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演技派

 テスト前、相変わらずネイトは嘆いている。

 アドラは最初のテスト以降そこそこ真面目に勉強するようになって、面倒見なくて良くなったからいいけど。

 ネイトの担当は私じゃないし。


「リー先ぱ〜い! 助けてくださーい!」


 帰り支度をしていると、シオンがカバンを持って訪ねてきた。


「どうしたの? 分からないところでもあるの?」

「完璧優秀な私にそんなことはありえません! 困っているのは取り巻きです!」


 ああ、あの(しもべ)たちのことか。


「あの子達ならシオンの言うこと聞くと思うけど」

「モブはそうですけどメインは違うんですよ。とにかく、可愛い後輩のお願いだと思って助けてほしいのです」

「助けるって、具体的には何すればいいの?」

「テスト期間の間だけでいいので、リー先輩の部屋に泊めてください」

「え⁉︎」


 あまりの提案に思わず大きな声が出てしまった。


「な、なんでそうなるの?」

「──ここ、イベントがあって、商会の息子ルートなら一緒にお勉強会、それ以外の二人は私が教えるってルートなんです。強制力というかなんというか、とにかくイベントをこなさせようっていう働きがあるんですよ。ゲームならともかく、現実だとその三人に加えてモブ達にも同じ対応しなくちゃいけなくなるから面倒なんです。──お願いします、リー先輩!」


 シオンの気持ちも分からなくはない。

 シオンの提案を受け入れるか悩んでいると、王子が口出ししてきた。


「品のない女だな。異性の部屋にしばらく泊めろなど、とても貴族の令嬢が口にする言葉だとは思えない」

「そんなこと言ったらネイト先輩はどうするんですか? そもそも、私がそんなに軽い女に見えますか? だとしたら心外です。私はリー先輩なら構わないから、リー先輩にだけお願いしているんです。たとえ頼れるのが貴方だけだとしても、貴方にはお願いしませんよ、エミット殿下」

「僕だって君のような人間は断らせてもらう」

「それはとても喜ばしいですね。では、この話はここで終わりですね。私とリー先輩の会話に入ってこないでください。リー先輩、お願いします」 


 おそらくシオンは首を縦に振るまでずっとお願いしてくるだろう。

 なら、出せる答えは一つだけになる。


「分かっ──」

「あの、私の部屋では駄目ですか? 私は何も懸念することはないと思いますし、何かあればすぐにお兄様が駆けつけられますし」 

「嫌。私はリー先輩が良いんです。それだけは譲れません」

「そ、そうですか。すみません……」

  

 シスタは少し落ち込んでいる。その姿を見ると胸が締め付けられる。


「シオン、いくらシオンでもシスタを傷つけるのは駄目だよ」


 シオンは瞳をうるうるさせ、少し俯いて、声を震わせた。


「私、そんなつもりじゃないのに。ただ、リー先輩と一緒にいたくて、つい強く言っちゃっただけなのに。酷い……」


 シオンはシクシクと泣き出した。

 分かっている、これは演技だと。分かっている。でも、流れる涙を蔑ろにはできない。


「シオン、あのね」

「リー先輩は私の事嫌いなんですか? そうですよね。私なんて、後輩なのに遠慮せず先輩達に交じっているし、初めの頃は私の事迷惑だって言っていましたし。私なんて、リー先輩にとっては無価値どころか存在すら嫌ですよね」

「そんなに言わなくても」

「そんなにということは思っているんですね。分かってます、私が悪いって。我儘ばかりでごめんなさい。もうこれ以上迷惑をかけたくないので、必要な時以外は交流を控えます」

「そんなこと言わないで。シオンのこと迷惑だなんて思わないよ」

「じゃあ、私の事好きですか?」

「好きだよ」

「どれくらい好きですか?」

「え?」

「やっぱり、お世辞なんですね」

「違うよ! えっと、そう! こいつらよりは何倍も好きだよ!」

「ボス⁉︎ 酷いよ⁉︎」

「何だ? 呼んだか?」

「君は早くこのページを終わらせたまえ。この僕の時間を使っているんだ、君によそ見をする時間はない」

「へいへい」


 シオンは三人を一瞥すると溜息をついた。


「アドラ先輩達ってリー先輩の中で好感度はそれほどですよね」

「うっ……。何倍、何倍もだから」

「それじゃあ分かりません。もっと分かりやすい指標……リシア先輩よりもですか?」


 これまた言いにくい事を。


「リシアと同じくらい好きだよ」

「同じ? ということは、私の事あんまり好きじゃないんですね」

「え⁉︎ なんで⁉︎」

「だってリー先輩、リシア先輩と話しませんし」

「いや、それはその、事情があって。と、とにかく! 私はリシアのこと大好きだから、シオンのことも大好きだよ!」


 バンッと横から痛そうな音が聞こえた。


「リシアちゃん⁉︎ 大丈夫⁉︎」

「大丈夫だよ」

「顔すごく赤いよ。熱だったりする? 今日具合悪いのずっと我慢していたりする?」

「こ、これは違くて、大丈夫だから」

「でも、顔ぶつけちゃったのは事実だから、氷貰ってくるね。リシアちゃんはここで安静にしていて」

「あ、じゃあ僕も一緒に行くよ。ボス、シスタちゃんの事は任せてね」


 まあ、アドラがついてくれるなら私は行かなくて大丈夫か。

 シオンの面倒見れるの私だけだし、ここに残っておいた方がいいか。


「よろしく」

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