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忘れられていたはずのそれはある日を境に…

作者: 神名代洸

僕はずっと忘れていれば良かったんだ。

何で今更。

そう、それは呪いのようなものだった。


社会人1年目と言うこともあり、覚える仕事はたくさんある。先輩からの叱咤激励は僕にやる気を出させてくれる。


と同時に少しずつ慣れてきたと思う。


「おう、やってるか?」

「はい。」

「元気だけはいいなぁ。はっはっはっ。」

「先輩、そりゃないですよ。僕だってちゃんとやってますよ。」

「まぁそうだな。あっ、そうそうお前さ、怖い話って得意な方?」

「?。何でですか?まぁ、あまり得意ではないですけど、ダメというわけではないですよ?」

「あのさ、新入社員の歓迎会で皆でお化け屋敷に行こうという話が出てるんだよ。」

「何でそんな話になるんですか?普通ならただの飲み会で終わりじゃないんですか?」

「それじゃあ何処もおんなじだしつまらんという事らしい。まぁ、言い出しっぺは部長あたりだけどな。で、どうだろうという事で女達にも話したようで、女達は何だか乗り気の様子。あとは男だけというわけらしい。」

「何だかなぁ〜。」

「?あんまし乗り気じゃなさそうだな。」

「え?まぁ〜。子供の頃のトラウマがあって、ちょっと苦手というわけなんですよ。」

「ふぅーん。そうか。ならやめとくか?」

「いえ、でも参加しないとなんか言われそうですし…。」

「そんなか?大丈夫だと思うぞ?俺は。まぁ、お前がいいならそれでいいけどさ。」

「で、どこのお化け屋敷になるかは決まってるんですか?」

「いや、まだらしい。何でもあっと言うくらい怖い場所を探してるって噂だ。」


何だろう…。

嫌な予感しかなかったが、今更引くに引けない為苦笑いするしかなかった。


それからあっという間に1週間経った。

忘れてしまったのだろうと期待していたのだが、甘かった。決まったらしい。

あんまり怖くないといいんだけど…。無理だろうな。みんな期待しちゃってるからきっといろんなお化け屋敷チェックしたはずだし。

近場でささっと行ける場所がいいかな?

まさか【戦慄迷宮】とかはやだよ。あれめっちゃ怖いし。きっともたない。


でも聞いた場所は知らないお化け屋敷だったからホッとした。

ホッとしたとはいえどんなお化け屋敷かはわからない。聞いとけば良かったかなぁ?

先輩曰く、そこは俺らも知らん場所だと言っていたっけ。

大丈夫か?マジで。

でも予定日は明後日。集合は会社で…だって。

バス借りて行くらしい。

金かけてるなぁと思った。


当日に不参加はダメという事なので、行くしかなかった。もうすでに緊張して胸がドキドキ言ってる。

過去に行った遊園地は愛知県のお化け屋敷だったから規模は小さい。

だからそんなもんだろうと思っていたのに……。期待を裏切ってくれるな。



バスで会社から30分くらいの場所にあった。それはお化け屋敷というより廃墟に近かった。

でも入り口にはお化け屋敷の看板が。

一般の住居がそれなのかと思い緊張した。中から叫び声がここまで聞こえてくる。

2階建ての一軒家だ。

中は一体どうなっているんだろう?


ドキドキは不安を大きくした。

何故って?

だってお化け屋敷って言ったら普通小さな屋敷が一般だろう?

なのに目の前のお化け屋敷は大きい。


あれこれ考えていたら家の中から飛び出てくる人たちがいた。きっと僕らの前に参加した人たちだ。

……すっごい汗。

そんなに怖いの?

不安になってる僕にとどめを刺すように部長がボソリ。


「噂通りでよかったよ。」

「へ?噂?何?それ。」

「お前知らないの?このお化け屋敷は噂があって、本物が出るっていう。」

「え?ホント…ですか?それは。」

「ああ、ほんとホント。俺も一度入ったことあるけど本当にちらっと見た程度だったから本物かどうかはわからないけどさ。」

「え〜!マジ、ですか。」

「まぁ、大した事ないって。単なる噂だし。あっ、そうそう、中には神隠しにあう奴もいるっていう噂もあったな。ホントか知らんけど。」

「もー!噂が多すぎ!大丈夫なんですか?ヤバくないですか?」

「大丈夫だって。ほんとヤバかったらこんな商売やってないって。」


まぁ、確かにそうかもしれないと不安もあったけど納得して順番を待った。

前の人たちが全員出たのを確認すると係のものが僕たちの人数を聞いてきた。一応何人で来たのかの確認のためだ。

15人。

意外と多いかなと思っていたけれど、この建物を見て考えが変わった。だって広いんだよ?

