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一年の終わり

 この日のために仕立てた深緑色を基調とした、全体的にダークなタキシードを身につけ、珍しくワックスを使ってオールバックにする。

 最近、ヒエルト王国から出ている良いワックスが手に入ったから、今後はこういう特別な場では使うことにした。


「すぅーはぁー。大丈夫、もう心の準備はできている。大丈夫。ケジメはつけないと」


 テストではないので、私はシスタ達の準備を終えるのを待つ。

 ニーファも大変だな。私の支度を終えてすぐにシスタとリシアだもんね。

 あの人休みないし。

 うん、まずいな。ニーファがいるのが日常すぎて気にもしなかったけど、休みがないのはあまりにも可哀想だ。

 まずは両親に話して、ニーファに休みでも作ってあげないと。


「あ! ボス! やっぱりここにいたんだね! いいね、今のボス、いつも以上にかっこいいよ」


 アドラは相変わらず黒のタキシードだ。

 アドラの見た目ならいっそのことピンクとか水色とかの方が似合うと思うんだけど。


「そ、ありがとう。アドラも頑張って着飾っているね」

「似合わないのは分かっているよ」

「アドラのその姿は人によっては需要あるからそのままで良いと思うよ」

「え、そ、そうかな。ボスに言われると僕もこの姿良いなって思えてくるよ」


 ちょろ。


「ところで、アドラは会場行かないの?」

「嫌だよ。今行ったところでうるさい人と嫌味な人と一緒になるだけじゃん」


 ゲームをやっていて思ったことがあった。攻略対象同士の仲はどうなのかと。

 結果はまあ、アドラの言葉の通り良くはない。

 別に私かシスタかリシアを挟めば苦ではないらしいから、嫌いというわけではなさそう。

 できるなら関わりたくないといったところか。


「一人でいればいいじゃん。あいつらとは見かけるなり話しかけるほど仲良いわけじゃないでしょ」

「そうだけど、周りからはもう一緒にいて当然みたいに見られているんだよ。それを期待している人も多いし。だから嫌なの。ボスと一緒にいた方が断然良い」


 ああ、そういえば。

 特にご令嬢方の目がそうだ。

 どこの世界でも女性ってほんとイケメン同士の関わり好きだよね。


「すみません、お待たせしました」


 溜息をついた丁度そのタイミングでニーファが顔を見せた。

 ニーファの後にシスタとリシアが部屋から出てくる。

 リシアはピンクのふわっとした可愛らしいドレス。

 リボンの装飾がよく目立つ。

 ピンクと白のみのドレスの為、すごく目に優しいのと、リシアのイメージがより柔らかくなる。

 家にいる間、シスタチョイスで仕立ててもらったが、流石だ。よくリシアのことを分かっている。

 それよりも──


「シスタ、そのドレス」


 私とは違って明るめの緑が基調のマレットドレス。

 私の命を脅かすほど可愛らしい姿だ。


「お姉様が深緑にすると仰っていましたので、私も緑色のドレスにしてみました」


 見た目だけでなく理由も可愛すぎる。

 日常に戻ったとはいえ、シスタロスの期間は長かった。そう、長かったせいで耐性が薄れていたのだ。


「ぎゃわいい! 死んじゃう! ぎゃわいい! ああ、なんて尊い姿。神様はなんて意地悪なことを。シスタが愛おしすぎて直視できないではないか。ああ、なんて酷い事を。ああああ……ああ……うっ、可愛い、可愛すぎる。まじNo. 1。まじ天使」


 あまりのダメージに私は立つのもままならなくなる。


「あ、あの、お兄様?」

「放っといていいよシスタちゃん。ボスの発作だから」

「アドラはシスタのこの姿を見てなんとも思わないの⁉︎ 目ついてるアドラ⁉︎ もう可愛いなんて言葉じゃ表せない可愛さだよ!」

「あーはいはいそうだね、可愛すぎるね。それじゃあそろそろ会場に行こうね」

「こんなところでもシスタの可愛さは百万倍なのに、映える会場に行ったら無限倍になっちゃう。それどころかどこぞの馬の骨共がシスタに惚れるかも。そんなのお兄ちゃん許さない!」

