ビン底眼鏡のレギーさん。
「だったら、お前も手伝うか?」
「えっ!よろしいのですか⁉︎」
「そのお可愛らしいドレスを、今すぐに着替えてくるっていうんならな」
若干嫌味のように聞こえるけれど、確かにこの格好で手伝おうだなんて、無理な話だったのかもしれない。
「侯爵家のご令嬢には、そんな真似出来な――」
「もちろん、それはもう、喜んで着替えて参りますわ!」
ぱっと顔を輝かせた私は、返事も待たずに駆け出していく。後ろで「冗談だったのに」というとんでもない台詞が聞こえた気がするけれど、今さら撤回は受け付けない。
「マーガレット!本気なの⁉︎」
「本気よ。ごめんね、ライオネル。また後で必ず着るから」
「いや、それは構わないけど」
慌てて私を追いかけてきたライオネルとロイスが、私の手を握る。二人でぱちぱちと目を合わせてから、ロイスの方がぱっと引いた。
「二人は戻って、アンドリッサ様に説明をしてくれる?」
「怒られると思うな、僕」
「僕も」
それを宥めるのが貴方達の役目じゃないのと、視線だけでそう訴える。理解しているのかいないのか、再度顔を見合わせて大人しく去っていった。
「さぁ、やってやろうじゃない。こうなったら、とことん頭のおかしい女になってやるわ!」
言われっぱなしも腹が立つ。ふん!と鼻を鳴らして気合を入れた私は、ドレスを着替える為に生徒用の控え室へと急いだのだった。
「ぶわっはっは‼︎お前、なんだその格好は‼︎」
やるならとことんをモットーに、というよりもこれは前世からの癖のようなもの。チョコレートを扱う者としては、半端な格好では気が散って仕方ない。
ビン底眼鏡のコックは、戻ってきた私を見るなり涙を流しながら笑い転げる。借りたコックコートに、帽子はキャスケットのような形のものしかなかったので、仕方なくそれに髪の毛を纏めて入れ込んだ。もちろん、前髪を残すなんてことはしない。
「とても年頃の令嬢とは思えないな」
いまだに名残が残っているらしく、バイオレットの髪がまるで馬のしっぽのように揺れている。
「お喋りはこのくらいにして、早速準備に取り掛かりましょう!」
「まさか本当に手伝わせることになるとはな。まぁ、いいか。とことんこき使ってやる」
「お、お手柔らかに」
顔の前にずいっと人差し指を突きつけられ、思わず肩に力が入る。そういえば、先ほどから全てこの男性が決めているけれど、帽子の高さからしてシェフは別にいるはず。よほど腕の立つコックか、もしくはパティシエとしてチョコレートを任されている立場なのかもしれない。
現に、私の口に無理矢理突っ込まれたオランジェットは、初めてとは思えない出来栄えだったし。
「あの、お名前をお伺いしても?」
「あー、名前な。レギーでいい」
「では、よろしくお願いいたします。レギーさん」
こうして私は、誰よりも万全の装備でチョコレート・パーティーの裏方を手伝うこととなった。




