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プロローグ

一人の少年が目を覚ました。


北方の気候はただでさえ寒さが厳しいというのに、一帯が異形(いぎょう)凝集地帯(ぎょうしゅうちたい)だ。年端(としは)も行かない少年が無防備に横たわっていられるような場所ではない。


まして少年は、今の今まで川底に沈んでいた石のように、全身の隅から隅までずぶ濡れだった。事実この少年は、急流の小石よろしく、極寒(ごっかん)の川を降ってきたのだった。


一体どれほどの間流されていたのだろう。朦朧(もうろう)とする意識の中、死に物狂いで大気を求め、水を()き分け続けた。


なんとか岸辺へ這い上がったものの、すでに指先の感覚はない。かろうじて身を(よじ)るが、全身を雷に打たれたような激痛が駆け抜けた。


もはや声も出なかった。


しかし、


「………っぐ、うぅっ………」


———突然頭に割れるような痛みが走った。


その刹那(せつな)





———“………門…の由来…疑…かったのか”


意味不明な言葉の端々がこだまする。続いて、決まって見える光景。


人間か異形か、もはや判別のつかないほどに、(おびただ)しい数の死体が折り重なっている。方々で上がる火の手と、空まで埋め尽くさんばかりの黒煙。


———その中心に一人立つ人影。





いつもの白昼夢(はくちゅうむ)だった。何度見てもその意味するところは分からずじまいで、耐え難い頭痛の方が少年にとってはよっぽど問題だった。


忌々(いまいま)しい現象だったが、この時ばかりは全身の痛みが(まぎ)れる気がした。


少年は生まれつきほとんど目が見えなかった。


それなのに、なぜかこの白昼夢で決まって浮かぶあの光景だけは、はっきりと世界が映し出されていた。


だがそれも、今際(いまわ)(きわ)にある少年にとっては些細(ささい)なことだった。


(———何もない人生だったな………)


今はもう、諦観(ていかん)だけが少年を支配していた。自然と、力が抜けて行く………。





———その時。


何かにひょいと身体を持ち上げられた。


まるで乾いた真綿(まわた)(つま)むようだった。


少年はついにその時が来たかと観念したが、すぐに意外に思った。


ここは凶悪な異形共が蔓延(はびこ)る未開の地。少年は自分が、黒廟家(こくびょうけ)御用達の廃棄場である“くらやみ”へ投げ捨てられたことは知っていたし、そこへ廃棄されたものがどんな運命を辿るのかも知っていた。


自身を抱え上げた手は乱暴ではあったものの、異形のそれではなかった。


だが小さな違和感もそこで途絶え、今度こそ少年の意識は完全に途絶えた———。





こうして、開闢寮(かいびゃくりょう)始まって以来の歴史的な出会いが果たされた。


もちろんこの時すでに死を悟っていた少年が、

それを知る由がなかったことは言うまでもない———。


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