表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

9 さらなる謎

「殺されたのはシュテルンベルク公爵ではなく、その従者エイブラムだったのですか。

顔が潰されていたのは、公爵の服を着せ死体の偽装をするためだったのでしょう。」


レストレード警部は額に手を当て髪を撫で付けながら話した。

私はさらに推理を進める。


「ヒルダがいうには、エイブラムは姿を消す前彼女に『頑張りなさい。』と言い残したそうです。

そこから思うに、エイブラムは自分が殺されることがわかっていた。

正面から抵抗もせず殴られたことから、犯人はエイブラムが逆らうことのできない相手。

さらに私の持っていた鍵が書斎の扉を開ける鍵でないことを知っていて、同じ鍵と本物の書斎の鍵を持っている人物。

ですから、エイブラムを殺し偽装を行ったのはシュテルンベルク公爵ですわ。」

 

「シュテルンベルク公爵がエイブラム氏殺害の犯人であるならば、ビルヘルム王子とリリー嬢の殺害も公爵に疑いがかかりますな。」


レストレード警部は部下を呼びつけ、「大至急シュテルンベルク公爵を探しせ。」と命じた。


「けれどカメリア嬢、あなたの推理ではまだいくつか説明できない点がありますぞ。

第一に、なぜシュテルンベルク公爵はエイブラム氏を殺し自分の死体に偽装したのか。

第二になぜビルヘルム王子とリリー嬢の殺害したのか。

エイブラム氏殺害はビルヘルム王子とリリー嬢殺害の疑いを自分に向けないためとも考えられますが、自らの死を偽装するのは少々やりすぎかと思いますな。

ビルヘルム王子とリリー嬢殺害に関しては公爵の動機がわからない。

カメリア嬢との関係も良好とはいえなかったようですから愛する娘を裏切った恨みというのも動機としては薄い。」



「それは、私にもまだ分からないのです。

きっとまだ見落としていることがあるのですわ。」


「そうですか。」とため息混じりに言うレストレード警部はややがっかりしたようだった。


「ま、公爵本人を捕まえて吐かせればよいでしょう。

ところで、あなたがわざわざ隣国の質屋まで取りに行かされた荷物はなんだったのですか。」


「銀のスプーンでしたわ。

私が生まれた時に作られたお守りの銀のスプーン。」


赤ん坊が生まれたとき、幸運のお守りとして銀のスプーンを贈るという風習がある。

質屋からうけとった荷物の中身は、私の名前と誕生日が彫られた銀のスプーンだった。

王家の紋章が彫られていたことから察するに、あれは王家から贈られたものだ。


「そうですか。

お守りのスプーンを質屋に出すとはひどい親ですな。

いや、失礼。」




「もう一つ気になるのは、私に託されたこの鍵は一体どこの鍵だったかということですわ。」


落ち着きを取り戻したヒルダが同意する。


「エイブラムが着せられたポケットに鍵が入っていましたが、旦那様も常に同じ位置にその鍵を入れていたはずです。」


「ではあの鍵は公爵にとって実際に重要なものではあったのでしょうな。

自分がいなくた後カメリア嬢に確かめさせたい何かを隠していた場所の鍵ではないでしょうか。

たとえば、隠し部屋とか。」


そう言うとレストレード警部は書斎の壁を確認し始めた。

書斎の壁はすべて本棚になっている。

一部分だけ、わずかに本棚の奥行きが異なっていることに気づいた。

その本棚の蓋に、小さな鍵穴があった。

警部は鍵穴に鍵を差し込んだ。

かちゃりと軽い音がして、鍵が回った。

本棚は隠し扉になっていたのだ。

私たちは隠し部屋の奥へと足を踏み入れた。


「これは、公爵家の肖像画ですか?」


警部が指差した部屋の奥の壁には、大きな肖像画がかけられていた。

椅子に座った女性が二人の子供を抱きかかえ、その隣に男性が微笑んでいる。

ヒルダが肖像画の男性を指差す。


「こちらは旦那様…シュテルンベルク公爵ですね。お姿からすると今よりかなり前の絵でしょうか。」


ヒルダの言葉で、私は初めてその男性が父であると気づいた。

柔らかに描かれた優しい微笑みは、私の知る父の顔とはあまりにも似つかない。

しかしそれが父ならば、隣に座る女性は亡くなった母だろう。

では、母が抱いている二人の子供は一体誰だ。


「カメリア嬢、あなたは公爵家の一人娘ですよね。

公爵家にほかに子供がいたと言う記録はなかったはずだ。」


レストレード警部の言葉に私は頷く。

右側が水色の服を着た男の子で、左側は揃いの桃色の服を着た女の子だ。

どちらの瞳も青い。

私の瞳はブラウンだ。

肖像画に私の姿はなかった。



立ち尽くしていた私は、誰かが書斎の扉をノックする音で我に帰った。


「レストレード警部、ここにおられますか。」


若い警官が扉の向こうから呼びかける。

レストレード警部は隠し部屋を後にし書斎までもどり、「ああ、ここにいる。入れ。」と部下に命じた。


「失礼します。

至急報告しなければならないことがあり参りました。

その、シュテルンベルク公爵が王宮で見つかりました。」


「もう見つかったのかね!

まさか王宮にいたとは。

すぐ取り調べをしなければ。」


「いえ、それが…シュテルンベルク公爵がナイフが刺さった状態で見つかったのです。

刺したのはビルヘルム王子の乳母です。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