最悪な振り
元に戻った姿で教室に入るが、特に驚かれはしなかった。
「あ、ボスおはよう。いや〜終わっちゃったね。幼少期のボス可愛かったから、もう見れないと思うと残念だよ」
「何言ってるの。あんなにビクビクしながら接していたくせに」
「あはは、いやー、あんな怖い目にはもう会いたくないよ。ボスを死なせちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたよ」
「王子が助けなければ本当に下手したら死んでたよ」
「あれは本当にごめん」
「いいよ。今度高いの奢らせるから」
「奢らせていただきます。そういえばシスタちゃんは?」
「シスタはリシアと向かうって」
「ボスが一緒じゃないなんて珍しいね」
「王子にお礼しておこうと思って。頼んだわけではないけど、面倒を見てもらったのは事実だから」
けど、まだ来ていないみたいだし、シスタ達と来れば良かったよ。
「よおヴィル! 戻っちまったのか、残念だな」
「私はこれでちょっかいから解放されるから良かったよ」
「可愛かったのにな〜。今のお前なら腹立つ言葉でも、小っちゃいヴィルなら微笑ましい我儘だというのに。はぁ、俺も妹欲しい」
ネイトはそう言いながら机に突っ伏した。
「私を見て思うなら弟だろう」
「どう見たって幼女だっただろ」
「髪はともかく服は親のせいだから」
「そっかー。はぁ、妹欲しいな。でも、実際は妹より娘の方が可能性高いんだよな」
「相手もいないのに何言ってんだ馬鹿」
「相手は作りたければ作れるが、好みの女がいねーんだ」
「え、ネイトさんあんなに女遊びしているのに?」
「チビ、一つ良いことを教えやる。必ずしも好みの女だけを相手にしようと思ったら、女遊びなんてできねーぞ。それに、俺の誘いにほいほい乗るような女は全員経験済みだ。正直、中途半端に経験ある奴を抱くくらいなら娼婦を抱いたほうがマシだ。そっちはプロだからな」
「ネイトさん娼館行ってるの?」
「生理現象だからな、仕方ない」
そんな真面目な顔で言われてもな。てか元に戻って早々こんな話を聞かされる私って……。
「興味あるのか?」
「いや、まあ、こう見えて僕も男だし」
「じゃあ今度三人で行くか!」
ちょっと待て、その幻の三人目って王子だよね? まさか私じゃないよね?
「ヴィルも流石に始まればやる気出すだろ!」
おい、下を指すな馬鹿!
「おはようございます。ヴィリアン様、戻られたのですね。ご無事なようで何よりです」
「お兄様、皆さんと一体何の話で盛り上がっていたのですか?」
「今度娼館に行くかって話だ!」
おーい! 前世でも女の子に下ネタを言う男はいても、風俗の話をする男はいないぞ! お前は本当にどれだけ馬鹿なんだ!
「いや、私は行かないよ。なんか知らないけど巻き込まれているだけで……」
「お兄様」
「あ、はい……」
ああ、終わった。いくら巻き込まれたからといっても、こんな話に混ざっているんだ、シスタに軽蔑される。
「しょうかんって何ですか?」
顔を真っ赤にしたリシアとは対照的に、シスタはきょとんとした顔を見せている。
そうだ、シスタは子作りも知らないんだった!
私は安心のあまり、隣に座ったシスタを抱きしめた。
「好き。ずっとそのままでいて」
「えっと、お兄様?」
「え、あ、ごめんね。えっと、その、そうだね、なんというか……」
「男性専用の医療施設みたいなもんだよ」
ありがとうアドラ。おかげで姉の尊厳を守れるよ。
「皆さんどこかお体が悪いのですか?」
「そこは体が悪い人が行くんじゃなくて、むしろ元気な人が行くんだよ。簡単に言うと、健康を維持する場所」
「そのような場所があるのですね、凄いです。帰ったら父や弟にも教えておきます」
一難去ってまた一難ときましたか。こんなところで家族思いを発動しなくても良いんだよシスタ!
「えっ。それはやめた方がいいと思うな。あの、その、そう! そこは紹介制でね、知ったところで入れないんだよ。健康を維持できる場所だから、もし誰でも行けるって分かるとすぐに人気店になっちゃうでしょ。そうなると、店の人が大変だからね、ひっそりと経営しているんだよ。だから、紹介されないと行けない。なら、教えない方がいいでしょう? 知らなければ存在しないのと同じだし。シスタちゃんも二人をがっかりさせたくないでしょう?」
よく頑張った、アドラ。この馬鹿の尻拭いを買って出てくれてありがとう。
「たしかにそうですね。お伝えしておくのはやめておきます」
シスタの返事を聞いて、その場にいる全員安堵の息を漏らした。
「おいヴィル、シスタってどこまで知ってるんだよ」
ネイトがシスタには聞こえない小声でそう聞いてきた。
「全部知らない」
「まじかよ」
「まじ。我が家はそういうの徹底しているんだよ」
「じゃあなんでお前は知っているんだ?」
「……私は家庭教師の意向でよく外に出ていたから」
「なるほどな」
こいつが馬鹿で助かった。
「あ、王子」
「……戻ったのか。可愛げがなくなったな」
「失礼だな。はい、これ。まあ、助かったよ。ありがとう」
「……なんだこれは」
王子は渡したネックウォーマーを訝しげに見ている。
「マフラーみたいなもの。顔から被れば良い。それなら、締められる心配もなく、首を暖められるよ」
王子はすぐにネックウォーマーを身につけた。
「まあ、くれるというのなら貰ってやろう」
素直に気に入ったくらい言えばいいのに。
「いいな〜。ボス、僕もあれ欲しい!」
「あれマフラーより作るの面倒くさいんだよ」
元々私用に作っていた物だし。また一から作らないと。
「え〜」
「君が作った物か?」
「そうだよ、何か問題でも?」
「いや」
完璧な出来だろう。何年編み物やってると思ってる。
なぜネイトが出るとそっち方面になるのだろうか。




