対等な交渉ですよ
シスタと分かり合えた日からずっと考えていた行動をついに起こせる日が来た。
「もう一度確認しますが、考え直す気はありませんか?」
「ないよ。ニーファがしなければ私がこの手で実行するまで」
「……分かりました。責任は取りませんよ」
「もちろん。取らせないから思いっきりやっちゃって」
ニーファは躊躇いながらも深呼吸をして私の髪にハサミを当てた。
「いきます」
私の長い髪は呆気なく床に落ちた。
「おおー、流石ニーファ! 上手!」
私はティディにお使いを頼んでいた男児用の服に着替える。
鏡で全身を確認するが、元から美人よりの顔だったこともあり、どこからどう見ても令息だ。
私は嬉々としてこの格好のまま父親の元へ向かった。
「お父様、お話があります!」
「ヴィリアラか。遠慮せず言ってみな……さい。い、一体、その格好はどうしたんだ……?」
目を擦って現実か確かめている父親の質問は無視して、私はまず自分の要望だけを伝える。
「お父様、私に剣術の先生をつけてください!」
父親はさらに頭を抱えた。
「せ、説明をしてほしい。父さん、まだ状況が。パティアになんて言えば……」
やっぱり説明しないとダメか。
「お父様も知っている通り、シスタはこの先もずっと忌み嫌われ、傷つけられます。だからこその格好です」
父親は一度深呼吸をして笑顔を浮かべた。
一周回って悟りを開いたのだろう。
「すまない、父さんまだよく分からないや」
「シスタのところは分かりますか?」
「それは分かっている。実際、彼女を受け入れられているのはヴィリアラとメドーさんだけだ。他の使用人は彼女をいないものとして扱っているし、父さん達も考え方を改めようとしているが、綺麗さっぱり疑念を無くすことはできない」
「その通りです。お父様とお母様がシスタの事を前向きに考えてくださっていることは分かっていますし、感謝しています。しかし、他がだめです。ロジャー家でこの状態なのです、他の貴族がいる場にシスタを出せば、また酷いことをされるのは分かっています。だから私はロジャー公爵家の令嬢ではなく、令息になる必要があるのです。私も考えなしの馬鹿ではありません。いくら公爵家の令嬢だからといっても、やはり令息であることのほうがシスタを守る効力が段違いです。ですから、私はこの格好でシスタを守ることを選びました」
それに令息はある程度失言や失態をしても令嬢ほど厳しく咎められないし、何より剣術の腕が認められれば剣の所持も認められる。
ならない手はないでしょう。
「言っていることは分かった。けれど、その格好では婚約が」
「大丈夫です! ロジャー家を継ぐ子どもさえいれば良いんですよね! シスタのためなら子どもくらい産みますよ! あとは理解してくれる令嬢を妻にすれば問題ないです! 最悪ニーファを嫁にすれば心配事は無くなります!」
「そういうことではないのだが……。はあ、そこまでしたということは何を言っても聞かないのだろう」
「はい!」
「分かった、認めよう。ただし、パティアには父さんから伝えておくから何も伝えないでほしい」
「分かりました! ありがとうございます、お父様! もし聞いてくださらなければお母様に手紙と切った髪を送る予定でしたので、無駄になって良かったです」
まあそんなつもり一切ないけど。一応切り札としては使うつもりだったし、嘘は言っていない。
我ながら親泣かせな子だよ。
「本当によかったよ」
「ところで、剣術の先生はいつ頃お呼びできますか?」
「まずは探さなければならないからな、それまではうちの護衛隊長にでも稽古をつけてもらいなさい」
「分かりました! それでは失礼します!」
私はその足でシスタの部屋へと向かった。
二章です




