第12話 叫べ!ブラック傭兵団!
◾️ディアブロ
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「名刺交換させてください!」
街角で、不意に声をかけられた。
振り返ると、スーツ風の鎧に身を包んだ若い女が、にこやかに差し出してきたのは――名刺?
……異世界なのに?
「なんだこれ。ブラック企業の新人研修か、はたまた詐欺か?」
面白そうだったので、僕はポケットから偽造した名刺を取り出して交換してみる。
――『悪魔伯爵ディアブロ家コンサルタント(自称)』とか書かれてる怪しいやつ。
すると彼女の名刺にはこうあった。
『ブラック傭兵団特殊作戦チームマネージャー補佐代理』
肩書きが無駄に長い!
ていうか補佐の代理ってなんだよ。もう存在がエラーだ。
詳しく聞こうとしたら、女はもう次の通行人に声をかけていた。営業回りか?
エルザが隣でひそひそ声。
「ご主人様、最近“女だけの妙な傭兵団”がこの街に拠点を移したそうで」
ああ、つまりこれか。
気になったので、さっそく様子を見に行ってみることにした。
――傭兵団の朝は早い。
朝五時半、まだ鳥も眠たげに鳴く時間から活動開始。
「仕事に対して!感謝の気持ち!」
「団員は家族!同僚は兄弟!」
「できないは嘘つきの言葉!」
団員たちは声をそろえて謎の社訓(?)を絶叫している。
異世界なのに完全に社畜研修。いやこれ、魔王軍より怖いんじゃないか?
黒光りする鎧を着た2人が壇上に立ち、あからさまに幹部オーラを放っている。
残りは下っ端団員。つまり一般社員ってことか。
「おいお前!先週の営業成績が未達だった理由を言ってみろ!」
「はい!私は飛び込み営業ができなかったことが原因です!」
「そうだ!じゃあどうする!?」
「はい!今日からは担当者が出勤する前に自宅へ押しかけて営業をかけます!」
「よし、それだ!できないと言う前にやれることをやる!わかったな!」
「はいっ!」
……。
なんだこれ。
前世にあったブラック企業ですら、ここまで狂気じゃなかったぞ?
僕は心底ドン引きした。
ーーーーーー
僕の領地の中で、あんな怪しい連中に好き勝手うろつかれては困る。
……よし、排除だ。
僕は変装を整え、ブラック傭兵団の本拠地へと足を運んだ。
建物に入った瞬間、目に飛び込んできたのは、死人みたいな顔で机に突っ伏す団員たち。
――と思いきや、僕の姿を見た瞬間。
「いらっしゃいませーー!!」
「らっしゃいませー!!」
びくっとした。
声デカっ!さっきまで死んでたのに!?
「モンスター退治から護衛まで、荒事全般承ります!ブラック傭兵団へようこそ!」
「ようこそー!」
一斉に笑顔で復活。
なるほど、客がいるときだけ元気そうに見せかける……ブラック企業あるあるだ。
その中のひとりが小走りでやってきた
あ、こいつこの前街角で声をかけてきた子だ。
近くで見たら……目の下のクマがひどい。完全に徹夜明け。
「しっ!声が大きい」
「は、はい」
僕は声を潜めて、懐から皇帝家第一皇子の紋章をチラリと見せる。
「実は……とある“やんごとなき方”の密命を受けている。ぜひ傭兵団“全員”でやってもらいたい大仕事なのだ」
大袈裟に言ってやると、奥から金属音。
「――お話は、私が伺います」
黒い鎧の女がゆっくり歩み寄ってきた。
すると、例の肩書きだけ長い平団員が彼女がすがりつく。
「団長!先月の目標が未達だった私に、この案件をやらせてください!お願いします……!」
しかし団長と呼ばれた女は、一瞥すらせずに素通りした。
――察した。
これは「目標を達成させない」ことで団員を永遠に罪悪感漬けにし、マインドコントロールしている。
使い潰しても「自己責任」と言い張る、究極のブラック企業システム。
胸糞悪い……!
僕は懐から、黄金の詰まった袋をそっと覗かせた。
「費用は依頼主――殿下から預かっている。必要なら書き付けもある」
懐から取り出したのは、皇子の署名入りの正式文書。もちろん偽物だ。
だがパッと見は本物そっくり。
女団長の鋭い視線が、僕の手元に注がれる。
空気が張り詰めたのを確認してから、僕は低く告げた。
「――ターゲットは、ディアブロ伯爵。彼の殺害を依頼したい」
今まで腕利きの刺客を何人も送ったが、すべて失敗。
だからこそ、今回は組織的に動ける傭兵団に頼みたい……と、もっともらしい説明を加える。
「さらに殿下からは、伯爵邸にある財宝も好きにして構わぬと伺っている」
にやり。
もちろんウソだ。僕の館に“財宝”なんて存在しない。
これまで侵入者から奪ったガラクタ――ピエロの赤鼻、臭いブーツ、計算ドリル……そんなゴミしかない。
「……わかりました」
女団長は短く言い放ち、契約書にサインした。
これでブラック傭兵団は、堂々と僕の館へ遠征にやってくる。
ふふふ。全力で迎え撃って、潰して、まとめて解散に追い込んでやる。
悪魔伯爵ディアブロの、最高に楽しいお仕置きタイムの始まりだ。
ーーー
ブラック傭兵団が来る前に――まずは屋敷のレベルチェックだ。
さて、今回アンロックされた新要素は……
「トレッドホイール」
……って言われてもピンと来ない人が多いだろう。
要するに、ハムスターが走る回し車の人間版だ。
囚人や奴隷が中で走らされるやつ。前世の世界で実際にあったみたいだ。
……いや罠じゃないよね?
