第10話 派遣社員の暗殺者は正社員希望
◾️ディアブロ
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「女の刺客が伯爵を狙っています。」
エルザがいつもの無表情で報告してきた。
やった!……と思ったのも束の間、なんだか元気がない。
「うん?どうかした?……まさか仕事辞めたいとかじゃ...?」
「いえ。私は正社員ですし、福利厚生にも満足しています。今度来る刺客のことで。」
「僕でよければ聞くよ」
珍しく歯切れが悪いエルザに、ちょっとドキドキする。
「実は……元同僚なのです。」
「同僚?」
暗殺者ってフリーランスとかじゃないの?
「闇の派遣会社ヤミースタッフで派遣スタッフとして、一緒の派遣先で働いていました。」
情報量が多すぎる。
暗殺者って派遣社員なの?
ていうかエルザがうちに来たのも、僕が「正社員どう?」って口説いたのが原因?
そういえば妙に福利厚生や有給休暇にこだわってたな……。
それにしても会社名ヤミー。安直すぎる。
「まあ元同僚なら、サービスして手加減してあげればいいんじゃない?」
「いえ、むしろ逆です。彼女は私をやたらとライバル視しています。
『あんたが正社員なんて間違い!』とか、
『この任務が成功すれば第1皇子に直接雇用で雇ってもらえる!』とか……とにかく絡んできます。」
あー、いるいる。
前世でもいたよな、やたらマウント取ってくるやつ。
プライド高いくせに僻みっぽいやつ。
「彼女の名前はカタリナ。大学時代から粘着されてます。暗殺学科で私が首席、カタリナが次席でした。」
「暗殺術って大学で学ぶの!?」
「当然です。ご主人様はご存じなかったのですか?」
知らねーよそんな教育制度
「で、そのカタリナは今どこに?」
「第1皇子のところに派遣されています。皇子からディアブロ伯爵の暗殺命令を受けたとか。」
「皇子に狙われる覚えはないんだけど。」
「皇子は第2皇女――元メスガキ殿下を溺愛していたそうです。それが伯爵に淑女へと矯正されてしまい、逆恨みしているようで。」
「めんどくさいシスコン殿下だな……。」
次の皇帝選挙では落ちてもらおう。
「カタリナ曰く、暗殺成功すれば派遣社員から直接雇用に切り替えると言われたそうです。」
「それでエルザにマウント取ってきたわけね。くだらない……」
「しかも今夜、襲撃に来るそうです。」
「襲撃予定まで喋っちゃうの!?」
「昔から私に関わると残念な子でしたので。」
なるほど。残念な子か。
「捕獲する側にエルザがいたら、挫折するかな? それともさらに粘着するかな?」
「……そこは粘着でしょう。」
「じゃあさ、エルザよりも恵まれてそうな仕事をあてがったら?」
「私に勝ったと思えば、ようやく粘着しなくなるかと。」
僕の中で迎撃方針が決まった。
ーーーー
早速、屋敷のレベルアップを確認する。
モンスターは――役者パペットがレベルアップした。
挑発機能つきで相手を誘導できるらしい。
……あれ、今回のガチャ当たりじゃない?
いや、がっかりなんてしてないけど。
さあ迎撃だ。
「ご主人様。カタリナ来ました」
エルザの報告で、作戦開始。
「おっ、いよいよか……って、あれ?なかなか来ないよ?」
「正面玄関から入ってくる暗殺者はいませんので。おそらく秘密裏に入れるルートを探しているのかと。」
そりゃそうだ。暗殺者がチャイム鳴らして「こんばんは~」なんて来るわけない。
「……他に経路がないから正面から来るしかないんだよな。プロ用に裏口でも増築するか。」
ようやく姿を現したカタリナは、エルザと違う感じでエロかっこいい。
露骨に「私、危険な女です」オーラを纏っていた。これはこれでいい!
「ふはははは!我が名はディアブロ伯爵!我を暗殺に来た刺客よ!果たして我が望に辿り着けるかな?」
カタリナが、すっと身を翻す。……って、あれ?
「え、帰ろうとしてるよ」
「当然です。明らかに罠ですから」
やばい。このままじゃ戦闘シーンすら始まらない。なんとか引き留めねば。
「もうお帰りか?この前の金髪の暗殺者……エルザといったか?あっちのほうが骨があったな!」
安っぽい挑発。だが、どうだ?
「フン。あんな女と一緒にしないで!私は確実にあんたを仕留める!」
挑発に――乗った!
