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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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75/88

この先に広がる、無限の可能性。

♢♢♢

 二日間の休日を挟んで、学園へ登校。色んな意味でモブから脱却した私は、望んでもいないのにすっかり有名人になってしまった。アンドリッサと登校している時も、授業中あくびを噛み殺している時も、魔法学で必死に板書している時も、ちらちらこそこそと噂されているのが分かる。

 前世でもほとんど人付き合いをしてこなかった私には非常に居心地が悪く、どう対処したらいいのか分からない。いつでも堂々と胸を張っているアンドリッサに倣おうとしたけれど、ただ貧乳を強調しているだけみたいになったので、早々に辞めた。

 ちなみに、エドガーにはこれまで通り私を特別扱いしないようにしっかりと釘を刺しているので、不必要に近寄ってくることはない。とはいえ「エドガーは仲間になりたそうにこちらを見ている!」状態で、しまいには手がわきわきと変な動きをしていて、ちょっと怖い。

 なんとか昼休憩まで無事に過ごすことが出来た私は、いつもの場所でアンドリッサと昼食を摂る。休日だったこの二日は、しっかりと彼女と話すことが出来た。といっても、レグルスとエドガーが度々乱入して来たけれど。

「だけど、本当に良かったです」

 しっかりと噛みごたえのある生地のパンを頬張りながら、私はにこにこと笑う。

「レグルス殿下が、アン様の願いを叶えてくれるから」

「まさか私も、ただの夢物語が現実になるなんて思わなかったわ」

 以前彼女は、この国を出て広い世界を見てみたいと私に話してくれた。それは、エドガーとの結婚では決して叶わない夢。帝国の第四皇子であるレグルスは、なんと宮廷料理長として腕を振るっているらしい。わざと女好きの噂を流して無能だと思わせ、政治に関わることなく好きに過ごしてきたのだと。なんとまぁ、乙女ゲームの裏設定としては女子が萌えそうなご都合展開だ。

「私に申し訳ないと、何度も謝られたのよ」

「噂は簡単にはなくなりませんからね。一人ならそれで良かったのだろうけれど、事実上アン様を奪うような形ですから、これからはもっとしっかりしていただかないと」

 私をからかった時といい、きっとその場のノリで生きているような人なのだろう。もしもアンドリッサを傷付けたら、私は本当に彼に復讐をすると誓っている。

 ふんふんと鼻を鳴らす私を見て、アンドリッサが微笑する。表立って態度には出さないけれど、今の彼女はとても幸せそうで、私まで泣きそうになる。

 初めて街で出会ったあの日からずっと、そしてこれからも変わらず私達は友人同士。

「彼について諸国を周ることが出来たら、きっと楽しいわね」

「レグルス殿下は、食文化の研究という名目で旅ざんまいだとおっしゃっていましたもんね」

「あんな皇子も存在するのだと、いまだに信じられない気分よ」

 確かに、レギーと名乗ってびん底眼鏡をかけ、パティシエに紛れている皇子なんて、どの乙女ゲームを探してもそうそう見つけられないだろう。

「ですか、アン様と会えなくなってしまうのはとても寂しいです。私もついていっていいですか」

「そんなことになったら、私がエドガー様に復讐されるから辞めてちょうだい」

「ちえっ」

 ぴしゃりと拒否されて思わず唇を尖らせたけれど、その代わりに頭を撫でてもらえたから満足した。

「あの、アンドリッサ様」

 バスケットの中いっぱいのパンをすっかり平らげた後、私は姿勢を正して彼女に向き直る。

「貴女の真面目な顔は珍しいわ」

 怪訝な顔をしながら、失礼なことを言われた。

「ひとつだけ、お願いがあるのです」

「ええ、何かしら」

 私なりに色々と考えて、結局お節介をすると決めた。アンドリッサがレグルスとの道を歩むことは、もちろん祝福したい。けれど少しだけ気がかりだったのは、彼女に想いを寄せるロイスの存在だった。

「ロイス・ベスターに、何かひと言お言葉をかけていただけませんか?」

「それはなぜ?」

「えっと……。それは彼が、アンドリッサ様の友人だからです。まだ知り合って間もないけれど、ロイスは本当に貴女を大切に思っています。直接話すことが出来たら、絶対に喜びます!」

 私だって、最初は攻略対象としてしか見ていなかった。エドガー同様、もし恋愛に発展したらデッドエンドへ繋がるかもしれないと思ったから。けれど今は、ロイスだって私にとって大切な友人。

 アンドリッサの気持ちを無視して彼を推すことは出来なくても、せめて少しでも彼の傷が癒えるよう手伝えたら。余計なお世話だと言われた時は、全力で謝ろうと決めている。

「貴女がそう言うなら、分かったわ」

「アン様……。ありがとうございます」

 勘の鋭い彼女なら、なぜ私がこんなことを言い出したのかすぐに気付いただろう。その気持ちを汲んでくれたアンドリッサに感謝すると共に、彼女の話をする時の照れたようなロイスの笑顔が浮かんで、つきりと胸が痛んだ。

 本当は全員の恋が実ってほしいと思う反面、この感情が偽善であるということも、十分に理解している。乙女ゲームなら、その代償はお金だけ。販売元にきちんと対価を支払えば、ひとつの例外もなく全員に等しきチャンスが与えられる。

 選択肢を間違えたなら、ホームボタンを押せばいいだけ。何十回何百回とリセットしても、エドガーを始めとする攻略対象キャラは、何事もなかったように出会いを繰り返す。必ず、私を好きになる。

「現実って、残酷ですね」

「仕方ないわ。私達は生身の人間なのだから」

 アンドリッサの言う通り、主役だろうとモブだろうとこの世界に生きている限り、誰もが善にも悪にも如何様にも変わる。

 リセットボタンがなければその分臆病になり、本当にこれが正しい選択なのかと尋ねたところで、攻略本もネタバレサイトも存在しない。

 だからこそ、そのひとつひとつが尊いのかもしれないと、今の私にはそう感じられる。ゲームであってゲームではない、マーガレットという生身の存在として。

 私はこれからも、エドガーと幸せになる道を選びたい。たとえその先が途切れていても、この手でいくらでも新たな世界を作り出せるのだから。

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