道中
心なしか長く感じられたマッサージもようやく終わった。本当に、どうにか気を逸らそうと頭をフル回転させていたから、すっごく疲れた気がする。
「リシア、立てる?」
「はい、ありがとうございます。その、変な声を上げてしまい申し訳ありません。痛いのと気持ち良いので、その、とにかくすみません」
リシアは今まで見る以上に顔を赤くし、目も少し潤んでいた。
「大丈夫だよ。治ってくれたなら私も安心したし。あと、夕食の件はごめんね。お詫びと言っては何だけど、私の分けるから一緒に食べてよう。ついでに話も進めよう」
「はい、すみません」
「謝らなくていいよ。私は食事をもう一度持ってきてもらうようお願いしてくるよ」
部屋を出ようとすると、リシアが私の手を握った。
「あ、あの、一緒に行ってもいいですか?」
「念の為まだ休んでおいた方が良いと思うけど」
「あ、いえ、その、歩いて足の調子を確認したいので」
「じゃあ一緒に行こうか」
私はリシアの手をしっかりと握り返した。
「ヴィ、ヴィリアン様⁉︎」
「これなら転びそうになっても大丈夫でしょう。行こうか」
「はい……」
リシアは未だに申し訳なく思っているのか、あまり口を開かない。私も私で何か変なことを口走ってしまいそうで話しかけるのを躊躇ってしまう。
「ヴィリアン様はどうして私に優しくしてくださるのですか?」
沈黙に耐えかねたのか、リシアがそう問いた。
「友達だから」
「ですが、ネイト様達とは──」
「あいつらは男だしデリカシーないし、はっきり言って性格悪いから、リシアと同じように付き合ったらつけあがるだけだよ。だから、雑なくらいが丁度良い。リシアは私みたいに人によって態度を変える人は苦手?」
「いえ、人によって態度を変えることくらい私もやりますので」
「なら良かった」
「世間から見れば、良いことではないかもしれませんがね」
「良いことだよ。態度を変えるのも偽るのも、私は精神の自己防衛だと思ってる。世渡りで必要なのもあるけど、やっぱり自分が疲れないようにする生きる術だと思ってる。だからね、シスタが心配なんだ。シスタはそれができないから」
「シスタちゃん、誰に対しても優しいですもんね」
「そうだよ。誰に対しても、何をされても、シスタは変わらず優しいまま。シスタは自分が傷つくのが、我慢するのが当たり前と思って生活を送ってきたから。シスタはね、物心がついた時くらいに自分の置かれている状況を理解せざるをえない状況に陥ったの。その時私、シスタから離れちゃって守れなかったの。だから、私はシスタから離れるのが怖いんだ。シスタを守れなかったことがトラウマになっているんだと思う」
未だに夢に見るあの光景、あの音。一番酷い時は、血まみれで動かなくなったシスタを目に見てしまう時がある。妙にリアルで生々しくて、匂いなんかも心なしか香ってくる時もある。そして、そんなシスタを目の当たりにしている私と、そんな姿をどこか遠くから見ていている私、両方の視点で見ることもある。




