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決意

 今日も真っ暗な一日を過ごしていると、母に呼び出された。


「ヴィリア、私はしばらくあなたに会えなくなります」

「仕事ですか?」

「いいえ、もっと大切なことです。そのため、ヴィリアに何かあってもすぐに駆けつけることができなくなります。ですから、これをあなたに授けます。どうするかは自分自身で決めなさい。私もお父様もあなたの選択を尊重します。ヴィリア、愛しています」


 そう言って渡されたのはシスタの部屋の鍵だった。


「お母様とお父様は認める気になったのですか?」


 私は母親に目もくれず、渡された鍵をじっと見ながらそう問いた。


「それはヴィリア次第です。ですが、私もお父様も進みたいと思っています。けれどまずはヴィリアの進む先を見てみたいのです」


 私の先……。


「ありがとうございます、お母様。少し考えてみます」

「そうしてください」


 パーティー前の私なら喜んでいただろう。

 けど、今の私にはそんな単純な感情でいられない。


 これから先も私がシスタといることを望めば、シスタは嫌でも表舞台に、貴族の場に、ロジャー家の娘として顔を出す必要がある。

 でも、シスタをこのまま一人にすることを選べば、シスタの存在は隠されたまま、学園の時まで表舞台に出なくて済む。

 後者なら、私が影からシスタを守ればいい。

 それに、主人公と仲良くなればいずれは攻略対象達の庇護下に置かれる。そうなればシスタが傷つくことはなくなる。

 シスタの為を思うなら、このまま一人にしてあげるべきだろう。でも……。


「好きって、辛いよ」


 シスタの為。それだけで納得して選択できるほど、人の好きは単純にできていない。

 相手の為と思いつつ、必ずそこには自分のエゴも隠れている。

 シスタに会えないのも、シスタを守れなかった自分で終わるのも嫌だという私のエゴ。

 シスタのことだけを思いたいのに、自分のことも考えてしまう。


「最近は一層お勉強に身が入っていませんね」

「ちょっと色々あって。ティディには好きな人いる?」

「え⁉︎ 急にどうしましたか?」

「誰でもいい。自分よりも大切な人なら誰でも」

「そういうことですか。いますよ」

「その人のことを思う最善の案が、自分にとって辛い選択になる時どうすればいい?」

「そうですね〜」


ティディはペンを置いて真剣に悩んでいる。言葉が漏れてしまうほど真剣に。


「分かりませんね」

「……そっか」

「分からないので、私なら話します。大切な人と」

「話す?」

「はい。自分一人で解決しようとしますと、勝手に思い込んでしまったり、勘違いしていたりするかもしれません。それを防ぐ為にも対話というのはとても大切な事です。内容にもよりますが、その人と話すことが怖いかもしれません。けど、そうしないと前には進めませんから、怖くても話します。何も乗り越えずに納得のできる結果を手に入れるということはできませんからね」


 私はその言葉を受けて走り出した。

 まるで、シスタと話していいと背中を押してくれるのを待っていたかのように。

 無心で走り、シスタの部屋の前についた。手に持つ鍵を挿して、一度深呼吸を挟み、鍵を回した。

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