祝賀パーティー本番。
「いやあああ‼︎アン様‼︎なんてお美しいのかしら‼︎頭のてっぺんから足の爪先まで、まるっとまんべんなく纏う空気までが光り輝いていらっしゃるわ‼︎ああ、目が焼けちゃう‼︎」
そう、ひっそりと。それはもう、ひっそりと。
「なんだ、マーガレット。お前はどこにいてもうるさくてよく目立つなぁ」
どん、と頭に置かれたのは肘。リリアンナの幼馴染シャルロが、まるで私を肘置きのようにしながら、からからと楽しげに笑っていた。
「私のどこが目立つというのですか!私なんて、その辺の土だとでも思っていただいて構いませんわ!」
「土にしては自己主張が強過ぎるぞ」
「まぁ、失礼しちゃう!」
ぷいっとそっぽを向くと、さらに笑われた。
「それにしてもダンテスさん。燕尾服が良く似合っておいでですね」
「な……っ!急に褒めるな、馬鹿!」
「失礼でしたか?すみません。見るに耐えませんので見ませんわ」
馬鹿とまで言われては、前言撤回するしかない。くるりと向きを変えてその場から立ち去ろうとしたのに、がしりと手首を掴まれた。
「待て待て!そんなにさっさと行こうとするな!」
「なんですか、もう。ダンテスさんの方こそ、私よりよほど声が大きいです」
「い、いや。俺はただ……、その……」
怒っているのかと思えば、今度は顔を赤くしてもじもじとしている。この人は一体、数分の間に何度表情を変えるのだろうか。
「そのドレス……。ま、まぁまぁだ!」
「はい?」
「ほどほどだ、そこそこだ、わ、悪くはない!」
照れ隠しなのか何なのか分からないけれど、どうやら私のドレスを褒めているらしい。ライオネルのセンスが認められたのは素直に嬉しいので、腰元のリボンがよく見えるようにくるりと一回転してみせた。
「どうです?可愛らしいでしょう?」
にこにこしている私と、口をぱくぱくさせるシャルロ。側から見ると、さぞや不可思議な光景だと思う。
「今夜はどうぞ、ノチェスさんと一緒にパーティーを楽しんでくださいませ」
「お、お前は?」
「私は、少々用がありまして」
この祝賀パーティーでチョコレートを振る舞うのは、サプライズとなっている。特に私が関わっているなど、誰も予想していないだろう。
「では、素敵な夜を!」
「お、おいマーガレット!ちょっとま――」
シャルロには悪いけれど、今は構っていられない。ぺこりと一礼すると、私はしゅたっとその場から立ち去ったのだった。
昼間のチャリティバザーは、見事大成功を収めた。帝国から質の悪いチョコレートを大量に買い付け、それを溶かして固めてラッピングする。
砕いたクッキーを入れたり、少しスパイシーにしてみたりと、この世界では珍しい工夫を施した。こちらについては質よりも量で、徹夜ぎりぎりで用意が完了した為に、今の私には圧倒的に睡眠が足りていない。
けれど、どうやら身体中から変なアドレナリンが放出されてチョコレート・ハイになっているらしい。眠気も疲れも吹き飛び、今なら空さえ飛べそうな気がする。
「マーガレット!」
「あら、ライオネル。それに、ロイスも」
珍しい組み合わせが、私の前に現れる。ドレスの裾を持ち上げ今にも走り出しそうな私の格好に、一瞬目を見張る。けれど次の瞬間、二人は威勢よく腕捲りをし始めた。
「僕も手伝うよ」
「もちろん、僕も」
「そんな、悪いわ。せっかくだし、パーティーを楽しんで」
先ほどから、何人もの令嬢がちらちらとこちらに視線を向けている。人当たりのいい人気者ライオネルはもちろんのこと、妖しい魅力を備えたロイスともこれを気にお近付きになりたいという雰囲気が、ぷんぷん漂っていた。
「僕はマーガレットの役に立ちたい」
「僕はどちらかというと、アンドリッサ様のお役に立ちたいかな」
ロイスは、実に正直者である。
「ありがとう、二人とも。じゃあお言葉に甘えて、一緒に厨房の様子を覗きについて来てくれる?」
もうそろそろ、お披露目するに相応しい頃合いだろう。入念な打ち合わせを重ねたし、あくまで私はアイディアを出す役目。エドガーが、プロのパティシエや演出家をこれでもかと揃えてくれたので、実際のところはほとんどすることもない。
けれど、やはりそわそわしてどうも落ち着かない。二人が傍にいてくれるなら、こんなに心強いことはないのだ。




