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冒険者ギルド

「まあ、私もここにいる間は警戒してあげるよ。私に向いていない攻撃だと、下手に手出せないけど」

「師匠、冒険者の資格持ってないのですか?」

「冒険者?」


 この乙女ゲーの世界にハイファンタジー代表とも言っていい冒険者が存在することは知っている。しかし、一体なぜここで冒険者が出てくるのだろうか?


「師匠上の人だし、冒険者の事とか知らないでしょ」

「あ、そっか。えっと、冒険者っていうのは──」

「それくらい知ってる。民間兵みたいなもんでしょ。馬鹿にするな」

「申し訳ありません! その通りでございます!」


頭ぶつけたが大丈夫かこいつ? ……まあ元々ダメだし問題ないか。


「それで、冒険者の資格って? たしかに冒険者という存在は知っているけど、詳しくは知らない。せっかくの機会だし、たまには君らが先生になってみなさい」


 そう言った瞬間、あっちこっちから教えられる冒険者とはなんたるか。

 私は聖徳太子じゃないぞ。


「シャラップ!」

「シャ、シャラ……?」

「一人代表を決めなさい。一気に喋られると分からなくなる」


 コイントスで最後まで表を出した一人が誇らしそうに私の前に立った。

 羨ましいだろうと、悔しそうにしている生徒達を横目で見ている。性格悪いなこいつ。


「それでは、僭越ながら私目が師匠に冒険者についてお教えいたします。冒険者というのは──」


 簡単にまとめると、冒険者資格を持っていれば、自身に関係ない犯罪も、現行犯なら拘束できるようになるらしい。流石に殺したりとか、やりすぎたりとかしたら刑罰に問われるけど。

 衛兵擬きといったところか。

 ただ、注意として、冒険者資格と騎士資格は同時には取得できない。個人勢が企業勢として同名義で活動出来ないみたいなもんだ。

 冒険者から騎士を目指す人は多いが、そういう人は騎士資格取得試験の前に冒険者資格を棄てるらしい。まあ、騎士の方が安定しているから当然だろう。

 ただ、一度捨てるとまた一からランク上げだから面倒らしい。だから、上位ランクまで上がったら、そのまま冒険者として活動した方が自由もあるし、お金も下手に騎士になるより稼げるから良いらしい。


「ちなみに君らは冒険者資格持ってるの?」

「魔法を使える人は多いですよ。身を守ったり、さっき説明したように、犯罪などの問題が生じた場合のみという前提ではありますが、依頼以外で魔法を使っても問題はないので」

「あと、僕ら平民は金銭的に厳しい時とかは冒険者でお金を稼ぐよう言われているので」


 みんな意外と持っているんだな。


「あ、でも師匠は許可証が無いと発行は難しいかもしれないですね」

「何の?」

「ご両親どちらかの許可です。ギルドだってお偉いさんの子どもが勝手に冒険者になるって言って資格与えて、万一死なれでもしたら大変ですからね」


 まあ、たしかに。


「とりあえず聞いてはみるよ。持っていて損はないみたいだし」

「あーまあ、そうですね」


 ん? なんか引っかかる反応だな。何か隠している?


「君達、一体──」

「ヴィリアン様、流石にこれ以上は待てません。今すぐに帰路につきましょう」


 この世界はたまにこういうお節介を働いてくる。

 迷惑極まりない。


◇◆◇◆◇


 まさかのまさかの奇跡的に母親から許可証を書いてもらうことができ、私は護衛を二人連れて冒険者ギルドまでやってきた。

 いや〜、父親が不在だと聞いた時は心配していたけど、理由を話したらすんなり納得して、むしろ持っていなさいと乗り気で書いてくれるとは思わなかったよ。


 護衛がギルドのドアを開けて入ると、明らかに異質な雰囲気を感じた。

 冒険者は酒場と両立している場合がほとんどだ。昼間っから酔っ払ってる奴なんて普通にいる。

 酔っ払いほど心が穏やかじゃない奴なんていない。

 


「けっ、どこのガキだよ」

「あーあ、いつから冒険者は金持ちの道楽になったんだか」

「金持ちのガキは嫌なんだよな。何にもしないくせに金払ってるからって偉っそーに」


 四方八方から不平不満を言われる。うん、新鮮な感覚だ。私に浴びせられるのは黄色い歓声だけだったから。


「あいつら、ヴィリアン様に侮辱を」

「よしなさい。私は喧嘩しにきたわけじゃない」

「しかし」

「ここにいる全員を相手にしたら、我が国の損失だ。それくらい分かるでしょう。言葉くらい無視しなさい。これは命令」

「は! 出過ぎた真似をお許しください!」

「はいはい」


 護衛を諌めたら諌めたで、冒険者は文句を言う。


「け、あれで聖人気取りかよ」

「面倒な奴が入ってきたな」


 気にせず受付目指して進んでいると、不敵な笑みを浮かべた男が私の前に足を出した。

 私はそいつの神経を逆撫でするように笑みを返し、長い足で軽々と跨いだ。


「おいガキ! なんだその態度は!」


 男は一気に顔を不細工にして、フラフラの状態で立ち上がった。私に近づかせまいと、護衛が私を守るように前に立つ。


「剣は出すな。でも、万一に備えて手はかけておくように」

「承知しました」


 私は再び男の方を向き、先ほどと同じ笑みを浮かべた。


「失礼、ここには初めて来たものでね、まだよく分かっていないのですよ。もし私の何かが気に障ったのなら謝罪いたします。申し訳ありません」

「そういうのが気に入らねーんだよ! ここはガキのお遊びの場じゃねーぞ! 特に金持ちは俺らを見下したような目を向けやがって!」


 男のその叫びに、他の冒険者もそうだそうだと声を上げた!


「帰れ!」

「俺たちの仕事を奪うな!」

「俺達は駒じゃねーぞ!」

「か・え・れ! か・え・れ!」


 はあ、今度は帰れコールか。この前とはまた違ったうざさがあるな。

 てか、あいつらこうなることを隠していたのか。


「ヴィリアン様、どういたしましょう」

「さあ、無視すればいいよ。どうせ酔っ払いと話したところで無駄になるだけだからね」

「んだと、てめぇ。社会を知らないガキが! 舐めた口聞いてんじゃねーよ!」

「君らこそ知らないんじゃないかな。ああ、失礼。君らの大半は教養を受けてこなかった人達だから仕方がないね。では一つ教えてあげるよ。目の敵にする人間くらいはちゃんと見極めろ、酔っ払い共」 

「貴様──」


 男が武器に手を触れたのを見て、杖を構える。


「静まれ!」


 受付の方から銀髪琥珀目の男が声を上げた。その装い、顔つき、そして周りの反応。あの人がギルマスだと一瞬で分かった。

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