現実の弊害
とりあえずこの問題も解決しそうということで、あとは男共とリシアに任せることにし、私は目を瞑り、頭を回すことをやめた。
「リシアちゃん? リシアちゃん、大丈夫? お兄様、リシアちゃんが!」
シスタの声で急いで目を開けてリシアの様子を伺うと、呼吸がおかしくなっていた。さらしを巻いている時間が長すぎたのだ。さらには長時間立ちっぱなし。私ですらこの格好に慣れるのにかなりの時間を要したんだ、鍛えていないはずのリシアにとって、長時間この状況は苦しいだろう。ゲームではたしか、この前にお出かけイベントがあった。そこでリシアに調理服とドレスをプレゼントするから、こんな事にはならなかった。
「リシア、意識はある? 返事できる?」
私は寄りかかっている男どもを退かして、両手でリシアを支える。
「はい、できます……」
リシアは浅い呼吸を何度も繰り返している。さらしはちゃんとした呼吸法でなければ圧迫感で深く息を吸えない。とにかくリシアを休ませないとまずい。
「誰でもいいからちょっとリシア支えてて」
すぐ側に立っていた王子がリシアの肩に手を添えて支えたので、私は杖を取り出す。
「おい、医務室に連れて行かなくて良いのか?」
「この時間は病人がいなければそもそも先生がいない可能性がある。それに、おそらく今日は……」
「なんだよ今日はって」
「とにかく、今はリシアを安静にさせる。そもそも服をどうにかしないと意味がない。でも、服はたぶんニーファが回収しているから、どこにいるか分からない以上側を離れるのは不安。だから、今やれることをするしかない」
私は少し背もたれが倒れているイスを氷で作る。
「ごめんシスタ、マント返してもらっていい?」
「もちろんです」
背もたれに上着、座る部分にマントを敷いてリシアを座らせる。
「誰でもいいから水持ってきて」
「はい、もう準備してあるよ」
私はアドラからグラスを受け取り、リシアの口元に近づける。
「ゆっくりでいいから、落ち着いて飲んで」
咳をすればさらに状況が悪くなってしまう為、ゆっくりとグラスを傾ける。
「どう? 変わらない?」
「いえ、少し楽になりました」
「根本的な所は解決できていないから、まだ苦しいとは思うけど、どう? 駄目そうならテストを諦めるのも大切だよ」
「そうですね、すごく苦しいです。正直動くのも辛いです」
「じゃあ私がリシアを運ぶよ」
リシアを抱き上げようとすると、私の腕を弱々しく掴んでリシアは拒絶した。
「やめてください。私のせいでヴィリアン様の今までを無駄にしたくありません。ヴィリアン様を付き合わせるくらいなら、私一人で戻ります」
「それは駄目だよ」
リシア一人で行かせてしまえば絶対に倒れてしまう。
「彼女、大丈夫ですか?」
異変に気づいた審査員が声をかけてきた。
「息が浅く脈も早いです。意識はありますが、歩行困難です。軽い脱水症状も見られます」
「では、帰られますか?」
「……いいえ。もしこれが実際の社交の場でしたら、会場を離れるのはリスクが高いです。この場でどうにかします」
「そうですか。無理そうでしたら、手遅れになる前に声をかけてください」
「はい」
審査員は離れていき、定位置へと戻っていった。




