未来への備え
さてと、魔法の習得の件はなんとかなりそうだけど、流石に以前みたいにシスタの部屋の前でずっと過ごすのはまずいだろうし、何をしよう。
「どうしよっかな〜」
「スティーディア様はあのようにおっしゃっていましたが、少し前知識を入れておくのも良いと思いますよ」
「それもそうだね。ところでニーファ、最近ずっと私の側にいるけど、他の業務はやらなくていいの?」
私のお付きといえど、メイドだから通常業務もこなさないといけないはず。
少なくとも、母親のお付きであるメイド長も父親のお付きの執事長もそうしてる。
「ヴィリアラ様が怪我をなさっている間は、私が常にお側にいるよう言われていますので。ヴィリアラ様が怪我をしてしまった原因に私が関係しているのも否めませんし」
「その言い方だと、私の側は嫌みたいだね」
「ヴィリアラ様はほんの少し目を離した隙にいなくなることが多いので、普段よりも気を張ってしまうということは事実ですが、決してお側が嫌なわけではありません」
その言い方じゃ否定できてないよ。私じゃなくヴィリアラにそんなこと言ったら下手したら解雇だよ。
……いや、他の貴族でもそうか。
「そんな私を子どもみたいに言って」
「ヴィリアラ様はまだまだ子どもですよ。ですから、好きなだけ私に我儘を言ってください」
「私はニーファに十分我儘を言ってるよ。シスタにこっそり会いに行っていたのを黙ってくれていただけで十分すぎるよ。怪我の件も気にしないで。無茶しすぎた私のせいだし。元々、上から戻ろうとした時点で怪我することは決まっていたんだよ」
「本当にヴィリアラ様は。もう少し子どもになっても良いのですよ。私のせいだと言ってくれて良いのです」
「そんなこと言って誰が良い気持ちになるの? 私はニーファを責めたくないし、シスタもそんなこと言う姉を見て良い気はしない。ニーファだってそうでしょ。もしニーファが申し訳ないと感じているなら、私が治るまで側にいて、助けてくれればそれで良いよ。快適な生活の手助けをしてくれれば。ま、それにはシスタが必要不可欠なんだけど」
「最後は私ではどうにもできません」
無理だったか〜。
こっそり会わせてくれるかもって期待してたんだけど。
「ですが、魔法のお勉強のお手伝いはさせていただきます」
「それじゃあ、嫌になるまで付き合ってもらうことにするよ」
それから私はシスタと会える日も会えない日も関係なく、勉強の時間以外は書物室にこもって、魔法に関する知識を蓄えた。そして、気づけば誕生パーティーまで半月を切っていた。
◇◆◇◆◇
「骨ももう大丈夫ですね。綺麗にくっついています」
「良かったですね、ヴィリア」
「うん」
「ですが、ずっと座っての生活でしたので、急に歩くのは難しいでしょう。ですので、歩行補助の杖で徐々に慣れていきましょう。そうすれば、半月くらいで前みたいに歩けるようになりますよ」
というわけで、医者から渡された松葉杖を使って歩き回る練習をした。
「シスタ! もう立てるようになったよ!」
「大丈夫ですか? 痛くありませんか?」
「大丈夫だよ! まだ杖は手放せないけど、すぐに普通に歩けるようになるよ。そしたらお庭で遊んだり、屋敷を案内してあげるね。考えるだけでワクワクしてくる!」
「私もです。お姉様との遊びの幅が広がると思うだけで、ワクワクして眠れなくなっちゃいます」
シスタの天使スマイルの威力で、うっかり杖を手放しそうになった。
「シスタと一緒に寝れたらいいのにな〜。そしたら、シスタが眠くなるまでずっとお話できるのに」
「そうですね。私もお姉様と一緒に寝てみたいです。一緒に本を読んだり、外を眺めたり。起きたら一番に挨拶したり。お姉様とやりたいこと、いっぱいあります!」
私はまだ何も知らないシスタの身体を抱きしめる。
「大丈夫。いつかそうなるよ。お姉ちゃんが絶対シスタの夢を叶えてあげるから」
シスタの幸せだけを叶える。それが私の幸せだから。
そのためにも私が頑張らないと。シスタを守らないと。
「シスタ、これだけは聞いてほしい」
「何ですか?」
「たとえ、全ての人がシスタを疎んでも、私だけはシスタの側に居続けるから。シスタを認め、愛し続けるからね。それだけ」
シスタはまだ分かっていない顔をしている。
ずっとその顔をしてくれれば何よりだけど、シスタのその顔が曇る日がもうすぐくる。
私だって全身全霊でシスタを守るけど、どう頑張っても言葉だけは防げない。
だから、今からでもシスタの心にほんの少しでも支えを立てておかないと。




