第11話 殺人ピエロは照れ屋さん
◾️ディアブロ
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「カタリナとはその後どう?」
前回の話でエルザをライバル視していたあの女暗殺者カタリナ。2人の関係は変わったのだろうか。
「――あれからたまにランチに行く仲になりました」
エルザがさらりと言う。
「ちょっと待って。この前まで執拗に粘着されてたよね?」
「カタリナはギルマスになって私に“勝った”と思っているのでしょう」
なるほど。勝利宣言か。エルザはいつも通り冷静だ。
だが次の一言が、空気を一気に変えた。
「それより――殺人ピエロがご主人様を狙っています。情報源はカタリナです」
「カタリナがなんでそんなことを?」
「おそらくカタリナの後任として、ヤミースタッフから皇子のもとへ殺人ピエロが派遣されたのでしょう」
僕は思わず首をかしげる。
「ピエロって……男?」
「いえ。女であることは間違いありません。ただし素顔を見た者はいないそうです」
「詳しいね」
「大学の後輩なので。ちなみに在学中は“過去最高水準の隠密能力”と呼ばれていました」
「……手強そうだ」
「かなりの強敵です。今回はご主人様にも身の危険が――」
エルザの言葉を遮って、僕はゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう。男にはね……戦わなきゃいけない時があるんだ」
決め顔で言ってみせた。
「――カッコつけてますが、趣味ですよね」
バレてた。
ーーー
殺人ピエロは、ディアブロ領へ向かう途中にバームベルクへ立ち寄っているらしい。
できれば事前に様子を観察しておきたい――そう思った僕は、エルザと一緒に老夫婦に変装して街へ出た。
「そんなすぐに見つかるわけ……いた!ピエロじゃん」
速攻で発見。派手な衣装のまま、テラス席でのんびりランチを取っていた。
暗殺者のくせに、目立ちすぎだろ。
僕は思い切って接触してみることにした。
「ほっほっほ。こんにちは、ピエロさん。今日はどこかでショーをしてくれるのかな?」
「……」
返事はない。無視か? 気まずい。
「食事中に邪魔したかな?」
「……噴水広場……三時から……」
声ちっさ! ピエロなんだからもっと「ハハッ!」とかテンション高くしろよ!
「そ、そうか。じゃあ楽しみにしているよ」
僕とエルザは足早にその場を離れる。
「なにあれ?」
「いつもあんな感じです。ですが最高クラスの暗殺者ですよ」
……あんな格好で最高クラス?
ピエロみたいな目立つ衣装を着る必要、ある? 意味わからん。
ーーーー
「ぱち……ぱち……ぱち……」
まばらな拍手。
三時になり、僕とエルザは噴水広場へ足を運んだが、そこに広がっていたのは大盛況とは程遠い光景だった。
観客はちらほら。噴水前に立つのは――例のピエロ。
ジャグリングや玉乗りといった大道芸を期待していたのに、始まったのは宴会芸クラスのマジック。
ピエロが派手な格好で無言でつまらないマジックを披露する、というカオスな時間が流れていた。
(……これ何?)
(私もよくわかりません)
僕とエルザは顔を見合わせる。
やがて、地獄のショータイムが幕を閉じた。
僕は恐る恐る声をかける。
「約束通り見に来たよ。バームベルクの街はどうだね?」
「……いい……街の人の反応がいいから……」
え、あれで“いい”の?
「そ、そうか。それはよかった。次に行く街は決まってるのかい?」
「……ディアブロ伯爵領……」
――無人なんだけど。そんなところを行き先にすると、不審に思われるって考えないのか?手品を誰に見せるんだよ。
「おおそうか。それほど遠くはないが、気をつけて行くんだよ」
「……ありがとう……」
声ちっさ!
投げ銭箱に目をやると、ほとんど入っていなかった。しかも一番多いのは飲み物の瓶の蓋。
可哀想に思った僕は、いくらか硬貨を入れてやった。
「……ありがとう……」
小声で礼を言うピエロ。
こうして僕を狙うはずの殺人ピエロを、なぜか応援する形で見送ってしまったのだった。
ーーー
ディアブロ邸。
いつものように、僕は次なる刺客を迎え撃つための準備を整えていた。
まずは恒例のアンロックチェック。
「罠は……水鉄砲LV3」
説明書きを確認する。
“高水圧で攻撃します。どんな汚れも1発”
「……まあ、いいか」
水鉄砲の高圧ジェット
今回はこのラインナップで殺人ピエロをお出迎えだ。
ーーー
「ご主人様。殺人ピエロのお出ましです」
エルザの声に促され、モニターを覗き込む。
……本当にピエロの格好で来やがった。
「なんか芸を見せてくれるんじゃないよね?」
「おそらくは無いです」
その身のこなしは完全にプロの暗殺者。
ピエロは迷いなく屋根へと飛び移り、屋根裏の扉へ。
「……あんな入口作ったんですか?」
「プロ用に入り口を用意しておいたんだ」
殺人ピエロは屋敷の中を素早く進む。音ひとつ立てずに進軍。
そのまま寝室へ――。
そこに寝ている主人を見つけると、ピエロは迷いなく短剣を振り下ろした。
心臓を正確に一突き。確実に仕留める一撃。
「ぎゃああああ!」
響き渡る断末魔――そして、それに重なるように。
「ふはははは! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
寝台を見やるピエロ。その目に映ったのは……デコイ。
ベッドの上で寝ていたのは囮人形だった。
「くそっ! 出てこい、ディアブロ!」
おい、普通に声出せるじゃん。
「……あんな大きな声出せるとは知りませんでした」
エルザも素で驚いている。
「次の大広間で貴様を待とう!」
その宣告に反応し、ピエロは勢いよく扉を蹴り開ける。
そして広間――対峙する僕と、殺人ピエロ。
「アタシをここまで本気にさせたターゲットは初めてだよ」
……こいつ、仕事モードだと饒舌なのか。
妙に“いい女”っぽいセリフだけど、ピエロだからな。ムードが全部吹っ飛んでる。
「光栄だな。ではお前を打ち負かした初めての男になってやろう」
僕はとりあえずカッコつけて返す。
「ぬかせ!」
その瞬間、ピエロの姿がかき消えた。
気配すらも掴めない。暗殺者としての腕前は本物だ。
「コッチだよ!」
「ふふふ……どこを見てるんだい?」
「殺っちまうよ〜」
四方八方から声が飛ぶ。姿は見えない。
時折耳元で囁くように言ってくる
周囲を駆け巡り、幻惑するその様は――
(女の子が僕の周りを走り回り、挑発的に声をかけてくる……なんかエロくていい!)
