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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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思いがけない二人の時間。

「生徒会の一員として、本日の功労者を捨て置くわけにはいきません。僕は彼女を医務室へ連れて行きますので、中座の無礼をどうかお許しください」

「……ふうん。そういうことですか」

 レギーは変わらず不敵な笑みを浮かべながら、再び私に手を伸ばす。

「俺はしばらく、この国に滞在する。必ず迎えにいくから、それまで良い子で待ってろよ」

「ま、まぁ。もったいないお言葉ですわ」

「本気にしてないだろ」

「おほほ」

 こうなったらさり気なく胸でも突き出して貧乳アピールでもしてやろうかと思った矢先、急な浮遊感に襲われて思わずエドガーをがしっと掴む。

「ああ、立てないほどなんて可哀想に。もうしばらくの辛抱ですから」

「は、はひぃ!」

 二度目のお姫様だっこ、しかも婚約者アンドリッサの目の前で。

「体調不良の生徒を気にかけるなんて、とてもお優しい方ですわ」

 欠片も心が込もっていない棒読みの台詞で、彼女は私達を送り出す。きっと私が非難を受けない為なのだろうと思うと、女神のような優しさに感涙してしまいそうになった。

 というより、やっぱりこれは恥ずかし過ぎる!レギーの一夜の相手になるか、このまま羞恥に晒されるか、究極の二択過ぎて頭が痛い。

「では、失礼いたします」

 涼しい顔で私を抱きながら、エドガーは器用に頭を垂れる。

「先ほど、わざと名前を呼びましたよね?」

「さぁ、なんのことでしょうか」

「ははっ、いい性格してんなぁ」

 レギーは一歩下がると、こちらに向かってひらひらと手を振る。物凄いスピードでその場から歩き去るエドガーのせいで、会釈すらままならなかった。


 てっきりこのまま寮に帰ると思っていた私は、エドガーの足が会場とは離れた場所にある空き教室の前で止まったことに驚く。

「あ、あの。エドガー様」

「まぁまぁ、良いからじっとしていて」

 開いた扉の向こうが視界に映った瞬間、私は言葉を失う。普段は使われない殺伐とした場所だと思っていたけれど、眼前に広がる光景は予想とはまったく違っていた。

 キラキラと光るいくつものキャンドルと、丁寧に敷かれたベルベットの絨毯。窓から差し込む月明かりがよく目立ち、まるでスポットライトのように中央を照らしていた。

「これは一体……」

「君とここで踊ろうと思って、準備しておいたんだ」

 手近な椅子に私を下ろし、エドガーはそう口にする。彼を見上げる私の顔は、さぞ間抜けに映っていることだろう。

「君はきっと手伝うと言い出すだろうなって。まさか、コックコートを着て厨房を駆け回っているとは予想していなかったけど」

「す、すみません。どうしても何かしたくて」

「本当に、マーガレットらしいよ」

 彼は机に体をもたれかけ、呆れたように笑う。その頬にも微かに煤が付いていることに気付いた私は、ポケットからハンカチを取り出した。

「そういえば、エドガー様はどうして汚れているのですか?確か、ライオネルもそうでしたが」

「ああ、これはぼや騒ぎがあったから。それの対処をしていたんだ」

「エドガー様自らがですか⁉︎」

「たまたま近くにいただけだよ」

 彼の性格を考えると、それはきっと嘘だろうと思う。第一王子であることを鼻にかけたりしないで、いつだって私達と対等に接してくれる。昔からずっと、そういう方だった。

「大したことはなかったし、怪我人も出なかったから安心して」

「それはもちろんですが、エドガー様が無事でほっとしました」

 立ち上がって、おそるおそるその頬に触れる。痛くないように優しく煤を拭っていつ私の手を、彼が止めることはなかった。

「……助けてあげられなくて、ごめんね」

「えっ?」

「チョコレートが、台無しになりかけたって」

 エドガーの横顔に影が落ちているのを、少し切なく感じる。

「謝らないでください。それにエドガー様はどんな時も、私を助けてくださいます」

「……マーガレット」

「今回のことも、エドガー様が私を信じてくださると分かっていたから、出来たことです。たとえ傍にいなくても、貴方は私の勇気の源です」

 今だけ、少しだけ素直になってもいいだろうか。まだ、パーティーは終わっていないのに。

「それは僕の台詞だ。マーガレットは臆病なくせに大胆で、強くて、僕にはないものをたくさん持ってる。見えない糸に引っ張られるみたいに、僕は君から目が離せない」

 彼はハンカチごと、私の手を包み込む。大きな掌にすっぽりと包まれ、まるでそこに心臓が移動したかのような感覚に陥る。たった二人だけの、静かで贅沢な空間。微かに聞こえる生演奏の音楽が、やけに心に響く。

「魅力的だと思うのは、僕だけじゃない」

「レギ……、ランキューズ殿下のことですか?あの方は、ただおもしろがっているだけだと」

「ううん、違う」

 頼りなく揺らめく蝋燭の灯りに照らされた彼の藍色の髪は、とても幻想的だ。

「あの方は本気で、君を口説こうとしてる。僕には分かるよ」

「そ、それはまさか……」

 ごくりと唾を飲み込んだ私は、期待の込もった瞳でエドガーを見つめた。

「ついにやきもちを妬いてくださったということですか⁉︎」

「えっ?い、いや……」

「なんだ、違うのか」

 雰囲気も読まずに、つい唇を尖らせる。そんな私をぽかんと見つめていたエドガーは、ふっと噴き出した。

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