前世の記憶
ドアがノックされ、お互い少し冷静さを取り戻した。
「すみません、ありがとうございます」
料理を運んでもらい、席につく。
「すみません、取り乱してしまい」
「私の方こそごめんね。でも本当に分からないんだ。今までは何も気にせず生きてきたけど、学園に通うようになって関わりの幅が増えて、ふと思うようになった。私は私のこと何も知らないって。でも別に、シスタを守るのならそんなことどうでもいい。むしろ良いことではないかって思った。けどね、もしシスタを守らなくてもよくなってしまったら、私はどうすればいいのだろうって不安に思っていた。そんな時にシスタに頑張らないでって言われて、精神が不安定になっちゃって、そのまま今日を迎えて、結果リシアを傷つけてしまった」
力を込めた拳をリシアは上から覆うように手で包み込んだ。
「すみません、そんなことがあったとは知らずに、ヴィリアン様にあのようなことを」
「黙っていたんだもん、リシアが気にすることじゃないよ。それに、不安にさせたのは私だし」
「ヴィリアン様は本当にお優しいですね。私、一つ思ったのです。ヴィリアン様は優しいから、全部一人でやってしまうのではと。誰かを巻き込んでしまうことが怖いから、誰にも頼らず、全てを請け負ってしまうのではないでしょうか。そしてそれは、ご自身ですら。ご自身が大切になってしまうと、自身を傷つけることも怖くなってしまう。ですから、防衛本能的なもので、自分のことが分からないようにしているのではないでしょうか」
リシアの言葉の何かが引っかかったのか、知らない記憶がほんの僅かに私の頭に流れ込んできた。モザイク掛かっていて状況がよく分からない。けど、声がはっきり聞こえる。間違いなく、前世の記憶。
『お金が欲しい〜』
『いつも言ってるよね』
『イベントが多すぎるんだよ! ──もお金欲しいでしょ!』
『私は別に』
『相変わらず欲が無いね。何かやりたいこととかないの?』
『無い』
『強いて言えばっていうのもないの? はっきりじゃなくていいから』
『そうだね、強いて言うなら──』
唐突な頭痛で記憶が途切れた。
「ヴィリアン様⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫、大丈夫だよ」
痛い、まだ痛い。でも、前世に触れられた。そして分かった。この性格は前世からのもの。きっと、リシアの言葉と前世の友人らしき人の言葉がリンクしたんだ。だから、この記憶が思い出された。でも、それしか分からない。強いて言うならの続き、一番知りたいところが分からなかった。たぶん、そこは触れちゃいけない、トラウマに近しい部分、またはそのものなのだろう。でも、そこが分かれば少しでも皆を安心させられるのではないか。やりたいことが分かれば、私を見つけられるのではないだろうか。
続きを見たい、知りたい。前世の私が知りたい。どうして記憶に封をした。どうして一部なら見れる。そもそもなぜ私は死んだ。なぜ、転生した。
私はどんな時に前世に触れてきた。どんな時なら触れられる。
「……精神」
そうだ、精神が不安定な時だ。一回目は十年ほど前の熱が出た時、魔力が暴走した時、つい最近シスタの件で不安になった時、そして、リシアの言葉。
総じてどれも私が弱っている時だ。弱っている時に前世とリンクした何かがあれば、触れることができる! とは言っても、本当に運任せだな。うん。




