2 事情聴取
「外出をされていたようですが、どちらまで行かれたのですか、カメリア嬢。」
レストレード警部は訝しげな視線を私に向ける。
屋敷の応接室で私は事情聴取を受けることになった。
屋敷のなかは大勢の警察が忙しなく動き回っていて、私の家だというのに居心地がわるい。
「父に頼まれて、隣国の質屋まで荷物を受け取りに行っておりましたわ。」
「貴族が質屋にねぇ。
使用人に頼むのではなくわざわざあなたが出向いたのですか。」
「私が直接受け取るようにと父に言いつけられましたの。」
「あなたがその質屋に行っていたことを証言できる人はおりますかな。」
後ろに控えていたヒルダが「私がお供しました。」と手を挙げた。
「私のほかに、荷物の受け渡しをした質屋の主人も証言できます。」
レストレード警部は部下を呼び寄せ「確認して来い。」と短く命じた。
そんな彼にヒルダが「すこし宜しいですか。」と冷たく声をかけた。
「レストレード警部、あなたのカメリア様への態度は少々無礼ではありませんか。
私には、あなたがまるでカメリア様を疑っているかのように思いますが。」
「カメリア嬢は容疑者のひとりになっているんですよ。」
「カメリア様が犯人だというのですか!」
声を荒げるヒルダを、レストレード警部は「いえね、まだ決めつけるわけではありませんよ。
疑うのが我々の仕事ですからね。」と諫めた。
「シュテルンベルク公爵が殺害されたのはこの屋敷の書斎だったんですな。
先に屋敷の使用人の皆様に話を聞かせてもらいましたが、書斎には公爵以外が立ち入ることは禁じられていたとか。」
「ええ、そうです。
いつもは鍵がかけられていて、使用人たちも入ることはできません。」
「鍵を持っているのはシュテルンベルク公爵とカメリア嬢だけ、そうですね?」
「はい、間違いありません。
けれども私も普段は書斎に立ち入ることは許されていません。
父の身に何かあった時、書斎の本を管理するために鍵を渡されていたのです。」
「その鍵はどちらに?」
「今も持っておりますわ。
父にいつも肌身離さず持っていろと言われておりましたから。」
私は警部に首から下げていた鍵を見せた。
「では誰かがあなたから鍵を盗んで書斎に立ち入り、犯行に及ぶことは出来なかったわけですね。
もう一方の公爵が所持していた鍵は、彼が着ていたジャケットの胸ポケットに入っておりました。
遺体が発見された際、書斎の扉は外から鍵がかけられていたのですよ。」
殺害現場となった書斎は密室だったのだ。
だから私に疑いがかけられている。
「待ってください。
犯人は鍵がかかった部屋に窓から侵入し、そこから逃げることも出来たのではありませんか。」
抗議するヒルダにレストレード警部は首を振る。
「現場には荒らされた形跡はなく、窓ガラスも破られてはおりません。
その上、部屋の中に公爵がいたにもかかわらず外側から鍵がかけられていたのです。
鍵をかけたのは犯人と見て良いでしょう。
強盗の仕業ではないことは確かですな。」
「カメリア様はまだ書斎を見ていませんよ。
カメリア様が見れば、なにか盗まれていることに気づくかもしれません。」
「しかし、カメリア嬢も普段は書斎に入れないのですから、何か盗まれていてもわからないのでは。
それに、現場はご令嬢に見せるにはちっと悲惨でしてな。」
警部の悲惨だという言葉が、私の不安を煽った。
「父は、どんなふうに倒れていたのですか。」
「頭部を前方から殴られたようです。
顔が潰されておりました。
犯人は被害者に対してよほど恨みを持っていたと思いますな。」