仕方ないから和解してあげる。
「……きっと、エドガー様ね」
反論することを諦めたのか、リリアンナが小さく溜息を吐く。ずっとおでこを押さえているのは、やはり私のせいなのだろうか。
「彼はずっと、私が貴女に嫌がらせするのを阻止していたみたいね。それに、アンドリッサや貴女の弟も」
「え、そんなの初耳なんだけれど」
「私だって、気が付いたのは最近なのよ。あの方は実に巧妙で、全てを消すのではなくてある程度は私を好きに泳がせていた。そうじゃなきゃ、もっとエスカレートすると思ったんでしょうね」
それはなんとも、微妙なやり方だとしか言えない。嫉妬の件といい、あえて私と距離を取ったことといい、彼は想像以上に食えない策士のようだ。
「怖いような嬉しいような、微妙な感情ですね」
「私だったら恐怖一択だけれど」
普通の反応はそうなのだろうか。私にヤンデレ耐性がついているせいで、どちらかといえば幸せだという気持ちの方が優っている。
「最初から、私に勝ち目なんてなかったのね」
「まぁ、そもそもアンドリッサ様という婚約者がいらっしゃいますし」
「白々しいわね、マーガレット」
リリアンナは腕組みをしながら、ふんすと鼻を鳴らした。
「私を許すのは、エドガー様と結ばれたからでしょう?」
「えへ、バレました?いつまでも小石につまずくのも面倒だし、この辺りできちんと整備しておこうかと」
「この……。なかなか言うじゃない」
不満そうな表情を浮かべてはいるものの、今までとは確実に雰囲気が和らいでいる。最大の敵に思えたリリアンナも最終的にはちょろかったようで、内心胸を撫で下ろした。
「あーあ。エドガー様は手に入らなそうだし、無理して令嬢になんてならなきゃ良かったわ」
彼女は天高く両腕を伸ばし、気持ちよさそうにんんー、と声を漏らした。
「それこそ、幸せの青い鳥ですよ」
「さっきから、それはどういう意味なのよ」
「遥か遠くに手を伸ばさなくても、自分にとっての幸せはずっと傍にあったということです」
これはもちろん、シャルロのことを表している。誰よりも美しく可憐なリリアンナは、妬まれることも多かった。優しさ故に仕返しなどはしなかったけれど、だからといって善意を搾取され続けて平気な人間はいない。
心ない悪意や一方的に押し付けられる行為から彼女を守ってきたのは、シャルロなのだ。それは、一朝一夕に真似出来ることではない。
「それにここだけの話、シャルロはいずれ出世しますよ」
「えっ、それは本当?」
「私の勘はよく当たるんです」
さも大切な事柄のように、きりりとした表情を浮かべながらリリアンナの耳元に唇を寄せた。彼女は意外と乗ってくれたけれど、すぐに呆れたように溜息を吐いてみせる。
「貴女ってどこまでお人好しなんだか」
「実は結構腹黒いですよ、私。舐めてかかると、いつの間にかどこかしらを食いちぎられているかも」
「ああ、はいはい。それは怖いわね」
私達はどこか友人のような雰囲気で、互いに軽口を叩き合った。




