アンドリッサの夢。
「ということは、今からここでアン様をめぐった大乱闘が始まるというわけですね」
「何をどう解釈したらそうなるんだ」
「そうなったら私も参戦しようかと」
半分以上本気だった私の言葉は、レグルスによって豪快に笑い飛ばされた。
「まぁ、アン様の反応を見るに結果は明らかですが」
「ちょ、ちょっとマーガレット。そんな言い方は止めて」
「エドガーが可哀想だからな」
照れるアンドリッサと、その婚約者を鼻で笑うレグルス。どうやら、相当な対抗心を燃やしているらしい。
私はさっとアンドリッサの隣に移動すると、男性陣に聞かれないよう彼女の耳元に唇を寄せ、さらには両手でガードする。
「本当にそれで構わないのですか?まさか、私に遠慮してエドガー様を譲ろうなんてお考えでは」
「私が彼を愛していないことは、貴女もよく知っているでしょう?」
私の意図を察したのか、同じように身を寄せてくれる。
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「リリアンナの手前、関係が順調であるように見せていただけよ。エドガー様は、貴方に危害を加えさせない為なら、この私すら囮に使うのだから」
じゃあ、私が目撃した二人の逢瀬も会話の内容も、すべては策略だったというわけか。
「貴女は距離を置かれたと嘆いていたけれど、知らない所で相当尽くされているわよ」
「う、嘘だぁ」
「馬鹿ね、まったく」
耳元でふっと笑われると息がかかり、それがまたいい匂いだから非常に困る。アンドリッサは私から体を離すと、反対側に座るレグルスに身を寄せるように首を傾げた。
「私も、少し冒険がしてみたくなったの」
「ア、アン様……」
「もしもこの男に裏切られた時は、復讐に付き合ってちょうだいね」
ふふっと妖艶な微笑みと、ほとんど睨め付けているような上目遣いがとんでもなく色っぽくて、レグルスだけでなく私まで魅了されてしまった。
「と、いうわけだ。良かったな、マーガレット」
「えっ、わ、私ですか?」
思わず問い返すと、眼前のペアはなんとも言えない表情でこちらを見つめる。
「諦めなさい、マーガレット。エドガー様は、最初から貴女を手放すつもりなんてないわ」
「意地悪だなぁ、アンドリッサ。そこは秘密にしておいてほしかったのに」
「私の大切な友人を悩ませた罰よ」
結局、いつまでも状況が掴めていないのは私だけのようで、レグルスは新参者でありながら非常に順応性が高かった。
「まぁ、細かいことはおいおい。ね?」
「それでいいのかしら……」
丸め込まれている気がしないでもない。それに、アンドリッサがレグルスを気に入ったことに安堵する気もないし、まだまだクリアにしなければならない問題は山ほどあるけれど。
「……えへへ」
今は、エドガーに対する気持ちを隠さなくても良いのだと思うと、つい頬が緩んでしまう。
「だめだ、可愛い!それは僕の前だけにして!」
「ええ⁉︎」
理不尽な要求に抵抗する暇など与えられず、横からにょきりと伸びてきた腕に思いきり抱き締められてしまったのだった。




