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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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予想外中の予想外。

「眼鏡取って顔確認しないのか?」

「いえ、止めておきます。私は今、それどころではないのでした。そろそろ食事提供も終わり、いよいよこの煌びやかで美しいチョコレート達を一斉にお披露目する時間では?」

 正直なところ、私はレギーの正体に興味がない。端正な顔立ちを拝みたいというのであれば、エドガーに会えばいい話だ。この世界には、彼以上に美しい男性など存在していないのだから。

「ふぅん。マーガレットはやはりおもしろい女だ」

「お褒めに預かり光栄です」

 漫画やドラマだと、その台詞は恋愛フラグとして有名だ。もしもレギーが私にアプローチをしたら、今度こそエドガーを妬かせることが出来るだろうかと、一瞬悪魔のような思考が頭をよぎる。けれどすぐに頭を振って、煩悩を追い出した。邪な感情がチョコレートにまで移っては、皆の努力が台無しになる。

「いよいよだぞ、マーガレット」

「はい、分かりました!」

 レギーさんの合図と共に、銀製のワゴンに乗せられた美しい造形のチョコレートが、次々に厨房を出ていく。大勢のメイド達がそれを運び、テーブルには置かないまま各人を回るというシステム。その為、ワゴンは色とりどりの花で飾られており、目にも舌にも美味しいという最高のシチュエーション。

 ある程度楽しんだ後は会場が暗転し、あちこちにキャンドルの灯りが灯される。帝国の芳醇高いカカオを使ったチョコレートの香りは、正に一級品。なんと、嗅覚でも楽しめる仕様なのだ。

 私のアイディアを中心に、生徒会役員全員で意見を出し合った。彼ら彼女らはバザーの準備も並行して進めていたから、さぞや苦労したことだろう。全てがつつがなく終了した際には、改めて礼を尽くさねばとしみじみ思う。

 ちなみに、エドガーやアンドリッサなどの見目麗しい人達は、堂々と表舞台に立ちこのチョコレート・パーティーを扇動している。私のようなモブ令嬢に薦められるより、よほど味わいたくなるだろう。甘いもので、バザーの疲れを存分に癒してほしいと思う。

 とはいえ一番の目的は、お忍びでいらしているという帝国の皇子の目に留まること。遊び人で名を馳せているらしい彼が、着飾った女性達ではなくチョコレートに目を向けてくれることを、切に願う。

 そして、エドガーに一目を置いてくれたら万々歳だ。彼が王位を継承する時には手助けをしてくれて、他国と争うことがあれば力を貸してくれて、貿易についてもいい感じに優遇してくれたら、さらに良い。

 今日この日を迎えるまでに一番尽力したのは、間違いなくエドガーその人なのだから。

 

「キャーッ‼︎」

「これは、どうなっているんだ⁉︎」

「私のドレスが、ドレスがぁ……っ‼︎」

 しばらくして、やけにドアの向こうが喧騒に包まれていることに気付く。最初はサプライズが成功したのかと思っていたけれど、どうも様子がおかしい。それは歓声というよりも、悲鳴に近かった。

「た、大変です!」

 チョコレートを乗せたワゴンを運んでいたメイドの一人が、血相を変えて厨房に飛び込んでくる。その場にいた全員が、一体何事かと彼女を注視した。顔面蒼白で声を振るわせながら、叫ぶような声を上げた。

「用意したチョコレートが、全て水浸しに……っ」

「は……?」

「とても召し上がっていただける状態ではなくなってしまいました‼︎」

 呼吸が止まったかと思うほどに、驚きを隠せない。まさかそんな、水浸し?なぜ、どうして、何が起きているのだろうと、脳内がぐわんぐわんと混乱に揺れた。

「事の経緯を説明しろ」

 パティシエリーダーよりも先に前に出たのは、びん底眼鏡のレギーだった。半分顔が隠れているにも関わらず、その雰囲気から明らかに怒りの感情が見て取れる。無意識に手が震えてしまうほど、彼のオーラは凄まじかった。

「は、はい。説明いたします」

 とうとうメイドが泣き出してしまったけれど、レギーの圧は緩まない。彼女は小さくしゃくりあげながらも、しっかりと言葉を選んで簡潔に話し始めた。

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