手に待たされた懐中電灯を手に真っ暗な建物内へと足を踏み入れる。

メンバーは皆与えられたルールに従い、パーティを組んで移動した。僕も他の2人とパーティを組んでいる。奇数だからハンパがでる為だ。

建物内は荒れ放題になっていて、時々びっくりする仕掛けもあり、僕は大声で叫ぶ。

残る2人は対して驚きもせずに前に進んでいく。

まるでここをよく知っているかのようにスイスイと進んでいくもんだから置いてかれないようにと必死について行った。

途中誰かに肩を叩かれた気がしたのでさっと後ろを振り向くもそこには誰もいなかった。

恐怖が目を覚ます。


「あの〜。あの〜!置いてかないでください。」

明るい場所だったらきっと僕の顔は真っ青になっていたに違いない。だけど懐中電灯のあかりだけが頼りなので、見られなかっただけマシか。



このお化け屋敷は入場は1時間。

それを過ぎると中にいる驚かす側の人が追い出しにかかる。それは誰も知らない。

そろそろ時間らしく係の人がトランシーバーで合図を送った。

「わー!きゃー!」などと叫び声を上げながら次々と建物から飛び出して行く。

僕はその声を建物内で聞いていたから他の2人に建物を出ようと言うと、うなづいて出口を探す。


その時僕は知らなかった。

僕の周りにいるはずの二人の姿が消えていることに…。

まだいるとばかり思って叫ぶけど、どんだけ騒いでも反応はなかった。一瞬置いてかれたのかもと思い、部屋中を照らし回ったけど、僕が照らすあかりとは別の明かりは見る事はなかった。

窓ガラスが見えたからそちらの方へと歩いて行くと一瞬ガラスの向こうに影が見えた気がした。

でも待てよ?ここは何階?


あっ、1階か。

なら外に誰かいるに違いない。

片手で壁を触りながら出口を探す。

扉があったのでドアを開けようとしたら引っ張られて外に無事に出ることができた。ようやくホッとしたよ。


だけど問題なのは消えた2人のこと。

同僚や先輩に話すも冗談と捉えて本気にしない。

でも、点呼をした時になってようやく僕のいうことが本当だということを実感して皆頭を抱える。

「マジ?」

係の人に建物内を確認してもらうも2人の姿は見えないという。

一度電気をつけてもらい、確認したがどこにも隠れている姿はなかった。

そうなると不安になるものが出てくる。

やれ神隠しだ、霊に連れてかれたとか騒ぎがだんだん大きくなる。そうなると後続で待っていた客達も怯え出す。

本当に噂だったのか?

噂ではなく実際にあったことを噂としてデマを流したとか?

結局その場に残ったのは僕らのグループだけだった。

商売にならないと係の人は愚痴ってたけど、そういう問題じゃないだろ!と言いたい。

今残っている13人を二手に分け、建物内をくまなく探すことになった。

恐怖を煽る音楽を消してもらい、叫ぶが返事はない。

どうしよう…。まずい事になった。

僕がもっと気をつけていればこんなことにならなかったかもしれない。

今更だけど…。

その時ふと思い出したことがあった。

2人が帰る前に僕の肩をトントンと叩く感触があったことを。それを伝えるとその場にいたものはピクッとなった。


もう1組のグループの方はどうだろうか?見つかったのかなぁ?そうだといいなぁ。

期待していたが合流した時には2人の姿はあった。ホッとしたけどなんか様子が変だ。

2人は自分の体を抱きしめて震えていた。


「どうかしたの?何かあったの?」

同僚の1人が問いかけるも震えている2人は答えられない。すると一緒に戻ってきていた上司が答えた。

「2人はいなかったはずの部屋から出てきたんだ。それも突然。その時の様子はかなりおかしかった。2人とも震えていた。まるでなにか見たかのようだった。」

「それは?」

「いや、それは2人には聞けずじまいだったんだ。なんせ尋常じゃないくらい震えていたのは懐中電灯のあかりでさえ気づけたくらいだから。」

「そう…だったんですか。一体何があったというんだ?それさえわかれば対処のしようもあるのに。」


2人に問いかけるも2人はお互いの目を見た後晒した。お互いが見たものを口に出す事を怖がっているのは見てて分かったが、このままでというわけにもいかず、係の人を交えて皆で話し合うことになった。

