絶対に失敗はさせない。
といっても至極簡単な話しで、要は「照明が落ちて暗くなった隙を狙って、誰かがチョコレートに水をぶちまけた」というもの。これは嫌がらせ以外の何者でもなく、私には犯人が一人しか思いつかない。
「リリアンナめ、ここまでやる⁉︎」
私がエドガーの役に立つのが気に入らないという感情は理解出来るけれど、このチョコレートパーティーは私が主導しているものではない。あくまでアイデアを提供したという形を取っており、全てにおける功績や叱責はエドガーの身に降りかかる。
彼が好きだというのなら、まさかこんな馬鹿な真似をするだろうか。もしや犯人は別にいて、今回の件に関して彼女は無実なのだろうか。
いや、それはない。もともと何らかのアクションは起こしてくると予測し、あらかじめ彼女の幼馴染であるシャルロに監視を依頼していた。
と言っても、彼はリリアンナのことを慕っているので、適当な口車に乗せて何かあればすぐに報告が上がるようにしているというからくりなのだけれど。
今のところ、シャルロからは何も聞かされていない。とすると、犯人は例の帝国の第四皇子……?
「あり得ない発言はお控えください!」
「は、はいごめんなさい」
どうやら口に出してしまっていたらしく、その場にいたコックの一人に嗜められた。彼は顔面蒼白で、何かに怯えているようにも見える。一体どうしたのだろうと首を傾げた矢先、やたらと愁を帯びた声色で名前を呼ばれた。
「マーガレット」
「な、何でしょうか」
「犯人、お前らしいぞ」
「はあ⁉︎」
思わず令嬢らしからぬ声が出てしまい、慌てて口を噤んだ。レギーは至極愉快そうに、びん底眼鏡をきらりと輝かせる。
「外で騒がれているみたいだな。お前が水魔法を使い、このサプライズを台無しにしたと」
「誰がそんな馬鹿な言い分を……?」
「生徒数人、教師数人、メイド数人ってところな」
くつくつと喉を震わせながら、何の参考にもならない情報をくれた。
けれど、これでほとんど犯人が決まったも同然。先ほどのシェフの言う通り、第五皇子の仕業などではなかった。
「……上等ですわ。拳で話しをつけてやる」
握り締めた右拳を、自身の左掌にぱあん!と打ち付ける。その場にいたほとんどがぽかんと口を開けたけれど、レギーただ一人だけは腹を抱えて笑っていた。
「マーガレット、お前はほんっとにおかしな女だ!」
「いいえ、私などただの平凡な学生ですわ」
「とんだ平凡もあったもんだ」
涙まで流している様子を見ていると、今すぐにこの拳を眼前の眼鏡にめり込ませたい衝動に駆られる。けれど彼は、なんだかんだで悪人ではない。私がこの厨房に入ることが出来たのも、レギーの助言あってこそ。
「せっかく私を信じてくれたのに、このような事態となってしまい申し訳ありませんでした」
ぴしりと姿勢を正すと、そのままほとんど直角に腰を曲げる。
「私は、この場の皆さんのご尽力を心より感謝申し上げます」
「い、いや。しかし……」
「どうか、もう一度だけチャンスをお与えください」
ざわざわと喧騒な雰囲気に包まれた場を収める為、私は静かにレギーの手を取る。
「おもしろいことがお好きならば、もう少し私にお付き合いくださいますか?レギーさん」
数度目を瞬かせた後、彼はにいっと口角を上げる。
「俺を誘惑するのに、艶やかなドレス姿じゃなくていいのかよ?」
「これも、立派な正装ですから」
「ああ、そうかい」
彼の指先は意外と骨張っていた。それを私の肩に乗せ、するりと這わせる。
「お前の好きにしてみろ、マーガレット」
「ありがとうございます!」
「俺を満足させられたら、お前に堕ちてやるよ」
一瞬、そこはかとない色香が漂ったような気がしたけれど、今の私にはレギーの正体を考察している暇も、言葉の真意を考える余裕もなかった。




