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心の支え

 怪我をした日から数日、私は戻されるまでずっと同じ場所にいる。

 はたから見れば異様な光景だろうが、私自身それが考えられないほど精神に異常をきたしていたのだ。

 当然だ、なんたって日頃の楽しみが奪われてしまったのだから。


「扉の先にはシスタがいる。ここにいればドアの隙間からシスタが吐き出した空気を取り込めるかもしれない。シスタ、シスタに会いたいよ。お姉ちゃんもう限界だよ。顔を見たいよ、声を聞きたいよ、触れたいよ、笑いかけてほしいよ、撫でたいよ、シスタ、答えてよ。シスタ、シスタ、シスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタシスタ──」

「お、お嬢様、お嬢様! 正気を取り戻してください!」

「う、うぁ、シ、シスタ、シスター!」


 近くを通ったメイドによって、シスタとの距離がどんどん離されていく。

 自分の意思など関係なしに。


 そして、連れて来られた場所は、最近……といっても半年は経っているけど。比較的新しく私につけられた赤茶色の髪に茶色目の新人メイド、ニーファ・メドーの元。私が窓枠に捕まっている時に声を上げた張本人だ。


「ヴィリアラ様⁉︎ どうされましたか?」

「シスタ〜」


 私が涙をこぼしていると、目元にハンカチが当てられた。


「シスタ様にお会いになりたいのですね」


 私はその言葉に頷くことしかできない。

 声を出したくても嗚咽とシスタしか出ないのだ。


「お怪我が治れば、シスタ様とまたお会いできますよ」

「シスタ〜」

「シスタ様もヴィリアラ様にお会いしたいと思っておりますよ。お怪我のことで心配もされていました。心の優しいシスタ様にこれ以上心配をかけないよう、今は治療に専念しましょうね」


 私は使用人の中で唯一ニーファのことは好きだ。

 シスタのことを名前で呼び、そして、様をつけてくれる唯一の使用人だから。

 他の使用人はあの方としか呼ばないから、ニーファがシスタを忌諱の目で見ていないことがよく分かる。

 この屋敷では、いや、この世界で貴重な人材だ。

 だけど、それでも彼女のその言葉には頷けない。

 シスタがいなければ、治るものも治らない。


 そして、そのストレスによる身体への影響は、両親も気にかけるほどのものとなっていった。


「熱が下がりませんね。傷の影響もあるとは思いますが、病は気からというように、お嬢様のストレスがここまで体調を悪化させているのでしょう。追加の薬を出しておきますので、それを飲ませて、安静に、ストレスを与えないようにしてください」

「はい、分かりました。ヴィリア、大丈夫ですか?」

「何か欲しいものはあるか?」


 欲しいもの、そんなの一つしかない。


「……シスタ……」


 ──そういえば、私が乙女ゲームをやり始めたのって、確か……。

 ああ、ダメだ。思い出せそうで思い出せない。

 でも、シスタに一目惚れだった気がする。ダメだ、頭が働かない。頭が痛い。苦しい。


「────ら貸そうか? でも合わないと思うよ?」


 誰?


「────ったの!? ──ああ、なるほどね。納得」


 もう少し、あともう少し。

 あともう少しだけ顔を上げれば、きっと誰だか思い出せる。


「お姉様! お目覚めになられましたか?」


 シスタ? なんでここに? ……ああ、そっか、これ夢か。

 夢なら何も気にせずたくさん話せる。


「シスタ」

「はい」

「やっと、返事返ってきた。嬉しい。今までの私気持ち悪かったよね、ごめんね。シスタのことがどうしようもなく大好きなんだ」

「私も、お姉様のこと大好きです。お姉様がドアを破ってまで私と会いに来てくれた時、どうしようもなく嬉しかったです!」


 それって、二年前のことだよね。そんな昔のこと覚えててくれたんだ。

 あれは確か、ようやく多少の重い物なら持って歩けるようになった日。

 鍵は奪い取れないと悟ったから、父親の部屋にある短剣をこっそり持ち出して、石と併せてドアを壊したんだっけ。

 シスタも今以上に小さくて、幼い頃だったからてっきり覚えていないものかと思ってたけど。そっか、覚えてたんだ。夢世界の都合の良いシスタだとしても、すごく嬉しい。


「そんな昔の事覚えてたんだね。すごく嬉しい。私はね、もっと昔のことを覚えているよ。シスタと初めて会った日のこと。シスタはお父様に抱っこされていたの。シスタに触れようとしたけど出来なかった。でもね、初めて見た時確信したんだ。この子は私の人生で一番大切な人だって。自分よりも誰よりも」


 ああ、どうしよう。夢なのに段々と眠くなっていく。


「どうしようシスタ、夢なのにすごく眠いよ。やだな、ずっとシスタと一緒にいたいのに。シスタ、手握っててくれる?」 


 子ども特有のもちもちしたシスタの手が私の手を包み込む。


「お姉様、早く元気になってくださいね。そしたら、またいっぱい話しましょう。私も楽しみにしていますから」

「うん。シスタのためなら、なんでも、でき──」


 私の意識は深い眠りの波に攫われた。

 まだまだ話したかったという悔しさもあるけれど、それ以上にたとえ夢だろうとシスタに会えて、ほんの少し気持ちが報われた気がする。

 次目を覚ます時、シスタは目の前にいないけれど、少しだけ元気が出た。

夕方あたりにもう一話投稿します。


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