「2人はいつ自分たちがおかしいことに気がついたの?」

「…え…っとお…アンタが振り返った時…かな?何でかはわからないけれど、叫びながら振り返った時あったでしょ?そん時よ、なんか視界がぐにゃりと歪んだ気がして気が付いたら知らない所にいた。その子とは違う場所だった…かな?叫んでも誰1人として返事もなかったし…。」

「私もおんなじ。気が付いたら1人で立ってた。多分別の廃墟かも?部屋の中全く違ったから。暫くして頭ポーッとしたら彼女とおんなじ場所にいた。なんか怖い。」


「そうだな。怖くて当たり前だ。もう飲み会で、…って感じじゃないな。もう今日のことはみんな早く忘れて帰ろう。怖いだろ?なるべく早く2人以上で帰ってくれ。後でみんなに確認の電話するから。必ず出るように!」

「なんかちょこっとだけ飲んでたけど酔いも冷めたわ。」

「え?酒持ってきてたの?」

「うん、清めの意味も兼ねてね。」

「ちゃっかりしてる。」

「そりゃ、…怖がりですから。」

「うっそだぁ〜。この間怖くも何ともないって言ってたじゃん。あれ嘘?」

「あっ、あれ……。わりぃ、嘘や。」

「騙された。悔し〜。」

「さ、係の人も忙しいからいつまでもここにいたら迷惑になるから帰ろ。行くぞ。」


「「「はーい。」」」


上司は部下の男性を2人連れて帰って行った。

残った僕らは表通りまで皆で歩いて行ってそこからタクシーを捕まえて帰ることになった。それなら1人になる事もないし怖くないだろうって事で多数決で決まった事だ。誰も文句は言わなかった。


道中は誰1人として言葉を発しなかった。

何か言ったら怖くなりそうだから。

やはりオカルトに霊はつきものかもと僕は考えていたのだ。来るんじゃなかった。

今更だけど…。



翌日には皆いつものように出勤してきていて、昨日のことは忘れてしまったかのようだ。

噂なんか忘れちゃおうと僕も思って仕事に没頭した。

それからしばらくは何事もなくすぎていき、例の件を忘れた頃事件が起きた。

それは例の事件の被害者の1人の女性。

同僚と一緒にランチをしにお昼職場を出たまではよかったが、途中で消えたというのだ。まさか…その時頭の隅で何か思い出そうとしていた。それがあの時間のことだと思い出すまで時間はかからなかった。

噂は広がりあっという間に職場全員の耳に入る事になった。騒ぎが大きくなり誰かが通報したようだ。遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえた。


近くにいた人たちが何事かと野次馬で集まってくる。僕らは事を大きくしたくない為小声で話すが、つかつかつかとやってきて「事件か?事故じゃぁないよな。なら事件だな。」などと勝手に独り言を言いながらその場を離れて行く1人の刑事。

もう頭が混乱した。

あの廃墟いかなきゃこんな事にはならなかったのかまた悔やんでも何も解決しない。

だから部署の仲間達はまずもう1人の女性を探した。またいなくなってはいないかと。

でもちゃんといた。

だから彼女を連れて数人で固まって行動した。行きそうな場所、友人関係、片っ端から調べたのだ。

噂がこんな大ごとになるなんて考えもしなかった。

正直【怖い】と思った。


あちこち探したが刑事とは違い探せる範囲は限られている。でも仲間の1人が言ったんだ。「廃墟は?みんなで行った噂の廃墟。そこにいないか?」って。

みんなで話し合っていったらいた!

倒れていた。

直ぐに駆け寄り起こしたが、ポーッとしているのか反応が鈍い。

僕は直ぐに警察に電話した。そしたら1番近い場所にいた警察官が来てくれて、状態を見て直ぐに救急車を手配してくれた。


僕はら彼女が救急車で病院に行くのをただ見ているしかなかった。病院の受け入れ先は聞いていたのであとで行こうと仲間が言った。

彼女には上司が同乗して行った。


単なる噂がこんな事になるなんて全く思いもしなかった。

噂は怖いものだと思った。



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