リリアンナの不可解な言い分。
その日から、案の定リリアンナとその取り巻き達の当たりが一層厳しくなった。それでも主に小言を言われるのみで、たとえば突き飛ばされたり物を隠されたりといった物理的な攻撃はしてこない。
昔から疑問に思っていたのだけれど、リリアンナは口では悪態を吐きながらも超えない一線がある。私が侯爵家の令嬢だから、さすがに不味いと思っているのか。
見た目だけは一級品である自身のイメージを損なわないよう努めているのか、真意は謎に包まれている。
「以前、ご忠告差し上げたでしょう?調子に乗っていると、痛い目を見ることになると」
すれ違いざまに絡まれた私は、臆することなく彼女に向き直る。
「自身が恵まれているとも知らず、本当に傲慢な人だわ」
「仰られていることの意味が分かりません」
「こんな地味顔の一体どこが良いというの」
彼女からしてみれば、確かに私は地味顔。いや、平均的に見てもそうなのだけれど。
「エドガー様に相応しいのはこの私なのよ!」
「殿下にはアンドリッサ様がいらっしゃいます」
「ふん、いけしゃあしゃあと。貴女だって、彼女から奪おうと狙っているくせに」
そう言われれば、さして反論出来ない。婚約者のいる男性に、気持ちを伝えようとしているのだから。
ぐぐっと推し黙る私を見て、リリアンナは勝ち誇ったように顎を持ち上げた。
「本当、貴女ってドブネズミみたいに逞しいわよね。私がどんな意地悪をしても、けろっとした顔で過ごしているのだから。それとも、誰か雇って私の行動を監視しているの?」
「さい?なんの話ですか?」
「まぁ。そうやってとぼける顔すらも、平凡でつまらないわね」
そういう貴女は、意地悪な表情すらも可愛らしいですね。まったく、うらやましいったら。
いや、それよりも。彼女の言っていることが理解出来ないのは、どうするべきだろう。確かに、顔を合わせれば嫌味ばかり投げつけられるが、嫌がらせらしい嫌がらせはされた記憶がない。
ああ。取り巻き達に足を引っ掛けられたり、わざとぶつかられたりしたことはあったかもしれない。後は、魔法学の授業で起こったトラブルを私のせいにしようとしたり。
とはいえ、私がリリアンナだった頃アンドリッサに散々苛められたので、どれも大したダメージは食らっていない。
あの時のアンドリッサときたら、それはもう血も涙もない行いだった。私を鞭打ちしながら愉悦の表情を浮かべる彼女の姿を思い浮かべると、今でも背筋が震える。
そんな経験を何度も何度も繰り返した私には、おおよそほとんどの苛めに耐性があるのだ。
そういうわけで、リリアンナは面倒なだけで脅威にはならない。
「私の完璧な作戦を上手くかわしたり、潰したり、時には私にやり返したり!」
「はい?そんなことはしていませんが」
「ああ、もう!やっぱり大嫌いだわ!」
それは、こちらの台詞ですが。
「ねぇ。貴女は本当に、エドガー様のことをお慕いしているの?」
不意に、リリアンナの表情が曇る。いつになく真剣なその標準に、内心戸惑っていた。
「ノチェスさんには、関係ありません」
「私はあの方を手に入れる為なら、貴女を殺すことも厭わないわ」
それは、完全なる殺害予告。私の心は恐怖に震えるどころか、非常に妙な感覚に包まれる。
「それほどに、エドガー様を愛しているの」
「だったら」
どん!と鈍い音を立てて、私はリリアンナを廊下の壁に追いやる。顔のぎりぎりに突いた手を、そのままゆっくりと彼女の心臓に当てる。
「人を殺めるのではなく、貴女自身の命を賭けてはいかがです?」
微笑みながらそう告げると、リリアンナの喉がひゅっと小さな音を立てた。




