第六幕 忍び寄る影(しのびよるかげ)
新選組のお話し!永倉新八が主人公で池田屋事件より前のほのぼの物語です!
「美味しい!」
花音は喉ごしの良い真っ白なうどんをズルズルとすする
「この海老の天ぷらもプリプリで…」
「来てよかったなぁ、ただちょっと遠過ぎるけどな」
花音と新八は屯所から遠く離れたうどん屋に来ていた
「おい、じぃさん!もっと店近づけてくれ
よ!」
新八は割り箸を店主につつくように差して言った
「新八くん、そんな無茶言っちゃダメだよ」
「すみません、うちの新八くんが…」
新八が腕を組んで座り直す
「それにこんなうまいなら、もっと江戸にでも出していいんじゃねえか?」
うどんの麺を茹でながら店主が口を開く
「そんな器用じゃございやせん…」
低く、渋い声だ
「そうか…」
ふぅ…と花音が息をつき、新八が諦めたような顔をする
「それにあっしはこの場所が大好きでございやしてねぇ…」
店主は窓の外を見る
「変わりたくないものも、変わって欲しくないものもココにあるんでございやす」
花音は優しく微笑む
「そうかい…」と新八も肩を落とし窓の外の空を見上げていた…
うどん屋を後にした2人は屯所への道をゆっくりと歩く
「美味しかったね!」
「ああ…」
新八は素っ気なく返事をする
花音はそんな新八を見つめたあと、前を向いてすこし笑った
「変わって欲しくないもの…」
新八は先ほどうどん屋の店主が言った言葉を口にする…
「俺にもあるか?…」
「どうだろうね…」
「私は変わって良かったものならあるけど」
「変わって良かったものって?」
新八は花音を見つめて聞いた後、花音は少し悲しげな顔をする
「ごめんなさい…」
新八は正面を向き直し
「別に、言いたくないならいい…」
2人はトコトコと横並びで歩く
「新八くん…」
花音は目を細め視線だけを後ろに向ける
「ああ、いつ言おうかと思ってたが」
新八は正面を見ながら真剣な顔になる
「つけられてる…」
花音が小さな声で呟いた
ぞろぞろと人影が2人の後ろに潜んでいた
「6人…」
花音は千里眼だ
「たぶん右の2人は北辰一刀流、後ろの3人は鏡新明智流」
「後ろの物陰に隠れてる人は夢想流だよ…」
花音は肌感覚や呼吸、相手の筋肉の着き具合で剣術の腕や流派がだいたい分かる
「さすが天才」
新八が花音を茶化す
花音は刀の鞘を握り親指を鍔に添える
男が刀を抜き花音に振りかざす
「はあぁぁぁ!」
花音は刀の鯉口を切る
「ふっ!」
花音は斬撃を素手で受け流し、男がよろける
「ぐぅあ!」
「天然理心流…荒波の剣」
抜刀と同時に水の波を纏った剣は相手の腹を斬る
「ぐあぁぁぁ!」
男は倒れ、花音は返り血を浴びる
刀を下ろし、花音は残りの奴らを睨みつける
「どうしますか?」
「ちっ…」
男は実力では敵わないと思ったのか
近くを歩いていた少女を人質にしようとする
「いやー!」
「だめ…新八くん!」
見えている敵の数は4人
男の剣が少女に届くまで約5秒
十分だ
神道無念流__
次の瞬間、
新八は雷を帯びた体で、男たちの背後に立膝をついてしゃがんでいた…
鞘の鯉口に掛けた指に刀の棟をゆっくりと滑らせ納刀する
「電光石火…」
視認不可能な速度での斬撃と移動…
カチンッと鞘と鍔が当たる音と同時に、男たちは血を流しバタバタと倒れる
「てめぇ!」
物陰に隠れていた男が納刀し立膝をついている新八に剣を振るう
「おらぁ!」
「天然理心流…」
花音が新八の上を飛び越え、剣を構える
「菊水!」
花音の突きで男は吹き飛ぶ
「ぐぁあ!」
立ち上がり花音に剣を突く
「ぐっ…おらぁ!」
「天然理心流…水流し!」
突いてきた剣を水が流れる様に横に弾く
「くそが!」
弾かれた剣をまた更に突きにいくがまたも弾かれる…
「くそ!くそ!くそ!」
何度も弾かれイラついた男は、斬撃に切り替える
「おらぁ!」
花音は狙っていた、水流しは誘い受けの技だ
「天然理心流…荒波の剣!」
男の剣を受け流し水の波を纏った剣は相手を貫く
「があぁぁぁ!」
男の指の数本が千切れ、血が溢れていた
「痛え!痛えよぉ!」
男は泣きながら惨めにのたうち回る
「ふぅ…」
花音は泣き喚く男を無慈悲に見つめながらゆっくりと納刀した
「こいつらは…」
「長州の人たちかな?」
「おいっ…」
今だに喚きちらかす男を蹴飛ばす
「どこのもんだ」
「うるせぇ!」
「ちっ…」
ムカついて更に蹴飛ばした
「新八くん、もう良いよ…」
花音は新八の袖を掴む…
「局長たちに報告だな」
刀の鞘に腕を掛け、惨状を見つめながら息をついた
「あの…」
先程の少女が2人に近づく
「ああ、すまんな…どうやら巻き込んじまったみたいだ」」
「ごめんね!」
花音が少女に駆け寄る
「うぅ…」
「どうしたの?」
「花音…」
新八は腰の刀の鞘を握り、柄頭を花音に向けて指を差す様につつく
「それ…」
「え?」
花音の顔や体には返り血がベットリと付いていた
「あっ!ごめんね!」
少女は顔を大きく横に振って否定する
「いっ…いえ…」
「助けてもらったのにごめんなさい」
少女は深々と頭を下げる
「ありがとうございました」
「嬢ちゃん…早く帰りな」
「はい…」
「ごめんね」
少女は歩いていった
「花音…」
「うん…」
後から来た隊士たちが2人を襲ってきた男たちを屯所に連れ帰る
「2人でゆっくりと飯を食えるのも、今日が最後かもな…」
花音は新八の腕に抱きついた、血だらけの顔が少し、悲しげに見えた様な気がした…
江戸三大流派の内の一つ神道無念流は雷を司る流派で、攻撃と速度に特化した剣技が特徴、達人の斬撃はもはや視認不可能




