ヤンデレ化を阻止すべく。
「なるほど。よく分かりました」
「そうか!分かってくれたか!」
「ええ。シャルロさんが外交に向いていないということが、とってもよく分かりましたわ」
「へえ?」
ぽかんとした表情が、実に腹立たしい。彼は驚くほどに説明下手で、長ったらしい割に中身がない。つまり要約すると「リリアンナの暴走を止められなかった自分が情けない」という、たったこれだけの言葉で終わる。
「お前に言われたことが、頭から離れないんだ」
「私ですか?さて、どれでしょう」
「その相手が本当に好きなら、たとえ嫌われようとも正しい道に戻してやりたい。その為なら、自分は喜んで悪役を買って出ると」
そういえば、そんなことを言ったかもしれないようなしれなくないような。シャルロはリリアンナのことが本当に好きなのだと、態度を見ていればすぐに分かる。私にいちいち突っかかってくるのは疲れるけれど、その純粋な気持ちは尊敬できる。
「確かに、今のアイツは間違った行動ばかりしている。俺がいくら止めても聞く耳を持たないし、顔を合わせれば溜息しか吐かれない」
「エドガー殿下に固執し過ぎて、周りが見えなくなっているのでしょうね」
「だからいっそ、この手の中に閉じ込めてしまおうかとも思ったんだ。あの綺麗な瞳に、俺以外が映らないように」
胡座をかいた膝の上で、シャルロは自身の両手をじいっと見つめている。雰囲気ががらりと変わり、心なしか横顔に陰が落ちているような気がして無意識に背筋がぞくりと反応した。
さすがはヤンデレ属性。いくらシナリオとは違う方向に進んでいるとはいえ、その素質はしっかりと持ち合わせているらしい。今のリリアンナがそれに引っ張られるとは考えにくいけれど、その芽はここで摘んでおいた方が無難だろう。たとえ恋敵でも、デッドエンドになる可能性を黙って見過ごすのは気分が悪いから。
「シャルロさんのような幼馴染がいて、ノチェスさんは幸せでしょうね」
「それは、どういう意味だ?」
「貴方は、彼女が嫌がることは絶対にしない。自分よりも相手を思いやれる人間です」
多少盛ってはいるけれど、本当にそう思っている。ゲームの中でも、彼はいつどんな時もヒロインの味方でいた。シャルロルートでは、先に死を望んだのはアンドリッサやリリアンナの方で、彼は否定せずその気持ちを汲んだ。
「多少の失敗がなんですか!せっかくの長身も、そんな風に情けなく丸めていては宝の持ち腐れですよ!」
雰囲気を変えたくて、私はわざと明るい声色でぱしんとシャルロの背中を叩いた。
「……俺が、リリアンナに対して不穏な感情を抱きそうになった時。真っ先に頭に浮かんだのが、お前の顔だった」
「へ?わ、私ですか?」
「その間抜けズラを想像したら笑えてきてさ」
なんと失礼な男だ。私は間抜けズラではなく、ただの地味なモブ令嬢だ。まぁ、ここまで来るとさすがに胸を張ってモブとは言えなくなってしまったから、複雑な心境ではある。
「お役に立てたのなら、光栄ですわ!」
「ははっ、謝るから怒るなって」
嬉しそうな顔をして、どう見ても謝る態度ではない。
「リリアンナが俺の大切な幼馴染だという事実は、生涯変わらない。でも今一番気にかかるのはお前なんだ、マーガレット」
再び雰囲気が変わり、シャルロとは思えないほどの甘いオーラが、びしびしと私の頬に当たる。それを必死で避けながら、大口を開けて笑い飛ばした。
「まぁまぁ!それは嬉しい。私、シャルロさんの敵ではなく友人として認めていただけたのですね!」
「友人?い、いや。それは違う。俺はお前を」
「私もシャルロさんのことは、大切な友としてこれからも全力で応援いたします!ノチェスさんには、貴方のような方が必要ですから!絶対に絶対に、何が起きようとも!」
非常に非情ではあるけれど、私のことを好きになられては困る。以前ライオネルも「シャルロはマーガレットに気がある」というような発言をしていたし、ヤンデレの芽とともにこちらも株まるごと引っこ抜いてしまわないと。