……僕はこのシチュエーションに純粋に興奮していた。
キンッ!
ピエロの短刀が迫る。それを僕の剣で受け止める。
(あっぶねー!)
「よく防いだね……これならどうだい?」
キンッ!
再び短刀。僕は必死に剣で弾く。
(おおお!なんとかなった!)
「まだまだ行くよ……」
キンッ!
三度目。息が詰まる。
(やばい……このままじゃジリ貧だ)
「ふはははは! お前の居場所など、このディアブロにはわかる!」
僕は水鉄砲LV3を構える。神経を一点に集中し――放つ!
ブシャァァッ!
「きゃあーっ!」
高水圧の放水が殺人ピエロを直撃!
派手な衣装がびしょ濡れになり、ピエロはよろめいた。
だが放水を止めなかった。
高圧の水流に晒され続けたピエロの白塗りが、みるみる剥がれていく。
そこに現れたのは――ピエロではなく、可憐な顔立ちの少女だった。
「ちょっと可愛くない?」
「ええ。普通に可愛いですね」
エルザが素直に認める。そいういばエルザも素顔は見たことがないって言ってたな。
だが、いかん。見惚れている場合じゃない。
「――バインド!」
僕は特殊スキルで少女を拘束した。
「くそっ! 離せ!」
元ピエロの可憐な女は必死に強がっている。
「ふはははは! なかなか敵ながら見事であった!」
僕は素直に称えた。彼女の暗殺技術は本物だ。
「チクショウ……アタシの隠密術が破られるなんて!」
少女は唇を噛み、悔しそうに呻いた。
エルザが横から首をかしげる。
「実際、どうやって破ったんですか?」
「女の子の匂いかな?」
嘘。本当は転生者チートの“サーチ”を使いました。ウケ狙いで臭いとか言いました。
「……えっ? 匂いで? 変態ですか?」
エルザと元ピエロが同時にドン引きする。
しまった。冗談なのに引かれてしまった。
気を取り直して、僕は指を鳴らした。
「ふはははは! おしゃれなピエロのために、今日は用意した!」
ゴーレム(万能型)美容師モード起動。
鋏を持つアームが展開する。
「お前にはピエロ姿は似合わない! さあ――サロン・ド・ディアブロで生まれ変わるが良い!」
ゴーレムが器用なアームで彼女の髪を整えていく。鋏の音が小気味よく響き、ついでにメイクと衣装までトータルで仕上げていった。
そこに立っていたのは――紛れもない美女。
「……驚いた」
「こんな風になるんですね」
エルザも感心している。
さっきまでの暗いピエロ姿からは想像もできないほど、華やかで堂々とした美女がそこにいた。
「アタシ……自分に自信がないから、せめて格好だけは楽しくしようと思って……ピエロの格好をしてたんだ……」
元ピエロの告白。
いやいやいや。自信を持つためにメイクやファッションを工夫するってのはわかるけど……だからってピエロはないだろ。
「ふははは! お前は無理をしていたのだ」
「えっ?」
「無理をして偽りの自分を演じるよりも、自然な自分を上手く見せた方が良いのではないか?」
彼女の暗殺者モードのときの饒舌さは確かに魅力的だった。まあ、怖くてちびりそうになったけど。
「……そうか。これからは自然体で生きて行くよ」
「うむ。ならばこれは我が預かっておこう」
僕は床に落ちていたピエロの付け鼻を拾い上げた。今日の戦利品だ。
「ありがとう! 伯爵!」
元ピエロの美女は笑顔で手を振り、颯爽と帰って行った。
……と、そのとき。
ゴーレムが僕の袖を引っ張ってくる。
「ん? なんだ?」
手渡された紙に目を落とす。
――請求書。ドレス代、美容代、フルコース料金。
「……結構高いな」
こうして僕は、殺人ピエロの“生まれ変わり”に多大な費用を払う羽目になったのだった。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください。