「やっぱり残念な子かな?」
「否定はできませんね」
まずはゴーストによる攻撃だ。
「……お前、大学で首席になれなかったんだな」
「……会社でも万年二位」
「……好きな数字は二番かな?」
「……努力が実らないけど、努力は趣味かな?」
トラウマをえぐるワードが飛ぶたびに――
「うるさい!」
「黙れ!」
「私の方があいつより優秀なのよ!」
カタリナは過剰反応しながら、いちいち攻撃を仕掛けてくる。
だが、相手は物理攻撃が一切効かないゴースト。空を切る斬撃、無駄に消耗する体力。
「……やっぱり残念な子だね」
「私が絡まないと非常に優秀なんですが……。」
僕のひと言に、エルザが残念そうに語る。
次の部屋が本番だ。
役者パペット(挑発機能付き)が芝居を始める。
「ふは…は。我をここまで追い詰めたのは貴様が初めてだ。世界一の暗殺者、エルザよ……!」
「私の手にかかれば、悪魔伯爵なんて大したことないわね!」
堂々たる台詞回し。そこへ――
「エルザァ!」
カタリナが割って入ってきた。
「あーら二番さん。ごきげんよう。今回も私に先を越されてどんな気分かしら?」
おいおい。ここまで露骨に挑発するのかよ、このパペット。
「……私、あんなこと言いませんよ」
エルザが珍しく恥ずかしそうに視線を逸らす。
「知ってるから」
僕もフォローにならないフォローを入れるしかなかった。
そうこうしていると――
「エルザァァ! 貴様ぁぁぁ!」
カタリナが激情のまま飛びかかる。刃はまっすぐエルザ役パペットへ――
こいつターゲットじゃなくエルザ(人形)を狙いやがった。
その瞬間。
「べちゃっ」
部屋に仕掛けておいたトリモチに絡まり、カタリナは派手に転倒。
じたばた暴れてもがく姿は……うん、見事な残念ムーブ。
「残念な子だね」
僕がつぶやくと、横でエルザがぽつり。
「あの子のために言いますが……本当は優秀なんです」
その声だけは、妙に優しかった。
ここで――僕(本物)の登場だ。
「ふはははは! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
とりあえずスキル発動。《バインド》!
カタリナの体が光の鎖に縛られる。
「くそ!離せ!殺してやる!」
言いながら――
「くそ!殺せ!」
謎のショートカット台詞。なんか迷走してない?
まあいい。女暗殺者の「くっ殺」ボイスは十分堪能できた。
「貴様、なぜ罠と知りながら入ってきた?」
冷静に問いかける。
「……あんたを倒せば、エルザに勝てる! 皇帝家のメイドにしてもらえるんだ!」
なるほど。それが動機か。
「ふむ。皇帝家の求人はこれか?――ほら、『パートタイム』とあるぞ」
「なにッ!? ……ほんとだ! あのクソ皇子!」
カタリナの顔がみるみる動揺に染まる。
「求人条件はよく確認しないとダメではないか。今日はサービスだ」
ぱん、と手を叩くと――部屋にカウンターと相談ブースがせり上がってきた。
「ようこそ! ハローワーク・ディアブロへ!」
「……ハローワーク?」
状況を理解できず、カタリナの目が泳ぐ。
「もし侯爵メイドより条件が良い仕事があれば、転職してみるか?」
「……エルザに勝てるなら……」
本音がダダ漏れ。ほんと暗殺者に向いてないんじゃないの、この子。
「ならば! ここで転職活動をするが良い! 本日は特別に、キャリアコンサルタントを呼んでおいた」
カーテンが開き、颯爽と現れるのは――キャリコンに変装したエルザ。
「あなたの転職活動をサポートします。一緒に頑張りましょう」
笑顔で名刺を差し出す彼女。
その横で、カタリナの脳内は完全に処理落ちしていた。
「まずは適職診断ですね」
カタリナにシートを書かせたあと、エルザが冷静に読み上げる。
「……向いている仕事は役者、会社経営者、外交官など、派手な仕事ですね。
逆に向いていない仕事は――暗殺者。感情のコントロールの失敗が死に繋がります」
「はあ……」
カタリナの返事は歯切れが悪い。
「ご安心ください。当ハローワークは多数の求人をご用意しています。これなど、いかがでしょうか」
エルザが示したのは――ギルドマスター。
地元の名士であり、学校の卒業式に来賓として呼ばれるほどのポジション。
……って この解説どうなんだろう?
「これならあいつに勝てる! 応募します! やらせてください!」
即決かよ。
「わかりました。それでは試験対策を始めましょう」
そのまま面接練習が始まった。
コンコン「失礼します」
潜入業務の経験か、マナーは完璧だ。だが問題はその先。
「では、志望動機を教えてください」
「はい! 御社を志望した理由は――ギルマスの名声だったらライバルに差をつけられると思ったからです!」
堂々と本音を言っちゃった。
やっぱり暗殺者に向いてない。
「いけませんね。志望動機の前に、まずは業界研究から始めましょうか」
エルザが淡々と指導を続ける。
今までのキャリアの棚卸しとか、職務経歴書の書き方の指導なんかもやった。
暗殺者の経験って自己PRに使えるんだろうか?
僕は疑問に思ったものの、女暗殺者カタリナの転職活動は続いていった――。
ーーーー
数日後――。
カタリナは見事ギルドに採用されたらしい。
ただし配属先は……よりによってバームベルク。つまり僕の領地だ。
「心に余裕ができたのか、カタリナはもう絡んでこなくなりました」
「そりゃよかった。……まあギルマスは激務だからね。絡む暇すらないのかも」
とりあえず、一件落着。
「エルザ」
「なんですか?」
「もしよかったらさ。ここよりもっといい仕事があったら紹介するよ」
僕は本音を口にする。エルザには幸せになってもらいたい。
「ありがとうございます。でも――ご主人様のそばが、私には最高の居場所ですから」
「……うん? どういう意味?」
聞き返したが、エルザはただ静かに微笑むだけで答えてくれなかった。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください。




