マーガレットはせっせとお手伝い。
レギーとは、一体何者なのだろう。などと考える余裕は皆無で、私はただひたすらにコキ使われる。
「ほらほら、さっさと並べろ!一人前なのは格好だけか?ああん?」
それも、この男たった一人だけに。
「あれはあちらに、それはそちらに。ああ、くっ付けてはいけません。溶けてしまっては美しい造形が台無しですから」
もはやこれは意地の張り合い、すなわちぶつかり稽古と成り果てた。他のシェフ達は通常の立食メニューに追われているものの、このチョコレート・パーティーを開催するにあたりエドガーが十分な人数のパティシエを手配してくれた。
ということは、私がここまで働かなくても厨房はつつがなく回り、むしろ邪魔をしないようにと気を付けていた。それを許さないのがレギーという謎のコックで、シェフでもパティシエリーダーでもなさそうなのに、誰も彼には逆らわない。なんだか気を遣っているような、そうでもないような。
とにかく、私が半ば理不尽に仕事を命ぜられても、助けを差し伸べてくれる存在は一人もいないと、それが言いたかったのだ。
「マーガレット。お前は、なかなか筋がいい。チョコレートの扱いに慣れているな」
「下手の横好きというやつです」
「いや、センスは他のパティシエに引けを取らないぞ。たまに奇抜過ぎて、頭の構造が心配になるけどな」
「それはそれは、余計なお世話です」
互いに別々の作業をこなしながら、口だけで歪み合う。なんせ目の回るような忙しさで、自身が侯爵令嬢ということも半分忘れて、つい口調が荒くなってしまう。
それにレギーの雰囲気も、軽口を叩きやすくて。気さくだからなのか無礼だからなのか、それは考えないことにする。
侯爵令嬢として生きていると、身内や友人以外は私をそういう地位の人間として扱う。当然だと理解していても、こんな風に対等に扱ってもらえるのは、意外と嬉しいものだ。
「それにしても、マーガレットのアイディアは本当に奇抜だな。そもそも、フルーツにチョコレートをコーティングなんて、人生で初めてだ」
そういえば先ほどから、私はいつの間にかこの男に名前で呼ばれている。訂正するのもおかしな話なので、そのまま話を続けた。
レギーはてきぱきと手を動かしながら、ちらりとときらに視線を向ける。私はチョコレート工場に勤務するただのオタクだったから、パティシエの心得はない。
けれど、彼がどれほど腕の立つ職人であるかということは、素人目に見ても明らかだった。
奇抜だ奇抜だと何度も口にするくせに、簡単なレシピを見ただけでほとんど完璧に再現してしまうのだから。
「あ、あの」
「はい、なんでしょう?」
レギーの傍でせっせと雑用などをこなしていると、不意に話しかけられる。その男性コックはなぜだか焦った様子で、こそこそと私に耳打ちをした。
「あまり砕けた態度を取らない方が……」
「えっ?それはレギーにということでしょうか?」
「しいーっ!あまり大声を出さないで!」
そういえば、私がレギーと話している時他の人達がやけにちらちらとこちらを注視していたような。
「なんだなんだ?俺が男前だって話か?」
「ははは、はいい!そうです!でん……い、いやレギーさんは絶世の美男子だと!ねぇ、マーガレットさん!」
「ははは、はいい!そうです!なぜだかお顔が怖いので、今すぐに止めていただいてよろしいでしょうか!」
ついつられて、あたふたと慌ててしまった。彼は私を置いてさっさと向こうへいってしまったので、それ以上話を聞くことはできなかった。
「で?本当はなんの話を?」
「さぁ……?でんでん虫がどうとか」
「ははっ、なんだそれ」
目の前でからからと豪快に笑っているこの男は、実は怒らせるとそれはもう恐ろしいのかもしれない。そうでなければ、あのシェフの怯えように説明がつかない。
「それにしても……、ううん」
はたと手を止めて、私は正面からレギーの顔をじいっと見つめた。
「急にどうした。頭大丈夫か?」
「失礼な。あの方が、レギーさんのことを絶世の美男子だとおっしゃっていたので、つい観察をしてしまいました」
「お前の方がよっぽど失礼だろ」
もしかしてこの分厚いビン底眼鏡を外したら、真相を確かめることが出来るのではと、無意識のうちに彼に手が伸びる。けれどすぐに、私は自分の使命を思い出した。




