まずはお友達から。
この世界に存在するチョコレートは、ひと言で言うと非常にシンプルだ。お菓子というよりも薬という立ち位置に近かったらしく、我が国のものは味もイマイチなので私はいつも他国から取り寄せていた。
それがたまたま、今回のバザーにいらっしゃると噂の皇子がいる帝国だった。その伝手を辿れば、上手く事を運べるかもしれない。つまりは媚を売っておきたいと、言い方を変えればそうなる。
「チョコレートの選別だけには、自信があるのよね」
今思い返しても、工場の仕事は私にとても合っていた。筒状に包装された小さな粒のカラフルなチョコレート。子供の大好きなお菓子として、定番中の定番。ラインから流れてくる何万というその粒を、ただひたすら検品するのだ。
少しでも気を抜けばすぐに流れていってしまうので、そうするとラインを停止させることになる。自慢ではないけれど、私は入社以来一度もストップさせたことがなかった。
この世界で、チョコレートは貴族しか食べられないような贅沢品。パーティーで振る舞うには少々コスパが悪いのだけれど、そこはもう仕方ない。エドガーが主体となっている催しが見窄らしいのは、いただけないから。
それとは別に、製造段階で気泡が入ったり割れたりしているものを安価で大量に買い取る。それを上手く利用して、私のイメージ通りのチョコレートを私の手で作り出す。いや、実際にはパティシエに依頼するのだけれど。
「なんだかわくわくしてきたわ!」
「楽しそうだね、マーガレット」
「ええ、とっても……、って、ぎゃあ!」
なぜか私の足元にしゃがみ込んでいるのは、ロイス・ベスターだった。私と同じくアンドリッサが大好きで、同盟を結んだ中でもある。
「僕も手伝うよ。暇だし」
こちらを見上げるオッドアイは、本日も大変美しい。透き通るような白髪も、思わず手を伸ばしてしまいそうになる。
「友人は?」
「マーガレット以外にいないよ」
「まぁ、可哀想に……」
本当は、そんな風には思っていない。大げさに目元を手で覆いながら、隣にいるアンドリッサにちらりと視線をやった。
「アンドリッサ様!」
私に名前を呼ばれ、肩を震わせる。
「急に大声を出して、驚くでしょう!」
「聞いてください!ロイスには、友人が私しかいないのだそうです!」
「い、いつの間にその方はこの部屋に!?」
その疑問には私も賛同する。けれど今は、そんなことはどうでもいい。
「こんなにも綺麗なオッドアイの持ち主なのに、あまりにも不憫過ぎると思いませんか!」
「オッドアイは関係あるのかしら」
「むしろ、それが原因なのでは?」
横槍を入れてきた生徒会長は、腹が立つので無視することにする。
「ぜひ!それはもうぜひに!アンドリッサ様がロイスの友人になって差し上げたらいかがでしょう!」
「友人とは薦められてなるものなのかしら」
「細かいことはお気になさらず!」
アンドリッサは、こう見えて押しに弱い。偶然訪れたこのチャンスを、逃す手はない。
「マーガレット、コンドルセ様を困らせちゃダメだよ」
ほんのりと頬を染め、私の制服の裾をちょいちょいと引っ張るロイスの、なんと可愛らしいことか。
「違うでしょう、ロイス!友人同士ならばファーストネームで呼び合わなければ!アンドリッサ様も、そうしてくださいますわよね!」
「一体どうしたの、マーガレット。今日はいつも以上にどうかしているわ」
「このパーティーを成功させる為に、人手は多い方がいいのです。ロイスに手伝ってもらうには、友人であった方が効率がいいではないですか」
我ながら、意味不明な言い分だと思う。
「あ、あの!」
私の後ろに隠れていたロイスが、おずおずと顔を出す。昔アンドリッサに助けてもらって以降、ずっと彼女のことが好きという一途ぶり。普段無愛想なミステリアスイケメン・ロイスは、ピュアで天然であざと可愛い。
ゲームをプレイしていた時とは全く違う彼の姿は新鮮で、とても楽しい。
「ぼ、僕でよければ……、その。よろしくお願いします。ア、アンドリッシャしゃま……」
「ぐ、ぐうぅぅ!」
大事な所で噛んでしまうなんて、どうしようもなくきゅんとする。当のアンドリッサは、悶えている私の方を不可解そうに見ている。ロイスの気持ちには全く気が付いていないようだった。
「確かにマーガレットの言う通り、手伝っていただけるのなら助かるわ」
「は、はい!なんでもします!」
「よろしくお願いいたします。ロイス様」
名前を呼ばれた本人は、魂が抜けたかのように呆けている。私はぴょんとジャンプして空を掴み、それをロイスの口に押し込んだ。
「貴女達はさっきから何なの」
「私達はただ、このパーティーの成功を心から望んでいるだけです!」
「はぁ、そう」
ロイスのせいで思いきり脱線してしまったが、彼がアンドリッサとお近付きになれることも、彼女に新しい友人が出来ることも、私にとってはどちらも嬉しい出来事だった。




