なぜか拗れて捻れてしまったような、まとまったような。
「マーガレットったら、ちゃんと聞いているのかしら」
「ご、ごめんなさい。お三方のオーラがあまりにも素晴らしいもので」
「貴女だって、今夜のパーティーでは時の人ではないの」
「あわわわ」
古き良き時代に存在した漫画の天然ヒロインのような慌て方を、まさか自分自身が疲労することになるとは思わなかった。
「俺のことなら気にするな。マーガレットのおかげで、今回は退屈せずに済んだからな」
レグルスの笑い方は豪快で、とても「女たらしのすけこまし」には見えない。
「出来れば最初から、正式な手続きを踏んでいただきたかったですけれどね」
「了承も得ずにバラしたのはどこの誰だろうな」
「あれは仕方ありませんでした。貴女がマーガレットに必要以上に触れていたので」
金の猫足ローテーブルを挟んで向かい合い、二人は笑顔を浮かべながらばちばちと見えない火花を散らし合っている。
「それ以上の言い争いは止めてくださいませんか?生産性もなく時間の無駄ですので」
「アンドリッサが言うなら」
ぴしゃりと言い放った彼女の隣、その艶やかな金髪に手を伸ばしたのは、なんとレグルスだった。現在の位置関係を整理すると、並んで座っているのが私とエドガーで、テーブルを挟んでアンドリッサとレグルスという、なんとも摩訶不思議な構図となっている。しかもさらに驚くべきなのか、私の敬愛するアンドリッサの態度だった。
「怒った顔も綺麗だな。いや、愛らしいというのが正しいか」
「口がお上手ですこと。どうせ万人に対してそうおっしゃっているに違いありませんわ」
「さっき説明しただろ?遊び人はカムフラージュだって。俺が本気で惚れた女は、君だけなんだよ」
レグルスの強きかつ甘ったるい台詞に、辛辣な対応をしているようでしていない。長い付き合いの私には、彼女が本気で拒絶しているのかいないのかは、一目瞭然なのだ。
「……あのう。婚約者様が目の前にいらっしゃることを、お忘れになっているのでは」
「ああ、そうだった。さっさと元婚約者になってもらわないとな」
「そ、そういう意味ではないのですが」
コックコートから皇子らしい服装に衣装チェンジしたレグルスは、改めて見てもそれはそれは美青年だ。儚げな美しさを讃えるエドガーとは対極の、逞しい細マッチョ(推測)。ベルベットの髪が彼の端正な顔立ちを引き立たせ、小粋な雰囲気でアンドリッサに寄り添っている。豪胆な笑みは確かに魅力的で、ぐいぐいと引っ張ってくれるような強引さも、彼だと嫌味がない。
「死ニ愛」には二、三行しか登場しなかったモブですらない皇子が、まさかこんなにも魅力的だったなんて。もしも公式キャラとしてリリースされていたら、間違いなくエドガーと人気を二分していただろう。
とはいえ、私の最推しは今も昔も揺らぐことなくただ一択なのだけれど。
「もう一度、よくよく状況を整理させてくださいませ」
「その前に謝っておく、ごめんマーガレット。俺のことは諦めてくれ」
勝手に振るんじゃない!と金切り声を上げたい気持ちを必死に堪え、ふうふうと荒い呼吸を繰り返す。我慢する為に少々鼻の穴が膨らんでいるような気がするけれど、エドガーは正面ではないから見えないだろう。
「マーガレット、落ち着いて。鼻が風船みたいに膨らんで、今にも飛んでいきそうだよ」
訂正、ばっちり見られていたので今すぐ穴を掘ってそこに潜りたい。
「マーガレットが困惑する気持ちはもっともです。私自身、まだ理解が追いついていないのですから」
頭を逆さにして地面に突き刺さろうとする私を止めたのはアンドリッサで、彼女の冷静な声色がパニック状態の私を救ってくれた。
気を取り直して三人からの説明を簡単に要約していくと、まず先刻のパーティーは当然混乱を極めた。チョコレートを台無しにされた件についてはある程度収拾がついていたけれど、知らされていなかった帝国皇子の飛び入り参加に、エドガーのお姫様抱っこ。そのまま消えた私達二人は、当然恰好の餌食となる。
それに、コックコート姿とはいえレグルスはレベル違いの美男子。たとえ遊ばれても構わないという女生徒達が色めき立ち、生徒会長や教師達でもなかなか鎮めることが出来ずにいた。
そこで鶴の一声を発したのが、神々しいドレス姿の我らがアンドリッサ。婚約者である彼女が「大したことではない)と言えば、それ以上の追求は出来なくなる。またレグルスに対しては、あくまでもてなすという対応を心掛け、アンドリッサをダンスに誘わせるよう上手く誘導したらしい。
その場にいないエドガーの代理を務める彼女を非難出来る者はおらず、レグルスもあまり騒ぎを起こしても面倒だと、素直に従った。そしてダンスの最中に耳元で「マーガレットに手を出したら私が許さない」と、歯軋りの音と共に警告されたレグルスは、なぜかそこでアンドリッサに惚れてしまったのだと。攻め気質に見えて、実は被虐思考の持ち主だったようだ。
「エドガーじゃなく、マーガレットの心配をして俺に噛み付いてきた姿に、堪らなくぞくぞくしたってわけ」
「ちょっと理解が出来ません」
「だから謝ってんだろ?」
「どうしよう話が通じない」
私は断じて、振られたことに腹を立てているのではない。いや、勝手にその構図に当て嵌められたのは不本意ではあるけれど、アンドリッサの鬼相に魅力を感じるという点は非常に共感出来る。
とどのつまり、レグルスが私を口説くような真似をしたのは気まぐれで、今の大本命はアンドリッサというわけだ。