「ヴィリアン様は私に任せて皆さんは先に行って下さい」

「待って! 私だってシスタと一緒に行きたい!」

「では早く落ち着いて立って行ってください。早くしないと皆さんに迷惑かけたと奥様に言いますよ」


 そ、それは困る。


「行きます」 

「元に戻ってなによりです」


 学園内ではあるが、少し離れた場所にあるパーティー会場まで馬車に乗って向かう。


「ボスって本当にシスタちゃんのことになると面倒くさいよね。周り見えなくなるし。困ってたよ。シスタちゃんだって床に倒れる兄なんて見たくないよね?」

「皆さんの前でなら大丈夫ですよ。知らない人の前だとちょっと困っちゃうかもしれませんが、お兄様はちゃんとそういうところは弁えていますので」 

「そっかー。ちなみにさ、シスタちゃんはボスにあんな風に狂われるのは異常だと思わない?」


 狂う言うな。

 推しを前にした人間は皆ああなる。


「昔からですので、特に気にしたことはありませんね」

「昔からあんなに狂ってたの?」

「失礼な。私は昔からシスタへの愛を隠していないだけの普通の人間だよ」

「はは、そっか」


 なんだその乾いた笑いは。

 私は溜息を溢して正面にいるリシアを見る。

 いつもなら微笑み返してくれるリシアだが、今はちょっとムスッとしてそっぽを向いた。

 流石はヒロイン、そんな姿もめちゃ可愛い。じゃなくて!


「ねえアドラ、なんか リシア不機嫌なんだけど、なんで?」


 リシアに聞かれないように小声でそう聞くと、アドラは呆れて答えた。


「そりゃ、頑張っておめかししたというのに、シスタちゃんばかりで何もなければ拗ねるでしょ。ちなみに僕はボスが狂っていた時にちゃんと二人に言ったよ」


 あ、ああ、ああああ! やってしまったー!

 やば、男として、いや、人として最低なことをしてしまったー!


「あ、あの、リシア。リシアさーん」


 リシアは無視するだけでなく、私不機嫌ですとアピールするように顔を背けた。


「ごめんリシアー! 心の中で褒めて口にするの忘れてたよ! 本当にごめん! ちょー可愛いよ! めっちゃ可愛いよ! ドレスリシアに似合ってて凄く好きだよ! 一番最初に目がいったのリシアだよ! それほど可愛いよ! 本当にごめん!」


 焦りを顕にしながらリシアの手を握って捲し立てる。

 そうしていると、根負けしたのかリシアの顔が緩んだ。


「大丈夫ですよ。ありがとうございます。ヴィリアン様もとてもお似合いです。すみません、子どもっぽいことをしてしまって」

「いや、私が悪いから。本当にごめんね」

「やっぱりそれくらい落ち着いてくれた方がシスタちゃんも良いと思う」

「今はどう考えてもアドラの出番じゃない」


◇◆◇◆◇


 程なくして、パーティー会場に着いた。

 アドラを先に降ろさせ、シスタとリシアには手を伸ばす。


「僕もエスコートしてほしい」

「してほしければドレスでもきたまえ」


 流石にレックス家が許さないとは思うけど。


 会場に入ると、煌びやかな景色が広がっていた。

 ここは一学年が集合する場所、つまり、身分関係なく見知らぬ生徒もいる。

 そして、見知っている生徒も。

 

