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仲良し?兄妹漂流記

はなさないでと言う妹を仕方なく抱えてやったらいつまでもしがみつかれてしまった

作者: 舞波風季

登場人物

兄 ハンドルネームはウッホ 17歳

妹 璃々香 16歳

ルミるん 最近漂着した姉妹の姉 19歳

ユリりん 最近漂着した姉妹の妹 18歳

泉の精霊 島の泉に住まう精霊 ?歳

「お兄ちゃん、はなさないでよね!」

「分かったよ」

「絶対だよ!」

「分かってるって」


 なんて、いつものごとくなやり取りをしている俺と璃々香(りりか)

 俺達は今、地上数メートルのヤシの木の上にいる。

 なぜかって?

 もちろん璃々香が、

「ココナッツ・ミルクが飲みたい!」

 と言い出したからだ。


 こと顛末(てんまつ)はこうだ。

 今朝、泉の精霊に、この島にはヤシの木があると聞いた璃々香は、

「お兄ちゃんは来なくてもいいから」

 と、いっちょまえなことを抜かしてヤシの木の探索に出かけた。

 そうしてヤシの木を発見すると、白い虎の獣人の璃々香は身軽にヤシの木に登り、楽しそうにヤシの実をいくつも落とした。

 そして、さあ下りようというだんになって下を見た途端(とたん)、その高さに怖気(おじけ)づい下りることができなくなり、俺に助けを求めてきたというわけだ。


 ルミるんさんからこと次第(しだい)を聞いた俺は、進退窮しんたいきわまった璃々香が登っている木のところに来た。

 上を見上げるとヤシの木の葉っぱのあたりにしがみついている璃々香が見下ろしている。

 そして、助けに来た俺に向かって言ったのが、

「お兄ちゃん、木登りなんてできるの?」

 ときたもんだ。助けを求めておいてなんてぐさだ。

「当たり前だろ、ゴリラの獣人だぞ俺は。木登りなんておちゃさいさいだ」

「おちゃのこさいさい?それ何語(なにご)?おじいちゃん語?」

(こっのやろおぉおおーーーー!)

「うるせえ、じゃあ勝手に下りてこい、俺は知らん」

 そう言って、俺はヤシの木を背に歩き出そうとした。


「あーーん、ウソだよーーもう言わないから下ろしてよーー!」

 半泣きで訴えかける璃々香。

 そばで様子を見ていた猫の獣人のルミるんさんと狼の獣人のユリりんさんの姉妹が俺の近くに来た。

 そして心配そうに、

「ね、お兄さん、璃々香さんを助けてあげて」

「お兄さんが来るまでは真っ青な顔で震えてたんですから」

 と、真剣に俺に言ってくれた。

(そうなんだよな……)

 璃々香は、調子に乗っているときはイケイケガンガン怖いもの無しで突き進んでいくのだが、何かの拍子でつまづいたりすると、途端に意気(いき)消沈しょうちんしてしまうところがある。


「はぁ……ほんとに仕方ねえなぁ」

 ぶつくさ言いながら俺はヤシの木を登っていった。

 小学生の頃は、俺も木に登ってよく遊んでいたから、木登りにはそれなりに自信があった。

 そして今、思っていた以上に軽々とヤシの木を登っていくことができた。

(やっぱ獣人化ってすげえな……)

 俺は改めて実感した。


「ほら、つかまれ」

 璃々香がしがみついているところまであっという間に登った俺が言った。

「お兄ちゃんが掴んで……」

 そう言う璃々香の目は怯えていて、心なしか震えているようにも見えた。

「じゃあ、俺が掴むから、璃々香もしっかり掴まれよ」

「うん」


 そして、冒頭のやり取りに、というわけだ。

 俺は左腕ひだりうでを璃々香の腰に回し、璃々香は俺の首に腕を回した。

 このまま下りていこうと思ったが左腕(ひだりうで)で璃々香を抱え、右腕(みぎうで)一本で自分と璃々香の体重を支えて下りていくのは、やはりキツかった。


(しょうがねえ……)


「璃々香」

「……?」

 俺を見返す璃々香は明らかに怯えている。

「飛び降りるぞ」

「え……!?」

 璃々香の怯えた目が見開かれた。

「でも……でも……」

 声も震えている。

「大丈夫だ、多分な」

 飛び降りること自体に不安はなかった。璃々香のことも支えきれるだろう。

(獣人化して頑丈になったしな)

 もし怪我をしても精霊さんが治してくれるだろう。


「しっかり掴まってろよ」

「はなさないでね、お兄ちゃん」

「ああ、任せろ」

「うん……」


 俺は一切の躊躇(ちゅうちょ)無く木から手を離した。

 それと同時に璃々香の背中と膝を腕で支え、そのまま地面へと落下していった。


 ダンッ!


 両脚を開き膝で衝撃を吸収し、着地の瞬間には心持ち腕を上げて璃々香にかかる衝撃が最小限になるようにした。

 骨折も覚悟していたが、思っていたほどの激痛はなかった。

 とはいえ、

 ジィーーン!

 としびれるような痛みがかかとから足の付根(つけね)に流れてきた。

「くぅーーーー……」

 俺の口から思わず変な声が出てしまった。

「お兄ちゃん……」

「少ししびれただけだ」

「……」

 璃々香は黙って俺の首にしがみついた。


 ルミるんさんとユリりんさんが駆け寄ってきて、

「大丈夫ですか!?」

「どこか怪我は……」

 と、心配してくれた。

「あ、はい、大丈夫です」

 とはいえ、痛みがないわけではないので、

(後で精霊さんに診てもらおう)

 そう思いながら璃々香を下ろそうとした。

 が、

「璃々香……?」

「……」

「もう大丈夫だぞ」

「……もう少し」

 そう言いながら璃々香は俺の首にしがみついた。

「しょうがねえなぁ……小屋までだぞ、いいな?」

「……うん」


 そう言って俺が璃々香を抱え直すと、

「璃々香さん、いいですねぇ」

「お兄さんにお姫様抱っこしてもらって」

 と、ルミるんさんとユリりんさんがクスクスと笑いながら言った。

「はぁ……」

 とため息を付きながら俺が璃々香を見ると、さっきまでおびえ震えていたのが嘘のように、璃々香はいつものいたずらむすめがおになっていた。

「あ、こいつ、もう全然大丈夫じゃねえか」

「全然大丈夫じゃないもん、すっごく傷ついてるもん」

「いやいや、怪我とかしてないだろ」

「怖かったから怪我したのと同じだもん!」 

「なんだよ、その理屈は」

「いいの!」


「まあまあ、ヤシの実もたくさん採れたし」

「みんなで、ココナツミルクを飲んで元気になりましょう」

 ルミるんさんとユリりんさんが言うと、 

「うん、元気になろうーー!」

 璃々香が俺に抱えられながらでかい声で言った。

「はぁ〜……」

 ついため息が出てしまうが、これが璃々香の通常運転だ。

 そんな璃々香を見ながら俺は、

(早く王子様を見つけてくれ……)

 などと思ってしまうのだった。

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