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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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79/88

彼女にとっての幸せの青い鳥。

 予想外の寄り道のおかげで、昼休みにはリリアンナを探すことが出来なかった。ならば放課後だと、今度こそ彼女を探しはじめる。

 結局、今日一日教室にも姿を現さなかった。寮に帰ればいるのだろうが、部屋を訪ねたりすると大ごとになりそうで面倒だとも思う。目立ちたがり屋のリリアンナが、今だけ都合良くどこかのすみっこにいないだろうかと、意味のない願いを込めながら学園を歩き回った。

「……ね、願いが叶ったわ」

 まるで乙女ゲームのようなご都合主義展開に、そのまま十秒くらい立ち尽くしてしまう。だっておあつらえ向きに取り巻きもいないし、場所もちょうどいい木陰のベンチだしで、もしやどこかにプレーヤーでもいるのではと、ありもしない妄想と共につい天を仰いだ。

「あの、ノチェスさん」

 そっと背後から声を掛けた瞬間彼女は勢いよく立ち上がり、振り向く前から金切り声を上げる。

「こっちへ来ないで、この疫病神‼︎」

「な、なんですって……⁉︎」

「貴女のせいで、私の華やかで完璧な人生設計は台無しなのよ‼︎」

 声だけですぐに私だと気付くなんて、もはや好かれているとしか思えない。逃げられる前に、たたっと彼女の前に回り込んで、道を塞ぐように腕を組んで仁王立ちのポーズをとった。

「まず謝るのが先でしょう⁉︎あんなことをしでかしておいて人を疫病神呼ばわりするなんて、どこまで性格が悪いのよ!」

 先ほどシャルロに話したこととは百八十度違う意見が

 口から飛び出る。あくまで冷静な話し合いを、と言い聞かせながらリリアンナを探していたのに、顔を見るとやはり理想通りにはいかなかった。

 エドガーのことが本当に好きなら、彼に迷惑をかけるような手段をとるはずがない。

「貴女が愛しているのは所詮、王子からの寵愛を欲しいままにするロイヤルレディという肩書きなのよ。エドガー様自身を見ているわけではないわ」

「貴女に一体、何が分かるというのよ!今まで、全部思い通りに生きてきたくせに!」

 リリアンナは普段から癇癪的だけれど、今日は一段と凄まじい。まるで親の仇のように私を睨みつけるくせに、そんな顔さえ可愛いという理不尽。

 ゲームの世界でもこの世界でも、その見た目があればなんだって手に入れられる。それなのになぜ、ただのモブで地味顔の私にそんな台詞を投げつけるのか、まったく理解が出来ない。

「それの何が悪いの⁉︎私はただ、誰からも文句を言われないくらい幸せになりたいだけなの!」

「そんなことは、不可能だわ。百人いて百人から好かれる人間なんて、この世には存在しない」

 前世でもそうだった。どんなに好感度の高い芸能人やインフルエンサーでも、揚げ足を取ろうと待ち構えているハイエナはいくらでも存在する。

 自分自身が満たされないから、幸せに近い位置にいる他者を蹴落とそうと躍起になって、信じられないような暴言をネットに書き込む。その時の表情はきっと、ゴミ箱を漁る蛆虫よりも醜いに違いない。

「だけど……、そうね。確かに、私の見解にも間違いはあったかもしれないわ」

「は……?何よ、突然」

「私も貴女も、青い鳥を探し求める旅人だったのね」

 どこでスイッチが入ったのかは、自分自身にも分からない。私は舞台俳優のような心持ちでくるりとターンしてみせると、青さのない鈍色の空に手を伸ばした。

「他人を羨むことは簡単。だけどそれでは、どんな美食を口にしても、極上の男性と結婚をしても、絶対に満たされない。自らの心に巣食う獣を鎮めるには、たったひとかけらの肉で十分なのよ!」

「……貴女一体、さっきからなんなの?」

 しらっとした瞳のリリアンナと、舞台女優さながらの私。なんらかの悟りを開いてしまったらしく、楽しくなってきたのでもう少し付き合ってもらうことにする。

「さぁ、ノチェスさん!貴女も私のように、己の殻を破る時が来たのよ!ほら、行きましょう!観客が待っているわ!」

「もう辞めてちょうだい!まったく、ばかばかしいったらないわ!」

 差し出した手はぱしんと払われ、その上いーっと歯を剥き出しにして威嚇までされた。

「その顔まで可愛いなんて反則だ」

 思わず漏らすと、リリアンナは不服そうに唇を尖らせて、再びベンチへ腰を下ろす。どうやら、ここから立ち去る気はないようで、私の舞台女優作戦はまんまと功を奏したらしい。

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