シスタのため
ベッド脇の照明だけ付けられており、カーテンは閉められている。
普段よりも静かなことから、もう夜中なのだろう。
ニーファは……座ったまま眠っている。
「うーん」
すっかり目が覚めてしまったので、車椅子に乗ってちょっと部屋の外を散策しようと思う。
眠っているニーファを起こさないように、こっそりと脇にある車椅子に座り込む。
「本当に誰もいない。新鮮だけど、懐かしいな。前世があるからかな」
流石に階段は降りられないし上れないから、今いる階だけを進んで回る。
本当はお腹が空いたから食堂にでも行きたいけど、ここで誰か呼べば連れ戻されることは火を見るより明らかであるため、諦めることにする。
「電気が点いてる。父親の部屋?」
私は音が出ないようこっそりとドアを開けて聞き耳を立てる。
「どうお考えですか?」
母親の声だ。
「どうするも何も、ヴィリアラの為を思うのなら、ずっとあそこの部屋に入れて置くわけにはいかないだろう。今回の怪我も病も、元はと言えば──」
「分かっています。ですから、どうすればいいのか分からないのです。ヴィリアの為とあの悪魔から遠ざけていましたが、あの子はそれでも危ない手を使って会おうとしますし、会えなければ会えないで体調を悪化させてしまう。私が間違っていたのですか?」
「ヴィリアラからしたら君の考えは間違えているだろう。だが、大半の人は君の考えを否定できない。一月後には誕生パーティーが控えている。なら、多少なりとも二人の時間を増やすことが得策だろう。パティア、不服かもしれないが一旦様子を見てみないか? 悪魔の子がヴィリアラにどのような変化をもたらすのかを」
シスタと表向きに会えることは嬉しい。
でも、シスタをそんな風に言われたくない。今までは流していたけれど、こうしてちゃんと聞くと心苦しくなる。
だけど、もしここで私が出ていけば、今の話が無かったことになるかもしれない。
「ヴィリアがあの悪魔のせいでこれ以上変な影響を受けてしまったらどうするのですか⁉︎ 私は、間違っているのかと聞いただけで、ヴィリアとあの悪魔を会わせることは反対です! もう少し危機感を持ってください!」
神経質すぎるよ。
母親をどうにかしないと、この屋敷に漂うシスタへの侮蔑はどうにもならないだろう。
「しかし、そう言って遠ざけ続けてしまうのも良くないと思うんだ。流石に二人っきりにはしない。我々や使用人達の目がある場所で合わせるだけだ。それに、一度悪魔の子とヴィリアラがどのように関わっているのかを知れば、新たな対策だって見つけられるだろう。けど、パティアが思っている以上に俺も今回の選択に不安を持っている。パティア、分かってくれ」
対策って、シスタは害虫か何か?
今回の話、無かったことになるかもしれない。
けどやっぱり、大切な人を悪く言われるのは辛いよ。黙って聞いてるのは苦しいよ。自分の為じゃない、シスタの為に行動を起こさないと。
「その件、私は賛成です」
二人は驚いた顔して私を見る。
「ヴィリア──」
「ですが、シスタのことをそのように言われるのだけは納得できません。シスタのことを何も知らないのに、悪く言うなんてあまりにも酷いです。酷い誤解です。お父様とお母様はシスタの笑った顔をご存知ですか? 困った顔は? 泣いている顔は? 性格は? 知りませんよね。私だけしか見ていなかったのですから」
「誤解だヴィリアラ。父さん達はただヴィリアラのことが心配なだけで」
「……お父様とお母様は私のことが大切ですか?」
「もちろんです」
「当然だ。ヴィリアラは大切な娘だからな」
「では、シスタは?」
私の問いに二人して言葉を詰まらせる。
居心地の悪そうな顔をして。
「シスタは私の妹です。お二人の娘です。ロジャー家の名を持つ、私達の家族です。シスタを嫌う事情は知りませんが、ほんの少しだけ、シスタのことを知ろうとしてください。シスタへの態度はその後から決めてください。お願いします。それでは、私は失礼します。お休みなさい」
私は二人の言葉を聞く前に部屋を出て、自室へと戻る。
ベッドに横になったところで私は頭を抱えている。
急に五歳児とは思えない饒舌さになったこと? いや違う。シスタの悪口を聞くことが嫌だということだけで、今後のことも考えずに苦言を呈したことだ。
シスタを庇ったことで、下手したら学園入学まで監視を付けられて会えないかもしれない。
あー、どうしよう。やっぱり静かにしとけばよかったかも。
二人とも私とシスタを監視ありだけど会わせようとしていたのだから、そこで徐々に誤解を解いていくようにしとけばよかった。
両親にはああ言ったけど、シスタが嫌われる理由とかは知っているから、その知識でなんとかやってれば……。でも、見た目が原因だしな〜。
ああー! 二人が無知な我が子が悪魔に操られている! とかって感じに考えなければ良いけど。
なーにがシスタの為だ! 思いっきり自分のためじゃん!
くそー、お腹も空いているせいで全然寝れない──。




