マーガレットの提案。
「あ、あの。エドガー殿下」
「彼女は僕が呼んだんだ。こんなこともあろうかと、ね」
普通はないだろう。と、内心誰もが思った。けれど彼は、得意の王子スマイルでそれを一蹴する。
「マーガレットは、発想力に優れた子なんだ。今も、きっと良い案をくれるはず。そうだろう?」
「あ、は、はい!もしお役に立てるならばと思って」
「ぜひ聞かせてくれ」
穏やかなその口調に、思わず泣いてしまいそうになる。昔からずっと、エドガーは私を助けてくれる。それは、時が経っても何も変わらない。
熱い頬を隠す余裕もないまま、こほんと一つ咳払いをする。前世では目立つことが何よりも苦手だった私が、大勢に注文されながら発言するなんて、気を抜けばくらくらと倒れてしまいそうだ。
けれど彼に後押しされ、私は意を決して口を開く。もともと勝手に割って入ったのは自分なのだから、もうやるしかない。
「チョコレート・パーティーを開催してはいかがでしょう」
「チ、チョコレート・パーティー?」
「一体どういう意味なんだ、想像がつかない」
ざわざわとどよめく生徒達を見ていると、ぎゅうっと心臓が絞られる。それを胸の奥に押し込み、手近にあった用紙にさらさらと書き込んでいく。
「チャリティバザー当日の夜、祝賀パーティーが開かれるのが慣例ですよね?そこに、皇子殿下はいらっしゃるのでしょうか」
「詳しいことは分からないけれど、婚約者探しという意味合いであればきっと参加されるんじゃないかな」
「でしたらそこで、チョコレートを使った料理やデザートを振る舞いましょう。帝国では原材料となるカカオの生産量が多く、この国よりも優れた加工技術が盛んだとか。帝国から輸入したカカオをふんだんに使用すれば、こちらの友好意思を示すのにもってこいでは?」
「カカオが特産品だからこそ、中途半端な品は振る舞えない。機嫌を損ねてしまうともっと厄介なことになるから」
「そうならないように工夫を凝らしましょう。もちろん私もお手伝いさせていただきますし、皆で力を合わせればきっと成功するはずです」
ぐっと拳に力を込め、無意識のうちに前のめりでアプローチする。周囲がしんと静まり返ったことに気付き、私は慌てて「あくまでご提案の一つです」と付け加えた。
「いかがでしょう、殿下。僕は、あえて帝国の特産品を扱うリスクを負う必要はないと思うのですが……。もちろん、チョコレート自体はパーティで振る舞われる予定でしょうし」
生徒会長が、遠慮がちにエドガーの顔を覗き込む。
「確かに、会長の言い分も最もです。けれど僕は、やる価値はあるのではと考えます」
「私も、殿下のご意見に賛同致しますわ」
彼に続いて、アンドリッサが間髪入れずにそう口にする。途端に会長の顔色が変わり、こくこくと首を思いきり上下に振った。
「殿下がそうおっしゃるのであれば、ぜひともこの方のアイディアを拝借させていただきましょう」
「で、ですが……、よろしいのですか?」
飛び込んでおいてなんだが、確かに政治的なあれやこれやまで念頭に入れていなかった。ただエドガーの役に立ちたい一心で、浅慮だったと今さら怖気付く。
「殿下のご迷惑になるようなことは……」
「君が力を貸してくれるんでしょう?」
「は、はい!それはもちろん」
「だったら大丈夫。マーガレットのチョコレート中毒振りは、昔からよく知っているから」
おかしそうに笑いながら、こちらに向ける眼差しは優しい。どくどくと高鳴る胸を必死に押さえつけながら、小さく頷くだけで精一杯だった。




