジトに連れてって、秘密を喋ってもらう予定だったのさ」
「な、なに!? くノ一軍団のアジトだと!?」
……それ、もっと早く言ってよ! 行きたいじゃん! くノ一が大勢いるの?
僕は思わず、彼女の正体を見破ったことを後悔した。
その時――。
「ご主人様!」
もう一人を追っていたエルザが戻ってきた。
「ふふ……ディアブロに伝えておきな。あんたの秘密は、くノ一軍団が暴いてみせるよ」
そう言い捨てると、くノ一は煙のように姿を消した。
えっ……? なにそれ……来るの……?
くノ一が軍団で? 大勢で……?
僕の心は大興奮。来る。我が家に女子が大勢で来る。
「おのれ! ご主人様に血を流させるとは!」
エルザが怒りに燃える。
「だ、大丈夫だよ! 怪我なんてしてないし!」
「ですが……顔から血が!」
……しまった。くノ一軍団というパワーワードに興奮しすぎて鼻血を出していた。
「こ、これは……温泉でちょっとのぼせただけ!」
必死に誤魔化したけど、エルザの疑いの目は鋭かった。
ーーー
「さて……恒例のアンロックチェックだ」
僕は屋敷のシステム画面を開く。
――ピコン!
今回解禁されたのは、こんなラインナップだった。
罠:温泉掘削機
“近くの源泉を掘り当てる。温度や湯量も調整可能。癒し効果抜群”
「……おいおい、ダンジョンのはずなのに癒し方面に極振りじゃない?」
思わずツッコミを入れてしまう。
さらにもう一つ。
モンスター:コンプライアンスモンスター
“事前にコンプラ関係のチェックをしてくれる。企業に一人欲しい人材”
「これ、どうやって攻撃するかわからないけど……まあ一人くらい召喚しておくか」
――というわけで、今回の迎撃は「温泉掘削機」と「コンプライアンスモンスター」で挑むことになった。
***
「ご主人様、くノ一軍団が来ました」
「フハハハハ! よくぞ来たな! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
「裏切り者め! 私たちを捨てた恨み、ここで晴らす!」
……え、誰のこと? 僕と間違われてる人、なんか相当恨まれてるんだけど!?
「奥の部屋で待っている! 今回はこれだ!」
ババーン、と扉が開く。
そこに広がっていたのは――僕が前世でテレビで見たような、巨大アスレチックコース。
「こ、これは……! SAIZOU!?」
くノ一たちがざわめく。
「ああ。里の祭りで一番のアトラクション――SAIZOUだ!」
……え? 僕が前世のものを真似て作っただけなのに、こっちの世界にも似たようなやつあるの!?
「よし! 全員で完全制覇と行くよ!」
「おお〜っ!」
くノ一軍団は何やら燃えている。こうして彼女たちの挑戦が始まった。
「まずは巨大な壁だ!」
お約束の、そびえ立つ巨大ウォール。
だが――。
「はっ!」
「せいやっ!」
くノ一たちは軽々と壁を駆け上がり、あっさり超えていった。
「ぐぬぬ……ならば次は回転する丸太橋!」
だが――。
「ふっ……」
「ほいっと」
クルクル回る丸太を、何事もなかったかのように渡りきる。
「くっ……次は回転ロープウェイ! 掴んで落ちずに渡りきれるかどうか!」
「おー! 気持ちいい〜!」
「風が涼しいね!」
普通に遊園地アトラクションみたいに楽しんでクリアしてしまった。
……気づけば脱落者ゼロ。全員が悠々とゴールしている。
「ちょっと……難易度調整、失敗じゃないですか?」
エルザの冷たい一言が胸に突き刺さる。
さらに追い討ち。
「なんか……本家SAIZOUの方が難しいよね」
くノ一軍団からの辛辣な感想。
「完全制覇! よくやった! お前たちには褒美をやろう!」
僕が声高に宣言すると、くノ一軍団の眼前に現れたのは――湯けむり立ち上る露天風呂。
「おお〜!」
彼女たちは目を丸くして歓声をあげた。
「さあ! 本物の温泉を堪能するがいい!」
「……どうする? 罠かな?」
「いや、罠じゃない気もする」
「でもディアブロの秘密を探るには行くしかないんじゃない?」
彼女たちはひそひそと相談している。
……というか、その“ディアブロの秘密”って結局なんなの? 僕も知りたいんだけど。
「伯爵。折角だから温泉楽しむよ」
そう言ってくノ一軍団は脱衣所へ。
すると館主室のモニターが切り替わった。
おっ? 脱衣所も――と思ったら、画面は一面のお花畑に切り替わった。
「は?」
横を見ると、コンプライアンスモンスターが腕でバツ印を作ってこちらを睨んでいる。
「……コイツ、まさか僕を取り締まり対象にするとは……!」
結局モニターに映ったのは露天風呂。くノ一たちはすでに水着に着替えていた。
そこで僕も気合を入れ、水着姿で露天風呂に登場する。
「フハハハハ! 我が名は悪魔伯爵ディアブロ!」
――が、反応がイマイチ。しーん。
「ご主人様……仮面を……」
エルザの囁きで気づく。しまった! 風呂だから仮面を置いてきちゃった! 素顔丸出し!?
