別れの我儘
ちょっと残念な気持ちを抱えつつ、書物室に到着した。
さてと、私はシスタの隣でシスタの横顔に気が済むまで見惚れているとしますか。ま、気が澄む時なんてこないけどね!
「私、こんなにたくさんの本初めて見ました!」
「シスタが喜んでくれて嬉しいよ」
この笑顔が見れただけでも十分満足。シスタ、まじ尊い!
「お姉様、あの大きな本は何ですか!?」
シスタが興奮気味に指した本だが、私も知らない。そんなに本読まないし。
でもシスタの為ならお姉ちゃん取ってあげる! と思っていたのだが、ただでさえ子どもなのに、私は座っているからはしごを使って取るということもできない。
そうなると、頼りになるのは一人だけ。
「ニーファ、あの本とって」
「かしこまりました」
ニーファは背伸びをして、見るからに分厚くて大きい、重そうな本を取った。
流石に私達に持たせるのは危ないと判断したのか、近くの机に置いた。
「魔導書……魔法についての本だね」
そういえばこの世界って魔法あるんだよね。
主人公を学園に入学させるための理由付けとちょっとしたミニゲーム要素に入っている死に設定だったから忘れてた。
「お姉様、読んでいただけませんか?」
「文字読めない?」
「いえ。ただ、お姉様に読んで欲しいのです」
ぐはっ! 何この子天使すぎる! もう神すらも凌駕してるよ! そんな上目遣いでお願いされて断われる人いる? いや、いない! くそー心臓がうるさい。シスタの声がよく聞こえないではないか! 収まれ心臓! ゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせるんだ!
「お姉様?」
「大丈夫。もちろん読むよ。でも、いつも読んでいるのと違ってストーリーないけどいいの?」
「お姉様が読んでくださるのでしたら、私は楽しく聞けますから」
うっ! 落ち着け、そう、落ち着くんだ。それで良い。シスタのために平常心でいるんだ。
「そう言ってもらえるだけで嬉しいよ。ありがとうシスタ。それじゃあ読むね」
魔導書に書いていることは、ざっくり言えば歴史やら種類やら使い道やら何やら。あと、ちょっとした伝説というか、お話が載っている感じだった。
読み終わった時、割と喉が死にかけていたけど、シスタが喜んでくれたのならいくらでも蘇らせれるから問題ない。
それに、私は気づいてしまった。ゲームでは死に設定だったとしても、ここは現実。つまり、習得すれば魔法が使い放題だということ!
魔法を上達させればシスタに教えることができるし、それでシスタも強い魔法の使い手になれば、少なくとも両親は認めざるをえなくさせられる。うん、それは良い!
そうと決まれば、シスタがいない時に取り掛かろう! シスタがいるこの瞬間は、目の前のシスタにだけ集中しよう!
「ヴィリアラ様、そろそろお勉強の時間です。名残惜しいとは思いますが、そろそろお部屋に戻りましょう」
ちょっと待ってよ! 今この瞬間を大事にしようって心で叫んだばかりだよ!
それに、久々の再会なのに。心の中の幼児が出てきちゃう!
「嫌だーーーーーー! まだシスタといるーーーーー! やーだ、やーだ! お勉強はいつでもできるでしょ!」
「そうはおっしゃいますが、先生を待たせてしまっていますから」
「嫌だ! 意地でも動かないから!」
「ヴィリアラ様、ここは我慢を──」
「絶対ぜーったい嫌だ!」
「ヴィリアラ様、そう言わないでください。シスタ様の前ですよ」
「嫌だ!」
「お姉様」
シスタの声で私の心は落ち着きを取り戻した。
「お勉強、頑張ってください」
推しの言葉を無下にする? そんなことできるわけない。
「うん。頑張る」
でもその代わり、ちょっとくらい自分本位になっても良いよね。
「頑張るから、別れる前にちょっと。少しだけ近づいてもらっていい?」
「どうかしましたか?」
「あともうちょっと。肘掛けに手を置いて、耳を私に向けて」
「こうですか?」
「そう。それで良い」
一方の手はシスタの手の上にそっと被せ、もう一方の手で私の前に垂れているシスタの髪を少しずらす。
そして、無防備に露わにされているシスタの頬に一つ唇を落とす。
「お勉強、頑張ってくるね」
呆然としているシスタの頭を名残惜しく撫でた後、私は自分の部屋へと戻された。
夜にもう一話投稿する予定です。