「よお! 遅かったな! もうすぐ曲始まるぞ。お前ら相手はいるのか? 王子はいないみてーだがな!」

「僕は既に決まっている。君こそ早く探さねば、一曲目は端で情けなく見ているだけになるぞ」

「うっせ。じゃあリシア、踊ろうぜ」

「え、あの、すみません、もう相手が決まっていまして」

「だって。ほら、僕らは探しに行くよ」


 アドラはネイトを回収して、女の子達の集団に突っ込んでいく。

 いくらモテるからといって、私には女子集団に突っ込む勇気はないから尊敬するよ。


「王子、相手がいるなんて嘘を言うとは、惨めな人だ」

「相変わらず失敬だな君は。僕は君の妹と一曲だけ踊ってやる約束をしたんだ。君こそ相手がいないのではないか?」

「シ、シスタ、こいつと踊るって本当?」

「はい。私なら良いと王子様直々に仰られましたので」


 あまりのショックに私は放心状態になった。


 気づいた時には音楽が鳴っていた。


「──ン様、ヴィリアン様!」

「うわっ! あ、リシア」

「音楽始まりましたよ」

「あ、本当だ。ごめんねリシア、相手待たせているでしょう」

「あ、いえ、その、相手がいるのは、嘘です。その、踊りたい人がいまして……」


 ああ、無神経なこと言っちゃったな。では、出遅れた分サービスするとしよう。

 私は膝をつき、リシアに向けて手を差し出す。


「リシア、例え踊りたい人が私じゃなかったとしても、今この時だけは私と踊ってくれませんか?」


 リシアは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに頬を緩ませた。


「こちらこそ、貴方と踊れるこの瞬間を常日頃待ち侘びておりました」


 リシアが差し出した私の手に触れた瞬間、音楽が終わった。


「あ、ごめんね。次踊ろうか」

「はい」


 次の音楽でリシアと踊り、その次にシスタ、どうしてもとうるさいので、アドラとも。

 その後も休憩に入ろうとしている私を捕まえたクソガキ達の相手を閉会までさせられた。


「はぁ、疲れた」

「お疲れ様です」


 ベランダに出ると、月明かりに照らされているリシアから労いの言葉を貰った。

 ここの景色には見覚えがある。

 告白シーンと一致する。違うのはドレスくらいだろう。


「リシアは疲れた?」 

「そうですね。ですが、凄く楽しかったです」


 ゲームに倣うなら、リシアはここで告白する可能性が高い。

 私からの告白がないのだから、必然的にリシア告白ルートに入るだろう。

 だからその前に、私はリシアに告げなければならない。

 覚悟を決めろ、私。もうその時がきてしまったのだから。


「そっか。それなら良かったよ。……話変わるけどさ、リシア、私のこと好きでしょ。恋愛的な意味で」 

「……え⁉︎ えっ! ええっ!」


 あれ? そこまで驚く? 前気づいていたらとかなんとか言ってたよね?


「あれ? 違った?」

「い、いえ、その、す、好きですけど。えっとその、どこで気づきました?」

「リシアがキスした時。リシアって私に気づかせようとしていたんじゃないの?」

「意識させようとはしましたけど、ヴィリアン様のことだから、キスくらいで気づかないと思っていました。シスタちゃんによくしていると言ってましたし」

「……誰が?」

「シスタちゃんが」


 おーシスター! 何でもかんでもリシアに話しちゃダメよ! そういうのは普通隠しているものだよ!


「シスタは妹だから」

「兄弟でもしないと思いますよ。ヴィリアン様とシスタちゃんは異性ですので特に」

「そのことだけどさ、ずっと隠していたことがあって。できることならずっと隠しておきたかった。でも、リシアが私に恋心を抱いているって知ってさ、言わなくちゃってずっと思っていたの。ごめん、もしかしたらリシアとの関係を壊してしまうかもしれない」


 無意識に震わせていた私の手を、リシアは包み込んだ。


「大丈夫です。どんな事実であろうと、私はヴィリアン様を嫌いになりません」 

「……ごめんねリシア。私、本当は女なんだ。本名はヴィリアラ・ロジャー。だから私、リシアとは恋愛関係にはなれない」


 リシアは包み込んでいた手を離し、私を呆然と見ていた。


「ほ、本当ですか?」

「そうだよ」

「……すみません、少し整理させてください」

「うん。整理できるまであまり混乱させないようにするから安心してね」

本編? は一応終わりです。

次話で恒例の別キャラ視点になります。

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