祭りの負の面
今日はお祭り最終日。この祭りに参加することがそもそもヒエルト王国に来た理由だったが、シオンが怪我している以上、その目的は果たせなくなった。
男共は各々理由があれど、しっかりと参加していたから良いだろうが、参加していない私はすごく残念な気持ちだ。
来年から社会人。また参加できるとは限らない。次ヒエルト王国に来られるのはいつになるのだろうか。
そもそも私は何をやっているのだろう。そろそろ進路を決めなければならない。
帰ったら母親に問われるのは分かっている。他の奴らに聞いても参考にならなかったし。はぁ、憂鬱。
「リー先輩!」
「シオン」
「行きますよ!」
「どこに?」
「お祭りに決まっているじゃないですか! いつ私が行けないなんて言いましたか⁉︎」
昨日散々、お祭りに参加できないシオンの為にという言葉に腹が立っていたのか、その言葉には少し覇気が籠っていた。
こうして、私はそのシオンの言葉に気圧され、有無も言えずにお祭りへと向かった。
「私が誘ったのリー先輩だけなんですけど」
シオンは不満そうに私にしがみついている。
まるで子どものようにぷっくりと頬を膨らまし、少々乱雑に松葉杖をついている。
「まあまあ、人数が多い方が楽しいでしょ。そもそも私達が来た理由はこのお祭りなんだから」
「そうですけど……」
「シオンさんに何かあっても私がいれば何でも対応できますので」
「こうして皆さんと出かける機会はあまりありませんので、つい誘われるがままに参加してしまいました。迷惑をかけてしまったのでしたら申し訳ありません」
「別にそこまでは言ってないじゃないですか」
調子狂うなとこっそり口にしたのは聞き逃さなかった。
シオンは素直なのかそうでないのか時折分からなくなる。
「私は常にヴィリアラ様の側に付くのが勤めですので」
「職権濫用も甚だしいですよ。あなたは休みを利用してここにいると言っていたではないですか」
「休むのはあくまでメイド業務です。ヴィリアラ様が側にいる以上、休みであろうと見張るのが専属の義務です。それに、シスタ様のことも任されておりますので」
「休みくらい休んでくださいよ、邪魔ですね」
「主人に何かあってはいけませんので」
どうもニーファとシオンは相性が悪いらしい。
シオンは言わずもがな反感を買う性格。ニーファも結構強情なところがあるから、普通に応戦する。
やれやれ、一周回って仲が良いんだろうな。
お祭りさえ楽しめれば問題ないから別にいいけど。
しっかし、すごい催し。
あちらこちらから心地の良い音楽が流れ、至る所でエンターテイナーが人々を楽しませている。
そして、おそらくシオン発案と思われる祭りといえばの射的や輪投げのようなゲームから、この国の伝統が詰まった食べ物や物、劇がやっている。
市場のように屋台も出ているが、店舗の中もかなりの賑わいだ。
正直これほどとは思っていなかった。
服装からも様々な国の人、身分の人がやってきている事が分かる。
国、貴族平民関係なく、皆楽しそうに笑顔を浮かべている。
私も内心年甲斐もなくはしゃいでしまっている。
まあでも、争いもあるようだけれど。
「こんなゴミに出す金はない。この私にこんな下劣な物を食べさせるとは、これだから平民は」
「それはあんまりだ。そりゃお貴族様の肥えた舌からしたら、食えたもんじゃねーかもだけどよ、一口でも口につけたんなら金は払えよ。慈善事業じゃねーんだ、これに家族の命かかってんだよ」
「礼儀も知らぬか平民風情が。この私が口にしたというのに、感謝ではなく文句を言うとは。分をわきまえたまえ!」
嫌なの見ちゃったな。ここは出ていくべきか。いやでも他国だし、そう簡単に首を突っ込むわけにもいかないし。
「こらこら〜喧嘩はやめな〜」
シオンは私の腕を離し、二人の間に入っていった。
私達も邪魔にならない程度にシオンに続く。
「これはこれはシオン様。ご無沙汰しております。杖をついていらっしゃいますが、お身体に問題でも?」
「お久しぶりですマイサル男爵。大したことではないのでお気になさらないでください。それより、そちらの店主と揉めていたようですが」
シオン、ちゃんとこういう対応できるのか。まあそうだよね。一応伯爵家の次女、社交界に参加することも普通にあるだろうし、これくらいの礼儀は備えているよね。
「少々問題がございまして。しかしご安心を。もうすぐ解決致しますので」
「だったらさっさと金払え! 男爵のくせに出し渋るな!」
「無礼者めが! シオン様の御前だぞ!」
「問題ありませんマイセル男爵。店主の気持ちは理解できますので。出し渋ってしまう理由はあるかと思いますが、口にしてしまったのでしたら大人しく払うべきです。手持ちがないのでしたらここは私が負担しましょう。今日は祭りです。嫌な思いは必要ありません」
シオンが懐に手をやると、おじさんは慌ててすぐに店主にお金を払った。
「シオン様に貸しを作るなど滅相もございません。では、私はこれで」
男爵が足早に去ったのを見て、またすぐシオンは私の腕にしがみついた。
「ちゃんとしているんだね」
「平民であろうと貴族であろうと敵は厄介ですから。私のような立場の人間は」
「それもそっか」
お久しぶりです!四章第二部再開です!




