仕事は面倒
授業より先に準備して剣を振っていると、教官が話しかけてきた。
「よお。聞いたぞ、ここで魔法を教えるつもりなんだって?」
「魔法なのが不満ですか」
「俺が口出すのはお前の剣筋だけだ、決めた進路に文句は言わん。それで、他に何をするんだ?」
「……他?」
他、とは一体なんだろうか。魔法以外に受け持つ教科の事だろうか? 一応魔法のみのつもりではあるのだけれど。
「教師の他に何をやるんだ? 家の仕事でも手伝うのか?」
「教師だけですが?」
「…………お前、教師になるって言った時何か言われなかったか? 奥様とか、旦那様とか、他の人にも」
「言われてませんが。え、な、何か問題でも?」
教官は珍しく溜息を吐いた。おっさんに呆れられるとか屈辱以外の他ならない。
「この学園の教師は皆共通点がある。それは、教師はあくまで副業であるということだ。例えばお前の担任。豊富な知識量を活かし、複雑な文献の解読や簡略化、復元の助力やこの国の政策にも関与している。魔法使いは魔法や呪いの研究や薬、道具の開発。俺は隊や軍、要人の護衛の手配、可能であれば俺自身が赴く。教師はあくまで本職の為。研究費用は手当が出る。学園にあるものなら資料も道具も使えるし、生活も保証してもらえる。中には俺みたいに旦那様に頼まれて教師をやっているというのもいるが、それはそれで強力なバックがついているというメリットがある。つまり何が言いたいかと言うと、教師を本職にする奴はいない。そもそもここの給料ってそこまでよくないしな。お前の小遣い程度だ。だから、他の仕事も探せ」
ただでさえここの学園で教師するための試験勉強でいっぱいいっぱいだというのに、ここ一本は普通ありえないってどゆこと⁉︎
たしかに、ここの教師って皆さん普通に凄い肩書き持っていたよ、持っていたけどさ、まさか全員なの?
このままじゃただの公爵家の教師だよ私。
肩書きだけだとコネの塊だよ⁉︎
え、どうしよう、まじでどうしよう。
でも、これ以上試験だの免許だの言われたらできる気がしない。
「……やっぱり教師辞めようかな」
「そしたら本当に旦那様の護衛させられるぞ」
「やっぱ教師なる。教官、なんか凄い肩書きがもらえる仕事ありません?」
「それこそ旦那様の護衛だろ」
「嫌ですよ! シスタと離れ離れになったら私死んじゃいます!」
「じゃあ騎士にでもなればいい」
「いや、試験とか免許必要なのもちょっと。それに一応冒険者登録してあるので無駄にしたくないといいますか。あと、ネイトと同じ役職とか屈辱的で嫌です」
「我儘の多い奴だな。なら衛兵はどうだ? 俺が口添えできるのは武力関係だけで他は無理だ」
「衛兵ですか?」
「騎士と同じ公的職だが、騎士と違って国ではなく領主が管理するからな、仮に戦争が起こっても領土の守備を任されるのであって前線に立つ事はない。お前が衛兵になるなら領主は旦那様だからな、希望地帯で働かせてもらえるどころかお前を監視するために必ず家から通える領土でしか勤務は許されないだろうから丁度良いだろう。ま、しばらくは領主の息子ということで肩身の狭い思いを強いられるだろうが、お前ならそれくらい平気だろ」
何その神仕事。そんな良い仕事あるならお母様言ってくれたら良かったのに。
「じゃあ教師辞めて衛兵一本にします」
「教師はやったほうがいい。衛兵は何かあったらすぐ出なきゃいけないが、授業があることを盾に急な仕事は免除できるからな。何せこの学園のトップは国だからな。国と領主様じゃ圧倒的に国が偉い。そういう理由もあって、教師を兼任する者も多い。ま、頑張るんだな。お嬢様と坊ちゃんと一緒にいる上で一番融通の効く仕事は教師と衛兵の掛け持ちだろうからな」
こんな話を聞くたびに学園卒業が恐ろしくなるよ。
いつまでも学生でいたい。




