さぁ、準備を始めましょう。
その日から私の日常は、実に目まぐるしいものへと変化していった。本音を言えば、あの時はエドガーの力になりたい一心で無鉄砲に飛び出し、深く考えてもいなかった。私が好きなものといえば乙女ゲームとチョコレートくらいしかない。
思いつきの提案が採用され、彼にいいところを見せようと気合を入れたはいいものの、企画を立てそれを実行するということは、生半可な覚悟では到底務まらない。
「フォーサスさん!このデザイン案は昨日までにと、お願いしたはずです」
「す、すみません。生徒会長」
「すぐに取り掛かってください。その後すぐにパティシエとの打ち合わせですから、もちろん貴女も同席を」
「ふぁ、ふぁい……」
大好きなチョコレートをふんだんに使ったパーティーなんて、きっと夢のような光景。それ自体に労力を使うのは全く苦にならないのだけれど、生徒会長の人使いが荒過ぎる。エドガーの前にいる時とは別人で、鬼のように私に仕事を振り分けてくるのだ。
後日偶然判明したのだけれど、彼はリリアンナの手先らしい。彼女を女神と慕い、私は完全に敵と見做されている。ないことないこと言いふらされて、会長の想像する私は『地味顔の悪女』となっている。
とはいえ、どんなに気に入らなくてもこの計画を潰すことは不可能。そんなことをすれば、エドガー殿下の顔に泥を塗ることになり、生徒会長としての責任も問われるかもしれない。それに、彼は元々人を苛めるタイプではなさそうだ。慣れていないのが丸分かりなので、こちらもあまり責める気になれない。
「マーガレット。私も手伝うわ」
「ア、アンドリッサさまぁ……」
「いやね、情けない声を上げて。自分が言い出したことなのだから、もっとしっかりしなさい」
生徒会室のドアががらりと開き、そこから颯爽と現れたのはアンドリッサ。相変わらずの美貌と芳しい香り。ひと足先に十五歳となった彼女は、日々妖艶な美女へと成長を遂げている。
「声が外まで漏れていたけれど、生徒会長はマーガレットに対して随分と心を許しているみたいね」
長いまつ毛に縁取られた彼女の力強い瞳が、ちらりと会長に向けられる。彼は途端に体を硬直させ、その細い指をそわそわと忙しなく動かした。
「ぜひ、私にもそうしていただけないかしら」
「め、滅相もない!公爵令嬢であるアンドリッサ様にそんな失礼なことは……」
「マーガレットは特別というわけなの、私を差し置いて」
「ひ、ひへぇ……」
声にならない声で、彼は力なく首を振る。アンドリッサは見事に会長を一蹴すると、目の前に置かれた資料の山に手を伸ばした。
「ああ、アン様……。なんて素敵なの」
私の為お灸を据えてくれたのだと、すぐに分かった。うっとりと両手を握りながら彼女を見つめる私にも、鋭い視線が飛んでくる。
「貴女も、だらだらしていてはあっという間に当日よ。ただでさえ時間がないのだから、気を引き締めなさい」
「もちろんです、私の騎士様」
その言葉を聞いた彼女は至極嫌そうな表情を浮かべたけれど、手はしっかりと作業を開始している。さすがアンドリッサだと感心しながら、私も負けじと仕事に取り掛かったのだった。




