これからは、半分こ。
「国王陛下や王妃様には怒られましたか?」
「まぁ、それなりには怒られました」
語彙力が吹っ飛んでしまった私に合わせて、エドガーも同じように子供っぽい言い方をする。しゅんと俯いた私と視線を合わせるように、彼はことりと首を傾げた。
「謝らなければいけないのは、私の方です」
「それはどうして?」
「エドガー様にばかり、重荷を背負わせているから」
アンドリッサやリリアンナ以外の女性と結ばれること、もっといえばデッドエンド以外の結末を、私は知らない。他者を黙らせるだけの身分も、華やかな容姿も、愛らしい社交性も、どれも持ち合わせない私の唯一の強みとも言える「乙女ゲームの知識」が、ここから先は何の役にも立たないのだ。いや、レグルスの件ではチョコレート好きというのもいくらか助けにはなったかもしれない。いっそ、私はエドガー専属のチョコレートの魔術師的なポジションとして彼と一緒に生きていこうか、などという考えが一瞬頭を過ぎった。
「マーガレット、君は悩んでいるんだね」
「……ええ、そうです」
彼を好きになる前から分かりきっていた問題で、今さらうじうじと考えたところでどうしようもない。エドガーのパートナーとして彼の傍にいたいと思うこの気持ちは、誰に何と言われようとどんな事態になろうと、決して溶けて消えることはないのだから。
「ああ……、どうしよう」
「は、はい?」
「僕は今、嬉しくて笑いが止まらないんだ」
ふるふると小刻みに肩を振るわせていると思ったら、エドガーが突然訳の分からない台詞を言い出した。口元を手で覆い隠しながら必死に堪えているようだけれど、残念ながら全然隠せていない。
「この流れで何が嬉しいのか、私の頭では到底追いつけそうにありません」
「大丈夫、僕自身もそうだから」
「いやそれはおかしいでしょう」
思わず目が半開きになる私を「可愛い」などという真逆の言葉で褒めながら、彼は身長差を利用して私の頭にぐりぐりと頬を寄せた。
「君は昔からずっと、僕にはなんでも隠そうとしていたよね。辛い時も困っている時も、本音を見せてはくれなかった」
「あ……、そ、それは」
「分かってる。マーガレットにも事情があって、気軽に僕を頼れる状況じゃなかったんだって。だから、責めるつもりはないよ」
武骨な長い指が、私のありふれた茶髪を掬い取る。それは先ほど触れた雪がすっかり溶けてしまいそうなくらいに熱を帯びていて、ぴくっと反応せずにはいられない。
「こんな感情は、初めてだ」
「エドガー様……」
「これからは遠慮なく、君の全てを暴ける」
いつの間にか纏め上げられた髪の間からうなじが露わになり、エドガーはなんの躊躇いもなく唇でそこに触れる。
「ひゃ、ひゃあ!」
「あはは、可愛い」
「すすす、少しは遠慮してください!でないと私、どろどろに溶けてしまいますからね!」
首を絞められることには慣れていても、首にキスをされることにはなれていないと、ちゃんと理解してもらう必要がありそうだと、至極楽しげに喉を鳴らすエドガーを、上目遣いできっと睨めつけた。
「でもね?マーガレット。僕はよく我慢したと思うよ?」
「ほ、ほえ?」
なぜだか、今度はお説教が始まった。
「最初に、いかにも僕に気があるそぶりをしてみせたのは君だ。アンドリッサとの間に割って入っては、二人きりにならないよういつも邪魔してた。なんの打算もないきらきらした笑顔を向けるくせに、僕が手を伸ばすと躱される。最大のライバルはアンドリッサだと、今でもそう思っているよ。君は、口を開けば彼女のことばかりだし」
確かに、これについては全面的に私が悪い。あの頃はアンドリッサをデッドエンドから守ろうと必死で、なんとしても二人の間に恋愛感情が芽生えないようにしなければと、そればかりを考えていた。
「入学したら入学したで今度は僕にノチェス嬢を勧めてきて、今度は僕と距離を取ろうとしてたし。その割に、二人きりになると気を許しているような笑顔で僕を見つめて、愛しさと切なさで頭がどうにかなりそうだったよ」
これに関しても、悪いのは私。アンドリッサとのルートを回避しても、万が一私と結ばれるようなことになってはいけないからと、リリアンナルートに誘導した。それでも、エドガーを死なせたくなくて中途半端な態度を取ってしまっていたから、彼にとって私はさぞ嫌な女に見えただろう。
「それならマーガレットは、無自覚に人を虜にし過ぎだ。アンドリッサやライオネルだけでも強敵なのに、そこに次々と新しいライバルが現れるから、もう気が気じゃなかった」
エドガーには悪いけれど、今目の前で唇を尖らせている様子はめちゃくちゃに可愛らしく、待ち焦がれていた嫉妬をしてもらえたので、今度は私がにやける番だった。