続いてモンスター枠。
「ガイコツ剣士」
おおっ、名前だけ聞けば頼もしい!剣士!ガイコツ!厨二心をくすぐる!
……と思ったが、説明文を読むと。
『見た目はめちゃくちゃ強そう。けれど実際は弱すぎる』
……。
いや、どうしてそうなる。
こっちは切り札が欲しいのに、なんで毎回ネタ枠ばっかり来るんだ。
まあいい。
トレッドホイールとガイコツ剣士――
このしょっぱい布陣で、ブラック傭兵団を解散に追い込んでみせる。
ーーーー
「ご主人様。傭兵団が来ました」
エルザの冷静な報告が、戦闘開始の合図になった。
まず――ズウウウン!轟音。
奴らはいきなり破城槌で正面門をぶち破ろうとしていた。
「やめろー!カギ開いてるのにー!」
僕は慌てて叫ぶ。
なんだ、城攻めイベントと勘違いしてるのか?
ガシャーン!
分厚い扉は粉砕され、ブラック傭兵団が雄叫びを上げて全軍突入。扉修理しなきゃ。
「……罠とか、警戒しないのかな?」
「今まで脳筋スタイルでやってきたので、何も考えられないのでしょう」
エルザがさらりと言う。
やばい。頭を使わない敵ほど厄介だ。
――カタカタカタカタ……!
広間に続く扉の前。
背後から響く怪音。振り返ると、そこにはガイコツ剣士軍団がずらり。
見た目だけは勇猛果敢、地獄の門番といった風格。実際は弱いのだが...
「さあどうする?」
僕がほくそ笑んだ瞬間、女団長が叫ぶ。
「お前たち!足止めをしな!」
「だ、団長……!我々だけでは無理です!団長達も!」
「無理は嘘つきの言葉だよ!」
「……わかりました!傭兵団は家族ですからね!」
……なんだその社畜精神。
次の瞬間、団長と副団長はあっさり一般団員を捨て駒として見捨てて、さっさと次の部屋へ。
「家族」とか言った直後に、だ。
やっぱりブラックだな、この傭兵団。
次の部屋。
そこには、黒い暗殺者スタイルのエルザが立っていた。
「来たな」
女団長と副団長が同時に斬りかかる。だが――キィンッ!
瞬く間に剣は弾かれ、二人は武器を失って硬直した。
勝負は一瞬で決まった。
「くっ……!」
二人は踵を返して逃げ出そうとする。だが、その行く手を僕が塞ぐ。
「ふはははは!我が名はディアブロ!悪魔伯爵ディアブロだ!」
「なっ……!」
「くそっ!」
「お前たちは我が命を狙った。ただでは帰さんぞ」
僕は心のどこかで、定番の“くっ殺”を期待していた。
が――こいつらの口から飛び出したのは。
「悪かった!間違いだったんだ!この通り!助けてくれ!」
即・命乞い。
さっきまで“できないと言うのは嘘つき”とか無茶を強要してたくせに、部下を捨てて自分だけ助かろうとするとは……胸糞悪い。
「ふはははは!今宵は悪魔に魂を捧げる日。どちらかの魂を差し出せば、もう片方は解放してやろう」
そんなものはないのだが、ちょっと試してみたくなった。
僕の宣告に、女団長は即答した。
「こいつの魂を差し上げます!」
「はぁ!?責任者は団長だろ!団長が犠牲に――!」
「何だと貴様!?」
「そっちこそ!」
案の定なすりつけ合いが始まる。
「ふはははは!貴様らの言う“家族”とは、そんな軽薄なものか!?」
僕が手を打つと、重々しいカーテンが開いた。
そこに現れたのは――さっきガイコツ剣士に突撃していった一般団員たち。
生きていたのだ。
「これがブラック傭兵団の真実だ!」
僕が告げると、団員たちは冷めきった目で二人の幹部を見つめた。
「転職希望者は、この後個別に相談に乗るが……どうする?」
その問いに――全員が一斉に手を挙げた。
「さて……残ったお前たちだが」
僕はにやりと笑う。
「『仕事に対して!感謝の気持ち!』……だったな?」
「そ、そうだ!働くってのは……喜びだ!」
強がる二人に、僕は高らかに告げる。
「ならばこれで、好きなだけ労働するがいい!」
合図とともに、ガイコツ剣士たちが例の“トレッドホイール”を搬入する。
巨大な回転歯車。人間サイズのハムスター車輪。
「いやだー!」
叫んでも無駄。
団長と副団長はガイコツに無理やり押し込まれ、延々と走らされる。
「ふはははは!お前たちの傭兵団と同じく、意味のないムダな仕事を定時関係なく続けるのだ!」
終わりなき強制労働の幕が開いた。
――――
こうしてブラック傭兵団は壊滅した。
一般団員たちは「ハローワーク・ディアブロ」から優良求人を紹介され、無事にホワイト企業へと転職していった。
一方、団長と副団長は……。
ひたすら続けたトレッドホイールのせいで、搾取する側だったのが立派な社畜に変わっていた。
「24時間働かせていただけて……幸せです……」
今まで団員に強要してきたことだ。自ら体現できて彼女たちも幸せだろう。
でも僕はごめんだ。
「うちの領地では、働き方改革は最重要政策だからな」
僕はしみじみと思う。
こうして“ブラックすぎる傭兵団”は、歴史から姿を消したのだった。
今週1週間お疲れ様でした。ブラック企業は滅ぶべし!と願う作者です。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください。