「……あれ、違う人だよね」
「善良侯だ」
「バームベルクの領主だ」
バレてる。
「残念ながら! お前たちの探している裏切り者とやらではないのです」
話し方を悪魔伯爵と善良侯のどっちに寄せるか迷走。変な敬語が出た。
「ミスターSAIZOUじゃない?」
「うむ。それが誰かは知らんが違う」
僕が答える。
「人違いだよ! ディアブロがオッサンだって言ったの誰だよ!」
なんかくノ一軍団の中で責任の押し付け合いが始まってしまった。
「……よければ話は聞くけど?」
結局、くノ一達の話を聞く羽目になった。
「私たちの忍者の里にはね、SAIZOUと呼ばれる究極の試練があるんだ。それを完全制覇するのが、里の忍者の夢だったんだよ」
くノ一軍団は真剣な顔で語り始めた。
「でね、完全制覇を目指す仲間に、ミスターSAIZOUと呼ばれるおっさんがいたんだ」
「おっさんは10年以上チャレンジし続けるレジェンドでさ」
「レジェンドって言っても……制覇できてないんだよね?」
「で、オッサンも限界を感じて引退宣言して里を出ちゃったんだ」
「そしたら里のみんなも飽きちゃってさ。SAIZOUの定期開催は打ち切りになっちゃったんだ」
「だからオッサンに戻ってきてほしくて」
「うん? でもなんで僕をミスターSAIZOUと誤解したの?」
「オッサンの本業はマッサージ師なんだよ。でも、そのマッサージが変な方法でさ。伯爵が変なマッサージをするって聞いたから、正体がおっさんじゃないかと思って」
「実際、帯回しで体調が良くなったくノ一もいたしね」
ああ。第7話で皇女の護衛に来てた子か。
「で、結局なにが目的なんだ?」
「オッサンに戻ってきてもらって、SAIZOUをまたやりたいんだ!」
……なんだよコイツら。あんなに執拗に追いかけてきておいて、ただのアスレチックマニアかよ!
「そこで伯爵にお願いがあるんだけど……」
「私たちを雇わない?」
「その代わりに、あのSAIZOUっぽいコースを使わせてほしいんだ」
「できれば温泉も!」
図々しい! くノ一軍団!
「ご主人様。正体がバレていますから、彼女たちの申し出を断るのは危険かと」
エルザの冷静な指摘に、僕は頭を抱えた。
確かに……善良侯の趣味が“悪魔伯爵ごっこ”だなんて広まったら終わりだ。
「ねえ伯爵! 秘密にするからさ〜!」
くノ一軍団は目を輝かせておねだりしてくる。
「……わかった、わかった! 裏にアスレチックと温泉を作っておくから!」
「やったぁーっ!」
「その代わり、密偵としての訓練はここにいるエルザから受けてね。君たち体術は一流でも、諜報スキルは微妙。人違いで大騒ぎしてるし」
「ええ〜」
こうして僕は、くノ一軍団にアスレチックと温泉を提供することになった。
でも、代わりに優秀な密偵候補を雇い入れられたのも事実。
……結果オーライ、かな?
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




