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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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すべてを受け入れる覚悟。

「マーガレットは、どうしても僕にヤキモチを妬かせたいみたいだね」

「そ、そういうわけでは」

「何があっても、僕はそんな感情に支配されたりしない」

 いつかも、同じようなことを言われた。そしてその後に告げられた台詞も、はっきりと思い出せる。

「君には、僕以外見てほしくない。他の誰かなんて、心の中にいれないで」

「エドガー様……」

 彼の端正な顔が切なげに歪み、澄んだ瞳は逸らされる。

「だめなんだ、昔から。嫉妬や独占欲が止められなくなると、衝動的に君を独り占めにしたくなる。それこそ、光の一筋すら入らないような、僕しか知らない場所に」

 私は、エドガーのこの表情をとてもよく知っていた。数えきれないほどプレイしてきた、あの乙女ゲーム。どんなエンドを迎えても、それは死へと繋がる。


 ――行こう。二人だけの世界へ。


 私達は何度も、死ぬことを選んだ。それは互いを愛するがゆえの、正しい選択。私がたった一人で、家族も友人も大切なものを持たずに生きていた頃は。

「私は、ずっと前からエドガー様のことが好きです」

 半ば無意識にそう口にして、私は立ち上がりまっすぐに彼を見つめた。不思議と、恐怖も緊張も感じない。

 今この瞬間、エドガーが作り出してくれた夢のような空間でだけ許される、幻想のひと時。ここから一歩外に出た瞬間、私は最低の横取り女となってしまう。

 彼がアンドリッサの婚約者であることは、紛れもない事実なのだから。

「嫉妬に狂っても、独占欲をむき出しにしても、私は貴方を受け止める。どんなエドガー様でも、私は決して拒絶したりしない」

「マーガレット、僕は……」

「怖がらないで、こっちへおいで」

 少し偉そうな言い方だっただろうかと、口にした後で反省する。彼に向かって思いきり両手を広げると、いつもの澄ました顔がくしゃりと歪む。

「君は本当に、いつも僕の想像を超えるんだから」

「こんな私は、嫌ですか?」

「答えなんて分かりきっているくせに」

 エドガーはとんと私の胸に体を預けると、寒がりの子供のようにすりすりと頬を寄せた。

「君を壊してしまいそうで、怖いんだ」

「平気です。自分のことも貴方のことも、私が守ってみせますから」

「ははっ、頼もしいね」

 微かな笑い声と共に、彼の腕がするりと私の腰を抱く。思わずびくりと反応してしまったけれど、そんなことはお構いなしにエドガーはぎゅうっと力を込めた。

「……ありがとう、マーガレット」

「それは、私の台詞です。いつも私を助けてくださって、心から感謝しています」

「君は、僕の光だ」

 上目遣いに私を見つめる藍色の瞳は、本当に眩しそうに細められていた。エドガーの柔らかな髪に手を伸ばし、そっと撫でる。ゆらゆらと揺らめく蝋燭の光が、今しがたの彼の台詞とリンクしているようだった。

「愛してる、マーガレット」

「……嬉しい、です」

「ずっとずっと、僕の傍にいて」

 掠れたその声を聞いて、鼻の奥がつんと痛む。先に瞳を濡らしたのは意外にもエドガーの方で、美しいその涙を、私は指で掬い取った。

「今まで曖昧な態度を取ってしまって、申し訳ありませんでした」

「それはこれから、時間を掛けてゆっくり話してもらうから大丈夫」

 もしもエドガーと結ばれたら、死を選択することになるかもしれない。それが怖くて、ずっと素直になれなかった。彼ならばきっと、私の荒唐無稽な話も受け止めてくれると、今なら信じられる。

 あの火事の時、私の命を救ってくれたのは他でもないエドガーなのだから。

「それに君は、アンドリッサのことも大切に思っているだろうし」

 その言葉を聞いて、頭の中に凛とした彼女の姿が浮かぶ。いつも私の味方でいてくれた、家族のように大切な存在。

「アンドリッサ様は、いつも私の気持ちに寄り添ってくださいました」

「彼女は最初から、僕なんて眼中にないしね」

「きっと、私達以上に葛藤なさったと思います」

 私と違って、アンドリッサは家名を背負っている。好きではないから結婚しないなんて、そんな簡単な話では済まない。

「実は、少し前から二人で相談していたんだ」

 私から離れないまま、穏やかな声色で話し始める。

「相談、ですか?」

「どうすればこの婚約を円満に取り消せるかって」

「えっ、そうなのですか⁉︎」

 驚いて目を瞬かせる私を見て、エドガーはしてやったりという表情を浮かべる。

「アンドリッサは、僕にはもったいないくらいの女性だよ」

「色んなことを抜きにして、私はアン様が大好きです」

「それはそれで、ちょっと妬けるな」

 先ほどから机に腰掛けた格好で私の腰元に抱きつき、じいっと上目遣いに見つめてくるその姿は、いくら乙女ゲームをやり込んできた私といえど、今すぐ鼻血を噴いて倒れてしまいそうなくらいには参っている。

 エドガーがそれを分かって、わざと離れようとしないことも。

「初めて、ヤキモチを妬いてくれた……」

「そんなに嬉しそうな顔をされると、なんだか申し訳なくなってくるなぁ」

「どうしてですか?」

「僕だけが、腹の中が真っ黒だから」

 そもそも、この乙女ゲームの一番のコンセプトは「全員ヤンデレ」という設定。エドガーはそこから外れたのではなく、私の為に一生懸命衝動を抑えてくれていたのだ。そう思うと一層愛おしく感じて、ぎゅうっと抱き締めてしまった。

「言ったでしょう?どんなエドガー様も好きだって」

「……うん、そうだね」

「私も、自分勝手ですから。色々と反省しなければなりません」

 これから先、エドガーやアンドリッサは少なからず非難される。私は、もっと酷く言われるだろう。リリアンナも黙ってはいないだろうし、家族だけには迷惑を掛けないように対策を練らなければ。

 先のことを考えると、不安や罪悪感がないわけではない。モブで小心者の私には、正直に言って荷が重いけれど。

「ずっと言いたかった。貴方が好きだと」

 今胸の中いっぱいに溢れているのは、エドガーへの愛だけだった。

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