みんな色々抱えている
いきなり差し込まれた光によって、私の目は薄く開かれた。
「ん? 朝?」
やっぱり人間頭を使うと自然と眠るんだね。
うん、これは私の神経が図太いとかそんなのは関係ないから。
「ヴィリアラ様、お目覚めになられましたか? 気分はどうですか?」
「おはようニーファ。お腹空いた」
「かしこまりました。では、準備が整う前にお熱を測りますね。こちらを咥えてください」
「はーい」
シスタのことでずっと頭がいっぱいで他の人のことなんてあまり考えていなかったけど、よくよく考えると新人メイドが令嬢のお付きになれるわけないんだよね。
やっぱり何かあるのかな?
「昨日よりも下がっていますね。良かったです」
「ニーファっていくつ?」
「十八です」
学園が十五で入学で、二年で卒業だから、実質社会人二年目ってところか。
いや、ニーファが入ったのは半年くらい前だからまだ一年目か。
「そんなに若いのにお付き?」
出世にも程がある気がする。
よほど良いとこの出なのか、両親と仲の良い家の娘のどちらかだろう。
「こう見えて別の国の子爵家の出ですから」
「……てことは、花嫁修行とか?」
ニーファは困った笑みを浮かべた。
「でしたら良いのですがね。私、姉だけでも七人いるのです。そして私は妾の子。殿方からしたら私なんて家との繋がりを作ることもできない役立たずですから、残念ながら縁に恵まれず。かと言って、ずっと家にいるのも世間体が悪いので、少しでも貴族との関係を作るためにメイドをするようにと父に言われたものでして。……あ、いえ! 決してヴィリアラ様のメイドが嫌という訳ではありません!」
あー、中々にやばそうな家系だこと。
あまり突っ込んで聞くのはやめた方が良さそう。
「分かってるよ。それに、もしニーファが私のメイドを嫌がったとしても、私はニーファを逃すつもりはないから。ニーファのこと好きだから」
シスタに優しくしてくれるし。というかそれが一番。
「……それって」
あれ? もしかして子どもによくある、将来パパと結婚するー的な意味で解釈された?
いや、ないない。……一応訂正しておこう。
「変な意味で言ったんじゃないからね! 勘違いしないでよ!」
焦ってツンデレキャラみたいなセリフが飛び出してしまった。
「分かっていますよ。ただ、お嬢様にそのように思われていると知り、嬉しく思っただけです」
「嘘は言ってないからね」
「分かっております。ですが、なぜそのように言ってくださるのですか?」
「ニーファはシスタのことをちゃんと名前で呼んでくれて、私と同じように接してくれるから」
「それだけですか?」
「そのそれだけをしてる人がニーファしかいないの。ニーファのそういう、人がされて嫌なことをしないところが好きなの。でも、どうしてニーファはシスタをお嬢様として扱ってくれるの? こう言っておいてあれだけど」
もしかしたらシスタがこの家、いや、せめて両親に良く思ってもらえるヒントがあるかもしれない。
「簡単なことです。私も疎まれる子だったからですよ。ですから、差異なく扱ってくれる喜びが分かるというものです。それでは、私はそろそろ。朝食の支度をしてきます」
結局、分かったのはニーファの事情だけで、シスタのことをどうにかするヒントは得られなかった。
「はぁ。シスタ以外にもみんな色々抱えているんだなぁ」
私だって、今はなんともないけど乙女ゲーム通りなら破滅が待ってるし。
……そう、破滅が。…………破滅。
「すっかり忘れてたーーーーーー!」
なーにが世間知らずの王子だよ! 私あいつに不敬罪とか諸々で処刑されるんですけど⁉︎
あとなんだっけ、あと、世間知らず含めて三人いたよね。
えーっと……あ、そうだ! やたら正義感の強い王宮騎士団団長の息子だっけ?
たしか父親が伯爵位も持ってたから、実質伯爵の息子。
主人公を虐めてた私の様々な裏を暴いていって、処刑だっけ。
あともう一人は、えーっと、そうだ! ショタ枠! 侯爵の息子であざといやつ!
あいつのルートが一番優しくて、国外追放だっけ?
うわやっば、どうしよう。
割とこういうのって何もしてなくても歯車合わせとかで結局は同じ運命を辿るとかってあるんだよね。
いや、でもあいつらに媚びるとか死んでも嫌だ。
さて、どうしたものか。
本日もう一話投稿します。