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4 遠き過去の日

幼きあの日、私はまだただの少女だった。

自分の身分とそれに伴う責任も、まだ知らなかった。

だからビルヘルムと初めて会うことになったあの日、とても楽しみにしていたのにいざ王宮につくと私は恥ずかしくなって逃げ出してしまった。


王宮の中庭へ逃げ込み、紫陽花の花の影に隠れた私を見つけ出したのは、ビルヘルム本人だった。


「おい、そこに隠れている貴様。

貴様がカメリアだろう。」


想像していたようなおとぎ話の王子様と違う愛想のない言葉に、私は何もいえなくて怯えた目で花の影から顔を覗かせた。

私よりも少し背の低い男の子が、頬を赤く染めて怒っていた。

澄んだ青の瞳が私を睨む。


「貴様、なぜ逃げたんだ。」


「だって、恥ずかしかったから。」


小さな声でそういうと、ビルヘルムはますます頬を膨らませた。


「なんだと。

貴様、僕が恥ずかしいやつだというのか。」


そのときのビルヘルムは、私が彼を恥ずかしい人と侮辱したのだと勘違いして憤慨したのだ。

私は慌てて訂正した。



「そうじゃないよ。

だって私たち婚約するんでしょう。」



「僕はビルヘルム。

この国の王子だぞ。

僕との婚約のいったい何が恥ずかしいんだ。」


彼には照れる女の子の気持ちなどまったくわからなかったのだ。

拗ねてふいっと顔を背ける仕草は子どもそのものだ。

王子という肩書きを背負う彼もまた、私と変わらぬただの子どもなのだとそのとき気づいた。


時が経って、私の身長を追い越してからもビルヘルムは変わらなかった。

二週間前の夜会であったとき、彼のために着飾った私を見ても「動きにくそうな格好だな。その靴で踊れるのか?」と首を傾げるのだった。


「まぁ、ドレスアップした女性には褒めて差し上げるのが紳士のマナーでなくって?」


私が拗ねてみせると、ビルヘルムは「大目に見てくれよ。」と頭をかくのだった。


「僕がただの僕でいられるのはカメリアの前だけなんだから。」


ドレス姿を褒めてくれないのは少し残念だけれど、いつだって完璧な王子を演じてみせる彼が唯一私の前では飾らない姿を見せてくれるというのは嬉しかった。


私たちはお互いにありのままでいられるほどとても親しいかった。

それでいて大人の色恋とはかけ離れていた。

私にとってのビルヘルムは、初めて会ったあの日のままの無垢な少年なのだ。


だから、ヒルダからビルヘルムが亡くなったと聞いて慌てて部屋を飛び出した私に知らされた真実は、とても信じられないものだった。


「ビルヘルム王子は遺書を残しておりました。

遺書にはビルヘルム王子はあなたとは別の女性と関係を持っており、その方と心中をしたと書かれております。

公爵を殺害したのも王子だと。」


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