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一生の後悔

 スカートを持ち上げ、上げられるだけの速度でシスタを探し回る。


「やっぱりもうトイレにはいないか。すれ違わなかったということは迷っているか、もしくは……」


 嫌な予感がする。

 人間、こういう予感だけはよく当たるものだ。


「シスタ、無事でいてよ」


 靴を脱いで本気で走り出す。シスタの名も呼ばず、ただ耳に全ての神経を集中させた。


「聞こえた」


 息はすでに上がりきっており、足ももう走りたくないと悲鳴をあげている。

 だけど、私はシスタの為だけを思い、無理やりにでも身体を動かす。


「この悪魔め! 悪魔は大人しく地獄にでも帰れ!」


 生垣の隙間から一瞬見えた。

 庭の奥まった方にシスタはいた。何人かの子どもに囲まれて。


「父上と母上から聞いたぞ、お前のその白い髪は人を死に追いやる呪いがかけられて、お前のその黒い瞳は人の魂を奪う呪いがかけられていると! だから、今この場でお前を退治してやる!」

「さすがはボブ様! かっこいい!」


私は回り道をせずに、そのまま生垣を突っ切っていく。きっと両親には何か言われるだろう。手や足には傷ができているだろう。でも、そんなこと関係ない。だって、このままじゃシスタが危ない。


「なんでこんな時に」


枝がスカートに引っかかって足止めされてしまった。だけど、時間は止まってくれない。


「ボブ様、これを」

「よし、覚悟しろ、この悪魔め!」


貴族の子どもはシスタに向かって思いっきり木の棒を振る。


「シスタ! 逃げて!」


私の声はシスタに届いていない。届かない。私とシスタじゃ周囲のうるささが違う。それは、あの子ども達もそう。生垣の隙間の角度もあるのか、私が近づいているのに一切気づいていない。

私はスカートを引きちぎる勢いで引っ張った。


「お姉様……」

「シスタ!」


間に合わなかった、間に合えなかった。シスタのその細い腕に、力を込めた木の棒が振り下ろされた。

ようやく私がシスタの前に出た時には既に何発か殴られていた。


「これ以上、これ以上うちのシスタに手を出したら許さないから!」


シスタを守れなかった自分の弱さに涙が出て、腹が立って、手に持っていた靴で目の前の主犯を思いっきり殴った。最初は女だからとヘラヘラしていた奴らは全員逃げていった。


「ごめんね、シスタ、ごめんね。守るって言ったのに、約束守れなくてごめんね」


シスタはずっと静かに泣いていた。痛みに苦しみながら泣いていた。そんなシスタを前に謝ることしかできない自分がどうしようもなく情けない。


「ごめんね、ごめんね。私がもっと早く見つけてればシスタをこんな目に遭わせなくて済んだのに。ごめんね……」


だらんと下げられたシスタの赤く腫れ上がった腕も包み込むように抱きしめ、ひたすらに謝った。謝って、謝って、謝った。けど、どんなに謝ってもシスタの腕は元に戻らなくて、さらにひどくなるばかり。それでも謝ることしかできなくて、結局見つけてもらうまでそこにいるしかできなかった。

見つけられた時、真っ先に皆が心配したのは浅い擦り傷しかない私だった。そのことにも腹が立った。どうして私なんだと。私は私を恨んだ。でも、私にはどうしようもできなくて、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、呂律の回らない口で、怒りに任せて声を発することしかできなかった。

屋敷に戻ってからも、私は私を責め続けた。

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